天使の用意した新居……島?


 未だ世界が滅んだことすら飲み込めていないのにどんどんと新しい情報が俺に叩き込まれていく。まず用意されていた新しい家はとんでもない豪邸、というわけではないものの二人で済むには十分すぎる程広かった。海の見える大きな窓のついたリビング、ちょっとした店ならすぐに開けそうな広々としたキッチン、それぞれ個人の部屋もあって寝室には天蓋付きの大きなベッドがあった。特に驚いたのは地下にあるお風呂でどういう原理かお風呂からも海が見えた。これが天使の魔法なのか?


「一つ質問いいですか?」

「いいですよ」

「ベットが一つしかなかったんですけど俺はどこで寝ればいいんですか?」

「?ベットを使えばいいんですよ」

「いやそれじゃあステラさんが寝る場所が……」

「私は奏良さんの隣で寝るので♡」

「いやいやいや!あったばっかの男女が同衾とかアウトでしょ!」

「何か問題でも?」


 有無を言わせぬ圧力のようなものを感じる。この人本気で俺と一緒のベットで寝るつもりだ。緊張で寝れない未来しか見えないが大丈夫だろうか、というかそもそもなんでこの人……この天使は俺に対してこんなにも好意的なのだろうか。ますます疑問が深まっていく。


「まず前提としてですね」

「はい」

「私は奏良さんのことが好きです」

「はい……はい?」

「なのでこの状況はかなり不本意ではありますが私にとっては夢が叶ったも同然の状況なのです」

「そう……ですか」

「はい。奏良さんは私のことをまだ何も知らないと思います。それ以前に混乱したままだと思います」

「まだこの現状を飲み込むので精一杯ですよ」

「ですから落ち着いたらゆっくりでいいです、私のことを見てください。天使ではなく一人の女性として」

「それは……」


 無理がある、そう思った。そもそもステラさんは自分の意思ではないとはいえこの世界を滅ぼした。俺はそれをしらばくは許せないだろう。いつかこの感情が風化したとしてそれはいつになるだろうか、きっと何年も先の話だ。そこからこの人のことを好きになる?難しいにもほどがある。好きだ、と言われたとして今は不信感しか生まれない。


「……面と向かって好き、というのはなかなか恥ずかしいものですね」


 白磁のような肌が若干赤みを帯び、長い髪で顔を隠し照れる彼女を見て思わず見惚れてしまいそうになる。……前言撤回、俺は案外簡単にこの人に攻略されてしまうのかもしれない。文字通り人間離れした魅力がこれから俺の理性をゴリゴリ削っていくのだろう。


「さて、家の案内は済みましたし次はこの島の案内でもしましょうか」

「なにか説明するようなものがあるんですか?」

「はい。といってもほとんどは景色がいい、で済むので……この島の心臓へと案内します」

「心臓?」

「ついてきてください」


 家の敷地からでて小さな小屋に入る。そこには地下へ下る階段があった。先が見えない程長く薄暗い階段をコツコツと降りていく。そうしてついた先にはモニタールームとでもいうような場所があった。


「ここは……」

「この島の心臓、そしてこの世界を内側から監視するための場所ですね」

「監視?」

「基本機能は天界にあるものと変わりません、しかし天界からこちらを覗く場合様々な奇跡を使用して覗くことになります。それによってもしかしたら監視漏れがあるかもしれない……そういった懸念を取り除く為にここにもう一つ管理室が用意されています」

「そんな場所俺に案内してよかったんですか」

「もちろんです。これからは奏良さんにも手伝っていただくことになりますから」

「俺も?」

「はい。ゆくゆくは天使としての権能、奇跡も使用できるようになってもらう予定です」

「俺が天使になるんですか」

「おそらくはそうなるかと。世界崩壊を免れるということは少なからず奏良さんには天使、もしくはそれに準じた何かが存在しているということです」


 そんなことがあるのだろうか、そんな都合のいいことがあるのだろうか。ますます目の前にいる天使への不信感が増していく。普通に会話しているだけならは人間と変わらないのにこういった話をする時は一切の人間味を感じない。よくある上位存在が下位存在に向ける目というか雰囲気はこういうものなのだろう。


 そんな考えごとをしていたからだろう。俺は怪しく口元を歪めている彼女の表情に気づくことはなかった。




「さて、案内は終わりです。何か気になる点はありますか?」

「特にはないです」

「それはよかったです」


 こうしてひと段落ついたところで少し気が抜けたのだろう、俺の腹が空腹を訴える。


「そういえば朝から何も食べていませんでしたね」

「そういえばそうですね」

 

 なんせ起きたら世界が終わっていたのだ、朝ごはんなんて食べている時間なんてなかった。それから色々とあって案内もがっつりされたから感覚的にはもう昼前だろう。普通の男子高校生のお腹はとっくに限界が近い。


「ではお昼ご飯にしましょうか。奏良さんはリビングで待っていてください。すぐに作りますね」

「作れるんですか?」

「もちろんです。天使ですよ?」

「こういうのって家事ができないのが定番では」

「それは物語の中だけです。私はきちんと家事全般こなせますよ。もちろん花嫁修業もばっちりです」

「今時花嫁修業なんて言葉聞きませんよ」

「えっ」


 本気で驚いている彼女にやっぱりダメ天使要素があるのでは、と思ったのは内緒にしておくことにした

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