「救われなかった子」に救済はあるのか――法と神話で挑む重厚ファンタジー
- ★★★ Excellent!!!
神戸の虐待家庭から逃げ出した少女・玲奈。児相にも警察にも救われず、今、彼女の魂は異界で邪気に囚われ昏睡状態だ。救出に動くのは「男児から女児に変えられた戦闘巫女」の小学生・剣奈、歴史学者・藤倉、シングルマザー行政書士・千剣破。剣奈は霊刀と九尾の狐、白蛇を従えて異界と戦い、千剣破は家庭裁判所での養子縁組という「現実の武器」で玲奈を守る。
この作品が異色なのは、社会問題と神話を本気で融合させている点。家裁、児相、戸籍変更といった現実制度と、素戔嗚尊や淡嶋伝説などの日本神話が一本の線でつながる。特に阪神淡路大震災の描写は生々しく、玲奈の両親を壊した貧困と絶望が虐待へと直結する構造が容赦なく描かれる。時空を超える「篠の道」は激痛を伴い、救済は綺麗ごとでは終わらない。
「剣」「祝詞」「法律」「家族」「愛」――五つの手段で地獄の過去と異界の邪気に立ち向かう。トラウマも暴力も無かったことにはならない。それでも「もう一度、生き直す」可能性を問う、重厚な社会派ダークファンタジーです。