28話



「一応、お互いに自己紹介をしておこうか。アタイはミル。冒険者パーティー【流星の風月】のリーダーだ」


「俺はガゼット。同じく【流星の風月】のメンバーだ」


「私はマチェルです。私も【流星の風月】のメンバーです」



 馬車がドドリアスを出立してしばらくして、今回参加する冒険者の自己紹介が始まった。最初に自己紹介をしたのはミルで、あとに続くように【流星の風月】のメンバーが自己紹介していく。



 ちなみに、ミルのパーティーのもう一人はフードを被った魔法使いの女性ドワーフで、顔は良く見えない。



「ソルといいます。冒険者を始めたばかりですが、運良くDランクになることができました」


「けっ、なんだよ。ただのど素人ってわけか」


「やめろガゼット。ソルすまない」


「いいえ、構いませんよ。経験不足なのは事実ですから」



 ソルが自己紹介をすると、彼にダル絡みしてきた男……ガゼットが悪態を吐く。すぐにミルが止めに入ったが、本人は反省した様子はない。



「はいはーい。アタシはチャムっていうの。よろしくー」



 その一方で、窓の外を興味深そうに見ていたもう一人の女性ドワーフ冒険者は、片手を上げて明るい声で名前だけを言うという実にシンプルな自己紹介を行った。他にももう少しなにかあるだろうと思わなくもないが、彼女にそんな器用な真似はとてもできそうにない。少なくとも、その場にいた全員がそう判断するほどに彼女がそういったタイプの人種であった。



 しばらくなんのトラブルも起きることなく、馬車は進んでいく。このまま進めばよかったのだが、そうもいかないのが世の常である。



「皆さん、モンスターが出ました。対処をお願いします!」



 御者を担当していた職員の声で、馬車の中にいた冒険者たちが一斉に外に飛び出す。ソル以外は。



 慌てて彼も馬車から飛び出すと、そこにはモンスターの群れがいた。



 主にゴブリンやウルフなどの低級のモンスターだが、如何せん数が多く、対処できないわけではないが、面倒ではある。



「はあ」


「ふんっ」


「【フレイムアロー】」


「ていっ、たあっ、やあっ、そいっ」



 完全に出遅れた感が満載のソルだったが、まだ数匹のモンスターが生き残っており、それに対処するべくソルは腰に下げた剣を引き抜く。



「はっ、ふっ、せいっ」



 実戦形式での戦闘は国を追放されてから経験したソルだが、それでも王族の嗜みとして剣術や槍術など模擬的な訓練は行っている。その経験を活かして、やれてはいるものの、やはり訓練と実践とでは天と地ほどの差がある。



「ふはははは、おいおいなんだそのへっぴり腰は? あいつホントにDランクかよ? あんな動きじゃ、Eランクですら怪しいぜ」


(確かに、ぎこちない動きだ。だが、なんだこの違和感は?)



 ソルのぎこちない戦い方を見て、たまらずガゼットが笑い転げる。だが、ミルはどこか彼の動きにとてつもない違和感を覚えた。彼女自身それがどういった違和感なのかはわからない。だが、上手くは言えないがどこかわざとらしいというか、無理をした動きのように見えたのだ。



 そんな中、生き残ったモンスターをソルが狩ったことで戦闘は終了となる。モンスターの死骸の後処理を行っていたソルに対し、チャムが突然声をかけてきた。



「ねぇ、なんでわざと下手な動きをしてるのぉー?」


「……なんのことですか?」



 ソルは咄嗟に取り繕った。内心では驚いていたが、辛うじてそれを表情に出すことはしなかった。



 これでも、ソルは一国の皇太子を務めたほどの人間である。相手にこちらの心情を悟られないくらいの腹芸はできる。否、どちらかといえば得意な方であった。



 チャムも訝しげな表情を浮かべていたが、ソルの腹芸に騙されたようで、首を傾げつつも彼から離れていった。



(ふう、どうやらごまかせたようだ)



 ソルは内心で安堵した。しかし、残念ながらチャムとのやり取りを見ていた人物がいた。ミルである。



(そうか、実力を隠すためにわざと下手な振りを。本人はとぼけていたが、おそらくはチャムの言っていた通りなのだろう。それにしても、その違和感に気づくとは……あの少女、Dランクになるだけの資質はあるというわけか)



 ミルは、自身が抱えていた違和感の正体に気づいたチャムの観察眼に感嘆していた。自分でさえ気がつかなかったことに彼女は気づいた。これは命の危険を伴う冒険者稼業にとって必要とされる能力の一つでもある。



 危険を察知しそれを回避する危機回避能力……冒険者は冒険してこそだとよく言われるが、生き残っている冒険者の多くが危険を回避し冒険してこなかった連中なのだ。自ら危険を冒して冒険するなど、それこそ物語に登場する冒険者だけなのである。



 なにはともあれ、モンスターの処理を終えた冒険者一行は、再び目的地に向けて出発した。その後、ちらほらとモンスターの襲撃はあったが、その数は最初と比べて多くはなく、ソルが対処しなくとも他の冒険者たちでなんとかできてしまうほどだった。



 彼が困ったことといえば、ミルとチャムの意識がなんとなくこちらに向くようになったことだろう。あまり悪目立ちしたくないが故、本来の実力を隠しているソルだが、逆にそれが彼女たちの意識を向ける結果になるという本末転倒な状況になってしまっていた。



 そんな状況の中、日も暮れていき、そろそろ野営の準備をした方がいいということで、馬車の進行が一旦ストップする。



 明かりと暖を取るため、焚き火が灯され、複数のテントが設置される。ここから朝が来るまで交代で寝ずの番を行うことになるのだ。



「では、順番は流星の風月の皆さんが最初に担当してもらい、次にソル様とチャム様のお二人で見張りを行ってもらうということでよろしいでしょうか?」


「ああ、こちらは問題ない」


「僕もそれで構いません」


「わかった!」



 寝ずの番の順番に流星の風月のリーダーであるミル、ソル、そしてチャムが同意を示す。ちなみに、職員は御者を行ってもらうため、体力温存を優先して眠ってもらうということになっている。



 設置されたテントは二つある。わかりやすいよう男性と女性で分けて使うことにし、職員とソルがテントで休む。



「おい、起きろ。交代の時間だ」



 しばらく横になって休んでいると、体を揺すられる感覚がソルを襲う。沈みかけた意識が覚醒し、目を開けると、そこには仏頂面をしたガゼットの姿があった。



「もう時間ですか」


「ああ、いつまでもボケっとしてないで、さっさと見張りに行け」



 言いたいことだけ言って、ガゼットはすぐに寝床に入って寝てしまった。ひどく嫌われたものだと内心で苦笑いを浮かべると、ソルは見張りをするためテントの外へ出た。



 焚き火があるとはいえ、夜は太陽の光がない分肌寒い気温となっている。風邪をひかないよう焚き火の近くにある椅子代わりとして誰かが置いた丸太にちょこんと座ると、そこには同じくちょこんと座っていたチャムがいた。

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