負け犬のメイサちゃんは100日後に本当の恋を知る

水谷なっぱ

12月10日、水曜日

 私、三枝メイサは学校の図書室に本を返しに来ていた。

 でもカウンターに本を出したら、後ろの本棚から聞き覚えのある声がした。


「これが読みやすいんじゃないかな」

「ゴールデンスランバー?」

「うん。あ、私はホワイトラビットと、アイネクライネナハトムジークも好きなんだけど……」


 従姉弟の一ノ瀬颯と、その彼女の柊莉子だ。

 気づいたら、もうダメだった。


「う……、く……」


 涙が溢れる。

 慌ててカバンからタオルを出して顔を押さえた。

 だって、私、颯のことがずっと好きだった。

 家が近くて、一緒に育ってきて、きっといつまでも一緒だと思っていたのは、私だけだった。



「……ウザ」

「は……?」


 低い声が聞こえて顔を上げたら、図書委員の男の子が私を睨んでた。


「そんなんだから振られるんだよ、ウザ」


 なっ……何、こいつ!?

 そいつのブレザーには1年生のカラーの校章がついている。

 

「な、なんでそんなこと……!」

「負け犬ってマジでよく吠えるんだな」

「……わ、私だって好きで負けたんじゃない!!」


 思わず、相手に詰め寄った。

 そいつは目を見開く。


「そんなに言うなら、私に勝たせてよ! 颯がやってたみたいに、100日で!」

「はあ……?」


 ぽかんとした顔に、ちょっと冷静になった。

 ……私、何言ってるの、初対面の1年生に。

 相手は口元を手で押さえて肩をふるわせている。


「ご、ごめん……八つ当たりした」

「く、ふふ、あはは、いいよ、負け犬先輩」

「えっ」


 1年生の手が伸びてきて、私の髪をさらりとすいた。


「あんたを、100日で勝たせてあげる」


 切れ長の一重の瞳が、鋭く私を射貫いた。

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