終末世界の世界の一日目が終わる
コーヒータイムが終わった後俺は再びステラさんに転移を使ってもらい自宅に帰り必要なものを選んで持って帰っていく。放っておくと時期に風化していくらしいので今はちょっとでも残しておきたいと思ったものを全て持っていくことにした。まず服をいくつか選んでその後は色々使えそうなものを選んでいく。別に必要ないとは思うけど学校で使っていた文房具や制服なんかも持っていくことにした。それから家族の思い出が残っているもの。家にあったアルバムや部屋に置いていた写真、そういったものも持っていく。置く場所に困ることはないだろうしこのあたりのものは忘れないように全部。
「後は……これもいいかな」
幼馴染との写真や一緒に遊びに行った時に買ったものをいくつか選ぶ。ステラさんは俺のことを好きだと言ってくれているからちょっと失礼かもしれないけどまだまだ俺は忘れることも乗り越えることもできそうにないからしばらくは許してほしい。そんなことを考えながら持っていくものを選んで全部終わった頃には夕方になっていた。それから用意されていた俺の部屋に持ってきたものを配置したり片づけをしたりしているとあっという間に日が沈んでいてリビングに戻るとちょうど晩御飯が用意されていた。
晩御飯は力を入れます!と本人が張り切っていた通り今日の晩御飯はビーフシチューになっていてお店の味にも負けないどころか余裕で勝っているんじゃないかというぐらい美味しかった。せっかくだし作り方を聞いたらまず三日かけて仕込みをします、と言っていたので多分この人は時間操作ができるそうに違いない。まぁこの世界を管理している天使なんだしそれぐらいできるんだろうなと一人納得して話を聞いていた。
晩御飯の後はお風呂でどうせなら一緒に入りますか?と提案されたがそれは全力で断った。仮に水着やタオルで隠されていても絶対我慢できない。これはお風呂が終わってから気づいたことだけどステラさんは意外と胸が大きい。身長が高いし昼間は白いローブのような天使らしい衣装を纏っていたから身体つきがわかりにくかったけどお風呂から上がった後の服だとスタイルの良さが際立っていた。そんなステラさんと眠くなるまで他愛ない話をして夜を過ごす。
「それじゃあ寝ましょうか」
「やっぱ寝る場所変えません?」
「一緒にお風呂入るのとは違いますし寝るぐらいならいいじゃないですか」
「いや……」
寝れる気がしませんが?と心の中で反論する。しかしステラさんの目は俺の逃がす気はないようで有無を言わさぬ圧力でこちらを見ている。後できれば俺の腕を掴んでいる力を緩めてほしいです、そろそろ俺の腕が潰れそうなぐらいの力が込められてるんですがこんなところで人外っぷりを発揮しなくていいんですよ?
「わかりました……寝ますよ」
「ありがとうございます♪」
「今日一嬉しそうな声でてますよ」
ステラさんと一緒にベットに入る。正面を向いて寝るのは流石に恥ずかしいので背中を向けて寝ると後頭部に柔らかい感触があたる。
「ステラさん……?」
「今日はお疲れですよね、それに家族や友人を失った悲しみは簡単に消えてくれないですよね」
「……あ」
「だから私はその穴を少しでも埋めれるようにこうして寝ましょう」
「……じゃあ今からのことは忘れてくれませんか」
「わかりました」
俺はステラさんの方に向き直りその胸に顔を埋める。突然全てを失った悲しみが溢れてきて自然と涙が出てくる。ステラさんの身体は柔らかくていい匂いがして気づかずにボロボロになっていた俺の心を少しづつ溶かしていくみたいな温かさがあった。嗚咽を漏らしながら泣いている俺をずっと優しく撫でてくれ俺はいつの間にか眠っていた。
ーーステラーー
私の胸に顔を埋めて泣いて眠りについた最愛の人を少しの間ボーっと眺めていた。
天使は睡眠を必要としない。食事も当然必要がないし排泄もしない。人間の形を取っているだけの全く別の存在だ。だから彼が寝た後のこの時間は私だけのものだ。この世界で唯一私が彼を独占できている、その優越感と幸福で身体が火照る。
「私だけの可愛い奏良さん……もう逃げられませんからね?」
感情だって制御できるように天使の身体は作られている。いくつものストッパーのようなものがあるし暴走したりすればリセットすることで正常な状態に戻ることができる。だけど私はそれをしない為に慎重に、誰にもバレないように自分をゆっくりと作り変えていった。彼の為に、愛する人の為に自分を作り変えるのは名状しがたいほどの幸福だった。お陰で今こうして最愛の人を抱きしめていられる。胸の中で暴走寸前の感情を必死に抑えて私はただ抱きしめるだけに徹する。
「奏良さんは本当のことなんて知らなくていいんです。なんてことない貴方の独り言で私が世界を滅ぼしたことも貴方だけがこの世界に生き残ったことも都合よく貴方の思い出が消えなかったことも何もかも真実は知らなくていいんです。今はただ何も知らずに私の傍にいてくれればいいんです」
彼にはいくつも嘘を吐いた。それはとても申し訳ないと思っているし、嘘を吐くときはとても苦しかった。同僚の天使に噓を吐く時にはなにも思わなかったのに今は私の心を蝕む毒のように残っている。それでも今こうして彼と一緒にいる為には嘘を吐く必要があった。
いつかきっと真実を知る日がくるだろう。でもその時にはきっと私から離れることはできなくなっていると思う。その理由が恋や愛じゃないくてもいい。私はこの人といられるなら嫌悪や憎悪を向けられたっていい。一緒にいられるならそれだけで私は幸せなのだから。
「……でも好きになってくれたっていいんですよ?」
そんな嘘つきで最低な私の願いは叶わないとわかっていながら口に出してみる。
「……ふふっ」
そんな自分が可笑しくて笑みがこぼれる。
せっかくの二人きりでいられる時間だけどきっと余計なことを考えずに私も寝てみるのがいいかもしれない。睡眠なんていつぶりだろう、と考えながら私は目を閉じた。
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