第15話出会い
翌日は休みの日だったので、町の下着店へ行く事にした。
学び舎の帰りよりは、休みの日の方が落ち着いて話が出来そうだったから。
家を出るとジロウが魔道具を売るため町へ行くところだったので、乗せて行ってもらう。
「時計の部品が難しくてよぉー。細かいのなんのって。」
ああ、そうだよね。時計技師さんって知識と技術の塊のような印象がある。
魔道具として作る場合も、それなりに部品が必要だろうなぁ。
「ある程度決まった部品だったら、一か所で部品ごとに大量生産で出来上がったものを買って組み立てたいですよね。」
「なんだ?その大量生産ってのは。」
「一人で一つの道具を作るのではなくて、部品ごとに作る班があって、それを集めたら品物が出来上がるという感じの工場?例えば、呼び出しの魔道具だった場合、木を切る人、切った木を小さくする人、魔石を埋め込む穴を作る人、魔石を入れて完成する人といった感じで、仕事を分担する事かなぁ。」
「ああ、そうなると魔道具師じゃなくても仕事に関われるな。」
「材料の在庫管理や販売が大変だと思いますけど、いっぺんに大量に普及させたい時にいいと思います。」
以前の世界で自動車を流れ作業(ベルトコンベア方式)で作ったのが最初だったかな?
「ちっさいのに色々考えてるんだな。」
「小さいなりに頑張ってます。」
「はははっ。」
ジロウと別れて下着店に行く。
店に入ると男性客が数人いて、会計を待っている所だった。
やはり女性より男性に人気があるのか。
邪魔にならないように女性下着の売り場に移動して待つ。
お客さんがいなくなったところで、ミヨの母親が私を奥に案内してくれた。
「しのさん、よく来てくれたわ。男性用の下着を作ったら生産が追い付かないくらい売れ行きが良いの。型紙を作ってくれてありがとう。」
「いえ、どういたしまして。」
「女性用は時々こっそり買いに来る人がいる感じかしらね。使ってみれば良さがわかるけれど、こればっかりはなかなかね。 そうそう、しのさんが話をしていたゴムについてだけれど、衣類に使えるほど細いものがまだ出来ていなかったようなの。これからの需要を考えて、作ってみるという話だったわよ。」
おおぅ、大人の情報網は侮れない。しっかり各方面に問い合わせてみたようだ。これからの進化に期待が出来そう。
「それから胸当ての型紙もあったら描いて欲しいのだけれど。」
「胸当てですか、材料をどれにするかも難しいのですが、ものによってはきちんと大きさを測らなきゃいけないのもあったりするんですよね。そう言うのは追々という事で、布で作るもので良いでしょうか?」
「よくわからないけれど、まずは娘達が今後困らないように作りたいわ。」
そうだよね、色んな商品が世の中にはあるけれど、大抵は身近な人に使ってもらうために出来ていくものが多い。
今回のパンツも、私個人が切実に欲した結果だし。
ブラジャーは胸を保護する上で凄く大切な物だけれど、最初に作られたのってハンカチとリボンで作ったのが原型だったと下調べ(検索魔法)で出ていた。
ブラジャーの場合はホックが欲しいな。
足袋があるなら、足袋のホック・・・こはぜっていうんだっけ、あれの応用型と言えば通じるかなぁ?
サイズの測り方と型紙を何種類か転写して、作ったものを試着してみるという方向で話が終わった。
本格的に下着専門店になるようだ。
縫い物が得意な人が作った品を見たかったので、男性用のパンツを一枚購入して店を出た。
布屋さんに立ち寄り、ネグリジェ用の布を買う。
身長が伸びても着られるように長めに購入する。
着々と使える物が増えていくのが、文明を取り戻した感じがしてちょっと嬉しい。
女将さんに下着店について聞かれたので、パンツをお勧めした。
買い物の後は塀の魔道具に魔力を入れて、村の方に向かって歩く。
途中の分岐で別の町、ウレシを目指す。
ちなみに、私が今住んでいる村は、義叔父さんがいた頃は開墾村だった事もあり、名前が無かったようだ。今はカーチと呼ばれているそうだけれど、昔からの人は開墾村と言えば通じるみたい。
その影響かマサさんもキヨさんも『村は村だ』という感じ。
学び舎や布屋さんがある町はソーギという。
身体強化を使って歩くけれど、やっぱり靴は歩きやすい。
二足目も同じ形にするか、違う形にするか悩ましいなぁ。
今の靴が小さくなったら、修復して村の誰かにお下がりにする事になりそう。
それはそれで良いかもしれない。
るんるんるんと鼻歌を歌っていると、ウレシに着いた。
ここは初めての町なので、通りすがりの人に革屋さんや布屋さんの場所を聞く。
まずは革を取り扱うお店に行く。
地域が近いせいか、取り扱う品はほぼ同じっぽい。
駆除時に穴が開いたお手頃価格の革を選んでお会計すると、お店の男性が私のカバンに目を付ける。
「嬢ちゃん、その鞄、見せてもらってもいいか?」
「良いですよ。どうぞ。」
「ほぉ、ジッパーがついているのか。革で作った鞄につけても良さそうだな。」
うんうんと頷く。
私が握っている財布以外はインベントリに入れていたので、男性は空っぽの鞄を矯めつ眇めつしている。
そういえばと思い、バックルについて聞いてみた。
ベルトの留め具としていくつかの種類が金物店で作られているという。
鞄の紐を長くしてバックルで調節したら、成長しても使えそうだ。
買った革を鞄に入れるようにしてインベントリに収納し、教えてもらった金物店に行く。
そこでバックルをいくつか見て、気に入ったものを一つ選ぶ。
金物店ではジッパーの需要がじわじわと増えていたそうで、理由がわからなかったらしい。
私の鞄と財布を見て『なるほどなぁ。』と言った後『こりゃ生産を増やさねぇとな』と呟いていた。
布屋さんでは財布に注目され、じっくりと観察された。
その内ここの布屋さんでもジッパー付きの財布が売られる気配がする。
町の塀の魔道具に魔力を入れ、公衆トイレから自分の部屋に戻った。
村の塀にも魔力を入れて、お昼ご飯を食べた後、玄関でマサとキヨの草履のサイズを確認して木の板にメモしておく。
それからいつものようにジロウの所で付与魔法を行った。
空いた時間にネグリジェの型紙を転写して、布を切り、縫い始める。
「ネグリジェが出来たらTシャツとチノパンは甕に返却できそうだけれど、お金はまだ貯まらないから、まとめて一緒に返そうかな。」
金貨が貯まるまではまだまだかかりそうだ。
就寝前に山の上に転移する。
ホーホーとフクロウの鳴き声を聞きながら、いつもの独り言。
「靴下が出来上がったら手芸魔法を覚えたよ。叔母さん達から聞いたことが無い魔法で驚いちゃった。今度はネグリジェを作るつもり。これで衣類は返せる目途がついたよ。お金の返済はもう少し待ってくださいね。少しずつ貯めているから。」
星空の下でぽつりぽつりと話し、日記を書いた方が良いかな?と思い始める。
叔母夫婦がお互いの連絡のために書いていた手紙を見せてもらった時、知らない世界でどう過ごしていたのかがよく分かったんだよね。
私の場合は帰れそうもないけれど、振り返ってわかる事もあるかもしれないから、日記として箇条書きするのもありかもしれない。
さて、そろそろ戻ろうかなという所で、スーッと黒い影が目の前を過った。
黒い影は浄化の魔道具に止まる。
「鳥?」
黒い影は魔道具の魔石部分を口ばしでツンと軽く突く。
「あっ!そこを触ったら人になっちゃう・・・か・・・も?」
鳥は人にならなかった。
そっと近くに行くと、ぐるんと首が回ってこっちを見る。
あ、この動き、フクロウだ。
「君、うり坊だった子?」
し、し、しゃべった・・・え、フクロウってオウムやインコみたいにしゃべるんだっけ?
驚きすぎて固まっていると、更にフクロウが言葉を紡ぐ。
「ここに何度も来ているよね?」
覚えた単語や言葉ではなく、明らかに会話しているような気がする。
ちょっとだけ立ち直って返事をしてみる。
「えっと、元うり坊のしのと言います・・・。時々ここに来ています。」
フクロウは身体ごとこちらに向き直る。
「そうなんだ。ねぇ、どうして人間になったの?」
それを聞かれても答えを持ち合わせていない。
「分からないです、その魔道具の魔石部分に触れた翌朝にはこの姿になっていて・・・。」
「ふーん、俺が口ばしで触っても人間にはならなかったなぁ。話せるようにはなったみたいだけど。」
随分流暢に話をするフクロウだ。
「もしかして、以前は人間だった・・・?」
自分を振り返って聞いてみる。
「うん、少し前にこの魔石に触れて人間だった時の記憶を思い出したよ。その後に君が来て、人になっていたから驚いた。」
なんという事でしょう。
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