甘き薔薇よ、永遠なれ

坂本 光陽

第1話 私の相談事


 日曜日に早起きをしてお弁当をつくり、北風に吹かれながら坂道を登ってきたのに、誰も出てこない。チャイムを鳴らしても、スマホを鳴らしてみても、反応がない。


 母方の祖母が亡くなってから、叔父は築五〇年の一軒家で一人暮らしをしている。たぶん夜更かしをして、ぐっすり寝込んでいるのだろう。かわいい姪と交わした約束など、すっかり忘れて。


 まぁ、いつものことである。勝手知ったる親戚の家。合鍵があるので、「おじゃまします」と一声かけてから、玄関を潜り抜ける。窓を開けると、冷たい風は吹きこんできた。


 ダイニングキッチンの窓を開けると、冷たい風は吹きこんできた。買ってきたデザートを冷蔵庫に詰めたりお湯を沸かしたりして、空気を入れ替えてから、エアコンのスイッチを入れる。


 洗濯物の山があったので、洗濯機を回すことにした。今日は風が強いので、すぐに乾くだろう。叔父が全自動式に変えてくれたので、以前の二層式とちがって、冷たい水に触れることはない。


 脱水中の音が二階に届いたのだろう。叔父があくびをしながら、階段を降りてきた。


「おはようございます、叔父様」

「その叔父様はやめなさいって」

「あら、『叔父様と呼べ』と言ったのに?」

「それ、メグちゃんが小学生の時の話だろ」


 このやりとりも定番だ。


 私たちはダイニングキッチンに移る。私が早起きをして作ってきた、お弁当を広げた。最近は彩りまで考えるようになったし、インスタント味噌汁とサラダも付いている。


 叔父が朝昼兼用の食事をとっている間に、洗濯物は二階のベランダに干してしまう。手早く済ませたが、すっかり手がかじかんでしまった。食後のコーヒーを入れながら、チクリと言ってみる。


「叔父様、私との約束、忘れていたでしょ」

「いやいや、そんなことはない。何か相談事があるんだろ。今日はメグちゃんが来るって全然おぼえていたよ」


「ふん、嘘つき。グーグー眠っていたくせに」

「それで、相談事って何? 待て、当ててやろう。二十歳の女子が悩んでいるとすれば、一つしかない。男子についてだろ」


 私は両手で×印をつくり、

「ブーッ、違います」

「そうか? 俺がメグちゃんの相談にのれることって、男子の気持ちぐらいしかないぞ。外見は四〇男だけど、中身は二十歳はたちのままだから、何だって訊いてくれ。男子ってのは、薄っぺらいくせに見栄っ張りで、マジどうしようもない生き物だからな」


 話が横道にそれそうなので、私はきっぱりと告げる。

「私の相談事は、ある人が言ったことについて。より正確に言うと、その人が亡くなる前に言い残した言葉についてだよ」


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