神の剣はスライムさえも倒せない

荒頭丸

神の剣はスライムさえも倒せない。

「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。」


またかよ。


俺の名前は一朗太。職業、勇者(仮)。


さっきスライムに殺されて、リスポーンポイントという名のクソ神の部屋に戻ってきた。


目の前にいるのは神様を自称するおっさんだ。


神っぽい服装ではなくサッカーシャツに下はジャージとサンダル。

やつのシャツの肩口には星が刻まれている。


俺の死亡回数だ。


クソ神は嬉しそうに新しい星を肩口に貼り付け満足そうだ。

ブラジルのワールドカップ優勝の数じゃねぇんだよ、俺の命は!


死ね! 俺の代わりに死ね!


「これで何度目じゃ? 貴様には勇者としての自覚が──」


「はいはい、それ毎回聞いてる。てかさ、おっさん。そもそもこの武器で戦えってのが無理じゃね?」


俺の腰には神剣パラサイト・ヴィジョンがぶら下がっている。


曰く──「閲覧数によって攻撃力が変動する神の剣」らしい。


……閲覧数って何なんだよ?

いやマジで。


魔力? 霊力?


ちなみに今の閲覧数は──ゼロ。


つまり攻撃力も──ゼロ!


「俺がよぉ、スライムを何百回ぶった斬ってもピンピンしてるんだけど!?」


「貴様に人望が足りんからじゃ。人望があれば、閲覧数も伸びるのじゃ!」


「ちょっと待てって。 いい加減真面目に説明しろや! こっちはもう8回も死んでるんだぞ!」


「そうじゃ! 貴様も読者にアピールせい! もっと滑稽に! もっと華麗に! もっと、バズれ!!」


 聞いちゃいねぇ。

 いやしかし、新しく読者っていうワードが出たぞ。

 8回目にして"初"だ。


「いやだからその“読者”って誰だよ!? 村人とか王様のことか!? 何を読むんだ?」


「さぁ、もう行け! 今度はすぐ戻ってくるでないぞ! 」


そう言いながら神の手には新しい星が握られていた。


人の死を予定してんじゃねぇよ!


「ちょ、やめ、まともな武器を──」


ぽちっ。


おっさんが目の前の赤いボタンを押すと、例によって俺の足元の床がぱかっと開いた。


ギミックが古い!

昭和のバラエティかよ!


またしても異世界転生完了。


落下の末、地面に転がって目を開けると──


「……よぉ、また会ったな、スライム」


さっき俺を殺したスライムが、そこにいた。相変わらずのやる気ゼロフェイス。


「さて、PVは……」

俺の視界に映る謎のカウンターに視点を合わせる。


PV     0

ブクマ    0

★      0


\ゼロ!!/


ですよね!

わかってたよ、馬鹿!


つまりこの神剣PV《パラサイト・ヴィジョン》の攻撃力も当然ゼロ!!


刃渡り1ミリ。

彫刻刀未満。

ふっ、銃刀法だって俺を捕らえることは出来ねぇぜ!


なのにこの神剣、手から離れない。

呪われてやがる。

寝てても握ってる。風呂でも握ってる。


もちろんトイレでも一緒。

ラブラブすぎてツラいぜ。


この手でケツを拭く身になってみろよ。

いつか神で俺のケツを拭いてやる、クソが!


これを“神の祝福”と呼ぶなら、俺は神を呪ってやる!


そう、雪国育ちの友人が言ってた。


「装備がなきゃ雪かきなんて無理だってばよ」


勇者だって同じだ。


このクソ剣じゃ……ただの人だ。


どうすりゃいいんだよ、マジで。


スライムが無気力な瞳を浮かべてこっちによってくる。


やべぇ、一旦逃げるぞ!


とりあえず読者だ! 逃げながら読者を探すぞ!


どういう意味かもわからんが、とりあえず人を見つけよう。


俺はスライムから逃げ出しながら人を探す。

だがこの森には人っ子一人いねぇ。


崖に追い込まれた絶体絶命の俺!

スライムがじりじりと近付いてくる。


クソ、九回目か?


そう覚悟を決めた時、神剣PVは光りだすのだった!


俺の視界に映る謎のカウンターが勢いよく回り出す。


PV     28

ブクマ   0

★     4


怪しげなファンファーレと無機質な音声が天から聞こえてくる……


――system message――

 神剣PVに新たな力が注がれました。

 刀身が0.28ミリ伸びました。

 攻撃力0.28あがりました。


 小数点以下の切り下げを実施しました。


「おぃいいい! 最後いらんことしてんじゃねぇ! もともとあった刀身もなくなってるじゃねぇか!」


俺は忌々しい神剣をぶん投げようと全力で振りかぶる。

だがそれはもはや身体の一部のようにガッチリと固定されていて投げることも出来ない。


――system message――

それを捨てるなんてとんでもない!


「くっ! ムカつく!  柄だけでどうしろってんだ!」


――system message――

★が追加されました。

神からの贈り物があります。


「おぉ! 贈り物!」


天から太陽の光に反射して光り輝く星のようなものが落ちてくる。


パラパラ……

色とりどりのそれは手のひらに収まり、少しだけ俺の鼻腔を甘く刺激する。


「綺麗な色とりどりの金平糖。 フフ、嬉しいなぁ。 疲れた時には甘いものっていうからな!」


殺す! 絶対アイツ殺す! ただじゃおかねぇ!


この金平糖、全部アイツの鼻に突っ込んで鼻毛に絡めて二度と取れなくしてやる!

 

「あ、やめて! ちょっ! まっ!!」


俺の決意よりも早くスライムが身体を飲み込み始める。


ニュルニュルと穴という穴から体内に侵入される感覚が気持ち悪い。


九回目の人生がそこで終わった。



ここはリスポーンポイント。


何処までも広がる白い空間、そして会議机に事務椅子。

そこにコーヒーを飲みながら、ニヤけたツラを浮かべるおっさん。


「おお、勇者よ。 死んでしまうとは情けない。」

「おまえ、本気で死んでしまう原因が俺にあるとでもおもってんのか?」


神が嬉しそうにシャツの肩口を見せてくる。

輝く9個の星。


俺の人生が終わった回数だ。


「つうか、なんで俺なんだ? どういう嫌がらせでこんなことをさせられてるんだ、俺は?」

「なぜと問うか……それは貴様が今、もうしたとおりじゃ!」

「はっ?」

「嫌がらせじゃ!」

「こいつ、マジで頭がおかしい。」


「さぁ、もう行け! 今度はすぐ戻って来るんじゃないぞ!」

「待て! この金平糖をぉぉおおおお〜~」


 パカッ。

 

 ――system message――

 10回目の転生になりました。

 お誕生日おめでとうございます。


「システムメッセージまで煽ってくんのかよ……」


っていうか、もう既に片足がスライムに喰われている。


「おまえもちょっとは空気読んだらどうだ? ガチャピンぐらいやる気ない目してるくせになんで殺す気だけはまんまんなんだよ……」


あ、駄目だ。


俺の死が見える……


混濁する意識の中、例のカウンターが音をたて回り出す。

 

PV     51

ブクマ   0

★     4


――system message――

神剣PVに新たな力が注がれました。


刀身が0.23ミリ伸びました。

攻撃力0.23あがりました。

小数点以下の切り下げをじっ……


「まてまてまて! いったん落ち着こ! チルチル!」


――system message――

どうかされましたか?


「一回足そ! それ! なんだっけ? PV? 一回足そ?」


――system message――

足すとは?


「前回0.28だろ? 今回0.23じゃん?」


――system message――

はい。 まさか足すとは……


「そう! 足して0.51! このままじゃどうにもならなくない?」


――system message――

まぁ、仕方ありません。 

たしかに物語上、何回も同じ展開では飽きられてしまうかも知れませんし。


「物語? 俺、読まれてるの? 誰に?!」


――system message――

では……改めて。


神剣PVに新たな力が注がれました。

刀身が0.51ミリ伸びました。

攻撃力0.51あがりました。

切り上げを実施しました。


「おぉぉお! 切り上げ!! そんな優しさが!!」


――system message――

刀身が1ミリになりました。

攻撃力が1になりました。


「うぉおお!! 帰ってきた! 俺の刃が! 全てを切り裂く俺の刃が!!」


胸の前で神剣PVを強く抱きしめる。

この世界に来て優しさなんて感じたことはなかった……


それが!


「って1ミリじゃどうしようもなくない?」


――system message――

はい、どうしようもありません。


「そうか、おまえもあのじじぃ側だな!」


――system message――

そこにお気付きになられるとは……するどい!


「テメエらの血は何色してんだぁああああ! あ、まって、スラちゃん! 落ちつい……ガボガボ」

あぁ、意識とともに俺の体も溶けていく……


スライムの中から見える景色は、キラキラ光って綺麗だった……



――

例の部屋。


机の上には饅頭とお茶のセットだ。

くちゃくちゃと音をたて饅頭を貪り、ズズズと茶をすする神。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。」


「情けなくてすまんな。 でもおまえは凄く楽しそうだな。」


半笑いでいつもの台詞を宣うおっさん。


今回はサングラスで目元を隠しているが口元のニヤけっぷりであいつの表情は丸わかりだ。


ん?


なんか手招きしてる。 なんだ?

おっさんはサイドチェストのポーズで何かをアピールしている。


やつの肩口に注目してみると……


「星がデカい!!」

「うむ。 10回記念であるし、回数は見た目でもわかりやすいように10個目は大きくしてやったのだ。」

「うわぁ、嬉しいわ。 自分の中の殺意もどんどん大きく膨らむわ。」


「そうそう、今回の分の金平糖と……」


 3つ、金平糖を手渡しされる。


「ブックマークの……」


 なんだ? この緑のやつ。 いや、当然見たことはあるけど……


「バランじゃ。」

「やっばりかよ!!」


――system message――

説明しよう! バランとはお弁当のくぎりに使われる緑のアレである!

 

ブックマークの形に似せるため、わざわざ加工してあるのさ!


コイツら、殺意しかわかねぇ……


「こんなものをもらって、どうしたらいいんだよ! クソが!」


「どうしたらも何も、貴様が面白ければ読者も増えよう? さすればこの地獄からも抜け出せよう!」

「おまえ、今、はっきりと地獄っつったな! お互いが初めて共通の認識を持てて俺は最高に幸せだよ!」

「んでは、今回も頑張るんじゃな。」


おっさんはニッコリと微笑み、サムズアップ。

いつかその親指をへし折ってやるからな!


おっさんはサムズアップした指を、一度自分の首を掻っ切るモーションを入れてから、さらに下に向け、いつもの赤いボタンを押す。


あぁ、いつか俺もおまえをぶっ殺してやるからな!!

 

「覚えてろよぉぉおおおおおお〜〜〜」


ここは異世界だ。


いつもの森にいつものスライム。


「よう、スラリン。 今日も殺る気とは裏腹にやる気のない目だな!」


「スラリンもさぁ、毎回毎回俺ばっか食べて飽きない?  ちょっとは違う食べ物にしたいよなぁ。」

「オレサマオマエマルカジリ。」


「かじってないじゃん? 毎回溶かしてるじゃん?」

「僕は悪いスライムじゃないよ。」

「キャラ安定させよ! 話はそこからじゃない? 俺は本当のお前を見てみたいよ。」

「人のこと、ガチャピンの目っていったこと、忘れてない。」

「そこ、根に持つんだ。 っていうか人なの?」


スラリンがじりじりと距離を詰めてくる。

俺は手元の神剣に目を向ける。


やっぱり無理だよ!

俺の心は絶望に黒く染まっていく……


「俺はこの世界で死に続けるしかないのか……」

「そんなことはない!!」


その時、俺の手の中にある金平糖が光り輝く!


いつの間にか6個に増えていたそれは暖かく、冷たくなった俺の心を生き返らせる……


「俺達はずっと君を応援していた!」

「そうだぜ! おまえは一人じゃない!」

「ふっ、後は任せろ!」

「僕だって君の力になれる!」

「馬鹿ね、あなたが一人なわけないじゃない……」

「力を合わせてアイツを倒すぞ!」


金平糖から声がする。

力強いメッセージが! 俺の心に響く!


「お前ら…… 誰や!!!」

さらに金平糖は光を増し、空を輝かせる!!


――system message――

空に浮かび上がる仲間達の面影。

これまで共に戦った6人のスターメイカー達……

 

ありがとう! PV!

ありがとう! ★! 


彼らの姿が勇者一朗太の魂を震わせる!


「いや、だから誰よ! 漫画でよくあるライバルの顔が背景に浮かぶやつ、それ!! しかもスラリンも混ざってるじゃねぇか! 敵が一緒になって語ってんじゃねぇ!」


「「「「「「いけーーーーー 一朗太ーーー」」」」」」


「お前ら適当に言ってんじゃねぇ!! やめろ、背中を押すな!!」


空中から生えた謎の光り輝く手が俺を前へと歩ませる……

地面に轍を作りながら俺は必死に耐える!


「死ぬのは嫌じゃーー へるぷ! あいにーどへるぷ!!」


「「「「「「俺達はおまえを信じてるぜ……」」」」」」


「やーーめーーろーーーー」

そして俺の意識は途絶えた。



「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。」

「にっこにこやな、おまえ!」

「しかしのぅ、こう展開がないとおまえを復活させてもそろそろ飽きてしまうかもしれんのぅ。」

「勝手な事ばかり言いやがって。 こんなクソゲーでどうにか出来るヤツがいたらそいつにやらせろ!」

「そうやってすぐに諦めるのは貴様の悪いとこじゃ。 だから読者も増えんのだ。」

「どうすりゃいいんだよ……」

「ふぅ……仕方ないのぅ……」

 おっさんはゴソゴソとポケットをまさぐり、星を一つ、大きな星の下につけた。


「仕方ないって言うだけかよ!」

「まぁ、あと何回かは様子を見ることにするがのぅ……動きが無ければ……」


自分の首を絞めて舌を出して白目を向くおっさん。

絵面が不快しかない。


そのジェスチャーの意味するところは察することが出来るが……死んでからさらに死ぬの、俺?


すると例のカウンターが回転を始めた。

大げさにドラムロールがなり、いつもよりゴージャスなファンファーレが鳴り響く。


PV     101

ブクマ   9

★     12


おぉ、PVが100を超えている!

何かわからんけど、すげぇじゃん!


――system message――

PVがやっと100を超えました。

何かボーナスを与えてやってもいい気がしますが、いかがしますか?


こいつ、なんでそんなに上から目線なんだよ。

だいたいスピーカーもねぇのに、頭の上から声がするからウザいんだよ。


――system message――

やはりボーナスなど必要ないですね。

下民に施しを与えたところで、感謝の気持ちをもつことすらかなわないようです。


「ふむ。 しかし、このPVの伸びでは何かきっかけを与えてやらねば下民も滑稽に踊れまいて。」


ナチュラルに下民呼ばわりしてきやがって。

俺はお前たちの国の住人でもねぇ。


お前らのほうがよほど精神が汚水に浸されとるわ!

まったく吐き気がする!


「まぁ、仕方ないのぅ。 ここは広い心でこやつに施しを与えてやるとするかの…… ほれ。」


――system message――

かしこまりました。

では……


神剣PVに新たな力が注がれました。

刀身が100ミリ伸びました。

攻撃力100あがりました。


神剣PVが光り輝き、柄しかなかったものに刀身が伸び始める。


その長さ10cm。


これはもはや刃物と言っても差し障りない! ギリ!!!

しかも設定をミスったのか攻撃力が100とか言ってる。

気付いていないのか、この馬鹿共め!


「おぉぉぉおおお、これは!! これならスラリンとも戦える!!」

「ふむ、せっかくここまでおぜん立てしてやったのじゃ。 しっかり読者にアピールして次の話に備えよ。」


またそれか……しかし、読者か。


想像できる範囲で考えると、どこぞの映画のように俺は物語に出てくるキャラクターとして存在していて、それを誰かが見ているということか?


まぁ、それはいい。

今はそれはいいんだ。


俺は神剣PVの光り輝く切っ先に視線を移す。


俺がおっさんらの思惑通りに動くと思うなよ!

このクソ馬鹿が、思い知れ!


「往生せぃやぁあああああああ!! ごるぅうあああああ!!!」

俺は間抜け面したおっさんに向かって神剣PVを腰だめに構え、突進する。


とった!! 魂、とったどおおお!!!!


ぐさりとおっさんの腹部に刺さった神剣を抜き去る。


「ぐぉおおお………… 何を……」

「おまえ、自分が恨まれていないとでも思っていたのか? そこまで馬鹿だとこうなる事も予測できないらしいな!」


幾度となく命を奪われた苦しみの代償を神を自称するこの怪しげな男に払わせてやった。


おっさんは腹部を抑え、血を吐く。


黄色のサッカーシャツと白いジャージを血が赤く染め、地面に血だまりが出来ていく。


「ぐぅううおおおおお、ああああああああ」


ククク、ざまぁねぇな! これでこの馬鹿な話も終わりだよ!

この世界からどうやって出ていくのかわからないけどよぉ……今はそんなことはいいんだ。


人を舐めるっていうのはこういうことなんだよ!

それを俺はこの人を舐め腐ったおっさんに思い知らせてやった。


それだけで今は十分だ……


「あぁああああ、血が、血が…… ワシの……あぁああ」

神は踊るようにのたうちまわり、周囲には鮮血が飛び散る。


濃厚なワインの匂いが辺りを支配し、俺は満足げにその様子を眺めた。


ん? ワイン?


「ぬわああああああーーー」

あれ……なんかわざとらしくない? ん?


今、なんかワインボトルを口のみして何か補給してなかった?


「ぶるぅううああああ、あ、飲んじゃった。 これ、うまいのう」


――system message――

神暦1200年ものエスカリオン産のワインですから。


……


ようやく俺は事態を把握し、神剣PVの刃を指で押してみる。


しゅこ…… しゅこ……


俺の相棒は、その刃を柄の中に収納できるようになっていて、人に危害を加えられるようなものではなかった。


――system message――

てってれーーー(効果音)


おっさんが「どっきり大成功」と書かれた立札をにやけながら手にしている。


クソ……俺は……俺が……馬鹿だったのか!!

悔しさのあまりに血の涙が出そうだ……


「往生せぃやぁあああああああ!! ごるぅうあああああ!!!」


――system message――

「ぐぉおおお………… 何を……」


「おまえ、自分が恨まれていないとでも思っていたのか? そこまで馬鹿だとこうなる事も予測できないらしいな!」


俺の目の前でおっさんとSystem Messageの三文芝居が繰り広げられる。


その表情はにやけていて、俺の精神をこれ以上ないまでに逆撫でしてくる。


「ぷぷぷ。 さすが下民じゃのう。 これほど滑稽に踊ってくれる愚物はそうおらんぞ。」


――system message――

神様のお芝居もお上手でした。

馬鹿のバカっぷりがこれ以上なく輝くものになっておりました。


ゲラゲラと笑いあう声がする。

怒りで頭がクラクラする。


「うむうむ。 良い表情じゃ。 満足した。」


おっさんは新しいサッカーシャツに着替えて★をさらに一つ追加する。

「じゃが、お仕置きはせんといかんの。」


そういうと、サンダルを脱ぎそれを手に持って俺に近付いてくる。


そして振りかぶって一撃、俺の頰にサンダルを叩きつけた。


俺は錐揉み状態でふっ飛ばされる。


「そのサンダル、一体何kgあるんだよ……」

サンダルとは思えない衝撃に俺の意識はまた……

 


――

まるでテレビの電源を入れたかのように急に俺の意識は戻った。

視界には例のカウンター。


PV     232

ブクマ   12

★     41


「ふむ、PV200か。」


珍しくおっさんが渋そうな顔をして考え込んでいる。


苛立っているのか会議机をトントンとしきりに指で鳴らし、足先も落ち着かない様子だ。



――system message――

ですね。


「人の頑張りを褒めてみようぜ! 俺、褒められて伸びるタイプなんだよ! ハメられて伸びるタイプは人間の中にはあんまりいないと思うんだ!」


200という数字に何か新しい展開があるんじゃないかと期待して、俺の声は自然と大きくなっていた。


しかし、その声は奴らには届いていないのか、こちらを気にすることなく神は唸っていた。


「人を集めるというのも難しいものじゃな。」


――system message――

もともと邪な考えでこの勇者を作りましたしね。

そのあたりが良くなかったのかも知れません。


「スラリンはどう思うのじゃ?」


「毎回、同じ相手で飽きた。」


レギュラーメンバーか? こいつ。

事務椅子の上に鎮座するスラリン。


当然のようにこの場所にいやがる。


しかも安定のキャラぶれ。

本物のお前はどれだよ!


「しかし、過去の実績を見るに何千、何万という人間がWEB小説というものを見ているのも事実じゃ」


――system message――

受けるまで何作も作品を出し続けて当たったものだけをピックするという手法もあるようですね。


「毎日カツ丼じゃ、いくら好きでも飽きちゃうスラなりねぇ」

もう語尾が滅裂だぞ、このスライム。

しかも俺をカツ丼呼ばわりしてんじゃねぇよ。


カツ丼か……割と嬉しいな。


「よし、決めたぞい。 もっとたくさんの人間を転生させてみるとするか!」


――system message――

いいですね、どうせ下界には人間たちが雲霞のごとくいますからね。

拾ってきても問題ないでしょう。


「バイキング形式でスラスラも満足ぽよ〜」

ぽわんぽわんと浮き跳ねるスラリンにおっさんも満足そうに笑う。


「となると、こやつはもういらんのぅ。 いままでご苦労じゃった。 もう帰ってよいぞ。」

おっさんは俺に興味を無くしたのか鼻をほじりながらいつもの赤いボタンを押す。


えっ?

いきなり? ちょっと雑じゃない?!


ふと俺の視界が切り替わると、俺はチャリンコに乗っていた。

眼の前には蓋の開けられたマンホールの穴。


「今思い出したけどこんな状況で人を呼び出して、この状況に戻すんじゃねぇえええ!!」


チャリの前輪がマンホールの穴に引っかかり宙を舞う。


あ、神剣がねぇから今日からケツも拭き放題だ。

やった!  


……じゃねぇよ!


この人生もやり直し出来ますか?

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神の剣はスライムさえも倒せない 荒頭丸 @ko10maru

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