15話
「あ、ソル様。ようこそいらっしゃいませ」
「どうもです」
「装備を新調されたんですね。とっても、似合ってますよ」
「ありがとうございます。さっそくですが、僕でも受けられる依頼を紹介してください」
装備の新調が完了したソルは、そのまま冒険者ギルドへとやってきた。目的は装備の具合を確かめるのと、やはり糊口をしのぐための日銭稼ぎである。
【ナリッシュ茸】のお陰で、駆け出し冒険者としてはかなりの大金を稼ぐことができたソルだったが、お金というものはいくらあっても足りないものだ。
根が真面目であるソルは、大金に目が眩むことなく、新しい依頼を受けようとアスリーに斡旋を頼んだのだが、彼女が持ってきた依頼が些かおかしい。
「……あの、アスリーさん?」
「はい、なんでしょう?」
「これは一体どういうことなのでしょうか?」
ソルの目の前に置かれた依頼書の数に、彼は怪訝な表情を浮かべた。前回は三つの依頼を提示してきたアスリーだったが、今回彼女が提示してきた依頼の数は軽く十を超えている。
それも主に珍しい薬草や茸類の採取系の依頼に偏っており、冒険者の主な仕事であるはずのモンスター討伐依頼については申し訳程度の数しかない。
「ソル様にご提示できる依頼ですが?」
「なんか偏ってませんか? それに、依頼のランクが見合ってませんよ」
最低ランクのGランクであるソルが現状受けられる依頼は、一つ上のランクであるFランクの依頼までだ。だというのに、彼の目の前にある依頼書にはDやCなどの明らかに分不相応な依頼書が並んでいる。
これはどういうことかとアスリーを問い詰めてみれば、なにも問題がないとばかりに清々しい笑顔でこう答えた。否、答えやがったと言った方が適切だろう。
「ソル様に相応しい依頼をお持ちしただけですが? なにか?」
「……」
あまりに自信満々に彼女が答えるものだから、ソルは一瞬それがなんの問題もないことであると勘違いしそうになる。だがしかし、実際は大問題だ。
本来、冒険者のランクとはギルドに対してどれだけの貢献したかという指標であり、冒険者としての戦闘能力による区分けではない。
もちろん、実力が伴っているからこそ高いランクを与えられるというのは間違ってはいないし、高難度の依頼ともなれば、一定の実力がなければ依頼の達成が困難な場合が多々ある。
そのことから、高いランクを持つ冒険者=実力者という構図は決して間違いではないのだが、あくまでも主な意味としては冒険者としての実力の指標ではなく、ギルドに対しての貢献度を表す指標の意味合いが強い。
それ故、Gランクのソルに対するギルドの貢献度というのは最底辺のレベルであり、まだまだ未熟というのが世間一般の評価である。
「どうした? なにかあったのか」
「あ、アリアナさん。実は……」
どうしたものかと、ソルが困っていたそのとき、背後から声をかけられる。振り返ると、そこにはアリアナが立っており、ソルが事情を説明すると、みるみるうちに彼女の眉間にしわが寄っていく。
「Gランクの冒険者に、DランクやCランクの依頼を勧めるのは不釣り合いだ。なにを考えている? ソルを殺す気か?」
「ソル様なら問題なく依頼をこなせると判断したのです。ですから、なにも問題はありません!」
「大ありだ。そもそも、これは冒険者としての実力云々の話ではなく、本人のランクと依頼のランクが合っていないという話だろうが」
アスリーとアリアナの意見は一進一退で、両者共一歩も譲る気はない様子だ。
実際のところ、ソルの実力であればDランクやCランクの依頼を無理なくこなすことはできる。自称神の青年に与えられた加護は尋常ではなく、その秘めたる力は想像を絶する。
しかしながら、それほどの力を持っていることを知らない人間からすれば、最低ランクの冒険者にDランクやCランクの依頼をあてがうというのは、やはり無謀なことと断ずるほかない。
「とにかく! ソル様には、この依頼が相応しいんです!!」
「どの依頼が相応しいって?」
「これですこれ! ……って、ギルドマス――ぐへっ」
「おまえ、Gランクの冒険者になんて依頼を勧めてやがるんだ? ソルの小僧に死んで来いとでも言うのか? ああ?」
「ぐっ、ぐるじい」
頑なな姿勢を示すアスリーだったが、ここで救世主が現れる。彼女が振り返ったその先には、ギルドの最高責任者であるギルドマスターあり、彼女の上司でもあるゼヴァイスが立っていた。騒ぎに気づいたギルド職員の一人が、機転を利かせ、彼がいる執務室へと駆け込んだのである。
彼女が言い訳をする隙すら与えず、ゼヴァイスは片手で彼女の頭を掴み、そのまま力を加える。もちろん、加減はしているが、それでも痛いことに変わりはなく、アスリーの顔が苦痛で歪む。
「悪かったな。こちらの手違いだ。ああ、そうだ。ちょうどよかった。ソル、ギルドカードを出せ」
「どうぞ」
ギルドカードの提示を求めるゼヴァイスに素直に応じ、ソルはギルドカードを手渡す。ギルドカードを受け取ったゼヴァイスはなにやら手続きをし始める。最後に右手の中指にはめられた指輪をソルのギルドカードに押し付けると、彼はカードをソルに返した。
「アスリーの言葉が全部間違いというわけじゃねぇ。おまえがこなした三つの依頼は、ギルドに登録したばっかりの駆け出し冒険者が一日でこなせる仕事量じゃねぇ。良くて二つ、中には一つも依頼を達成できないやつもいる。だが、おまえは三つの依頼を一日で達成し、それに加えて、幻のキノコと言われているナリッシュ茸を持ち帰った功績はデカい。よって、今日からおまえはFランク冒険者だ」
返ってきたギルドカードには、Fランクという文字が刻まれていた。それを見たソルといえば、ぽかんとした表情を浮かべている。
通常、登録を終えたばかりの冒険者が次のランクに昇格するまで平均で二十日から一月ほどかかると言われている。だが、ソルはそれをわずか数日という期間で成してしまった。異例のスピード出世というやつである。
もちろん、昇格する根拠としてゼヴァイスが口にした三つの依頼を一日で片づけてしまったという功績が多分に含まれている。仮にナリッシュ茸だけならば、彼がソルの昇格を認めることはなかっただろう。
ギルドとしては、土壇場でホームラン一発を放つ冒険者よりも、安定したヒットを出し続ける冒険者の方が能力も高いと判断する。今回は三つの依頼で安定性を、ナリッシュ茸でギルドに対する功績度を大きく稼いだことが昇格の理由となった。
「おい、こいつに依頼を紹介してやれ。ちゃんとランクに見合った依頼をな」
「わかりました」
「おまえは俺の部屋にこい。今一度ギルド職員のなんたるかを叩きこむ必要があるんでな」
「そ、そんなぁー!」
アスリーの叫びも虚しく、ゼヴァイスに首根っこを引っ掴まれ、彼女は連行されていった。彼女の「たすけてぇー」という断末魔の叫びが響き渡ったが、その声に応えようとする者は誰一人としていなかったのであった。
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