転生貴族は分家として気ままに生きたい

持是院少納言

プロローグ

 大広間の中は喧騒で溢れ、その殆どが祝福と未来の繁栄を寿いでいた。

 何故、大広間の中で祝われているのかと言えば、婚姻のパーティーが開かれているからである。パーティーはヴァルテンハイン伯爵家本家の居城で執り行われており、伯爵家世子(跡継ぎ)の婚姻であった。

 そのため、ヴァルテンハイン伯爵と花嫁の実家に関連する貴族家やヴァルテンハイン伯爵家の分家当主たちが集まっている。

 花婿である世子と花嫁の席の周りは、祝いの言葉を述べる客が列を成しており、当主である伯爵本人もまた来客の対応に忙しくしていた。


「げふぅ〜ぃ、世子殿はそれなりの嫁を迎えた様でまずまずってところか……」


 大広間の端の方で分家たちが集まるテーブルにて、ヒゲ面の肥った中年の男がゲップをしながら、上から目線で本家の婚姻を評価する。


「同じ伯爵家とは言え、もっと一族全体に恩恵のある相手がいたのでは……」


 痩せ気味のヤギ髭の老人が、一族の利益がイマイチなのか不満を呟いていた。老人は神経質なのか、キョロキョロと忙しなく目配せをしている。


「はぁ~……」


 そんな2人に両脇に挟まれ、溜息を溢す青年がいた。分家たちの席を見渡せば、デブ親父、老人、青年の様子を伺いつつ歓談をしている。

 この3名はヴァルテンハイン伯爵家の分家筆頭格の三家当主であり、周囲の分家たちは気を遣わざるを得なかった。

 有力分家の当主たちには、そこから更に枝分かれした分家や新たに伯爵家から分家として分かれた家の当主たちも気を遣わざるを得ないのは当然である。そして、伯爵家本家の当主でさえ配慮せざるを得ない存在であった。


(分家連中が集まる本家の催事は本当にイヤだなぁ……)


 青年は横に座るデブ親父が食べ終えた肉の骨を床に投げ捨て、床に敷かれた藁の上に骨が転がるのを横目に見つつ、不満を抱く。

 隣の老人が落ち着きない様子も青年の神経を常に刺激していた。

 周囲の分家連中は2人を何とかしてくれと目配せをしてくる。遠くにいる伯爵本人でさえ、青年の方を時折見ては目配せをしていた。


(俺が当主になってから、ずっとこうだ……)


 父が身体を壊して分家当主の地位を譲られてから、有力分家である両者の執り成しや分家の取り纏めなど押し付けられ、青年は貧乏くじばかり引かされている。


「本家の世子も花嫁を迎えたんだ、そろそろレオも嫁を迎えた方が良いんじゃねぇか。親父さんも孫の顔を見てぇだろ。ガハハハハ」


 デブ親父が青年をレオと呼び、レオの婚姻はまだかと無神経な言葉を投げかけた。


「グライスハーヴェンのも早く嫁を取らねば、我ら三家が二家になってしまうぞ……」


 老人はレオをグライスハーヴェンと呼ぶ。老人の三家が二家になってしまうという冗談とも取れぬ言葉に、周囲の分家連中は表情を変える。

 ヴァルテンハイン伯爵家の有力分家三家の内、二家の当主は厄介者が多く、レオのグライスハーヴェン家が調整や取り纏め役になることが多い。

 特にデブ親父と老人の家は仲が悪く、二家になったら伯爵家内は2つに分かれて対立する可能性があった。

 そのため、殆どの分家がレオも早く花嫁を迎えて欲しいと言う目で視線を向けている。


「はぁ〜……(穏やかなスローライフを過ごしたい)」


 そんな分家連中の視線を受けて、更に溜息を吐くの青年の名はレオポルト・フォン・ヴァルテンハイン=グライスハーヴェンと言う。

 若くして有力分家の当主となったレオポルトは穏やかなスローライフを送れるのだろうか……?

 それはまだ誰も分からない……。

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