第9話 初めての――

「ああああ頭がががが……割れるっ!」

「調子に乗って飲み過ぎだよ~。昨日が初めてだったんでしょ、お酒?」


 ピンク髪の妖精――リリィが宙をふわりと漂い、ジトッとした目で睨んでくる。


 昨日なにしたっけ? だめだ、思い出そうとしたらまた頭があぁぁぁ――


「……思い出したく、ない」


 窓を覗けばすっかり日は高く、ふかふかのベッドが私を離してくれない。


 見知らぬ場所に驚いて目を回していたら、レナちゃんが連れて来てくれた宿屋だとリリィが教えてくれた。


 ちゃんと部屋まで歩いて行けた私、えらい。覚えてないけど。


 頭が痛くてもずっと寝てはいられない。


 だって財布の中は空っぽのままだもん。今日のご飯と宿代を稼がなくちゃ。


「そういえば、昨日の支払い……お酒って、高いんだよね?」

「奢るって一緒に飲んでた男の人が言ってたし、良いんじゃない? 次は自分のお金で飲みなさいよぉ」


 リリィは私のローブの内側からずっと見守ってくれていたみたい。頼りになるなぁ。


「盗賊討伐のときに投げ銭貰えてたじゃん。確認してみたら?」


 言われるがまま『スマイルホーン』通称スマホを確認する。盗賊退治からずっとバタバタしていて、すっかり忘れてたよ。


 ひょいひょいと操作して〜、って……。



「えっ、3万4千リン!? 登録者数も11人になってる!」


 1日でこんなに稼げたの? この宿は一泊8千リンだから、十分払える!


 私なんかでも、ちゃんとリスナーの方に喜んで貰えたんだ……。


 なんか泣きそう。


「1日目にしては上出来だね。たくさんの人に観て貰えて魔力が溜まったからリリもなんだか調子がいいんだ」


 呆れ顔から一転して機嫌がよくなったリリィと違って、私の気持ちは一気に沈む。


「……あの、撮影中の会話とかって――聞こえてた?」

「配信では修正して流してるから大丈夫。大事な情報は出てないよ」

「そ、そっかぁ」

「あの盗賊、ワーグバーグの関係者だったんでしょ?」

「……ッ」


 返事ができなかった。


 隠す気なんてない。魔力と記憶を共有しているリリィに隠せるわけもない。


 だけど、触れるにはまだ――傷が新しすぎた。


「実家がなにをしたって、シャルとは関係のないことだよ。あなたにはあなたの人生があるんだから」

「うん……」


 そう割り切れれば、きっと楽なんだろうけど。


 重い気分と共に、息を吐く。まずは顔を洗って身支度をしよう。昨夜のお礼をいろんな人に言わなくちゃ……。


 ベッドの上から降りようとすると、もぞもぞと動く気配。毛布にできた丸っこい膨らみが端に移動を始め、ゆっくりと顔を出す。


 白と青の混ざったフワフワの羽毛を持つ、小鳥ちゃん。


「ぴぃ」


 黒い瞳が私をみつけると、ふわりと羽ばたいて私の膝の上に止まった。


 ご飯の時間かな。


「飲んだくれの魔力なんて吸って、酔っぱらいそうだよね」

「そんなことないもん……」


 アルコールは魔力に影響しない……はず。多分。


「その子、名前どうするの?」

「ん~……リリィはなにが良いと思う?」

「自分で決めなよぉ。シャルがお世話をするんでしょ~」

「……思いつかない。でも、従魔登録するのに必要だし……」


 登録に必要なのは2つ。名前と魔物に契約する意思だ。


 意志はその人と一緒に居たいと思っているかどうからしいけど、どうやって調べるんだろ。


「ここに居るってことは、意思はあるはずだもんね。あとは名前次第。今日中に登録するんでしょ?」

「名前をつけたことなんて、ないからなぁ……」


 ワーグバーグ家ではたくさんの動物を飼っていた。けれどその子達を命名するのは兄や姉で、私じゃない。


 部屋にある人形とかもそう。姉のお下がりばかりで、自分のものだって感じなかった。


 そういうものだと思ってたし、それを不満に思った事もない。


 だから名前を付けろなんて言われても、困っちゃう。


「魔法の詠唱は得意でしょ。名前を付けるのも得意そうだけどなぁ」

「それとこれは全然違うよ……」

「違わないと思うよ?」


 リリィはそう言いながら私の膝の上、小鳥の隣に降り立つ。


 そしてもこもこした羽毛に小さな手を突っ込んだ。多分撫でているんだろう。


「シャルの詠唱には強い想いがこもってる。名前もおんなじだよ。小鳥ちゃんへの想いを言葉にすれば、それが名前になる」

「想いを……言葉に」


 膝の上で魔力を吸う小鳥の頭を、そっと撫でる。


 柔らかい羽毛がくすぐったくて、氷の魔力でひんやり冷たい。


 親から離れられない幼さ。それなのに人間の身勝手でこの子は死にかけた。


 そんな子を守りたいと思うのは……多分、自然なことだと思う。


「……チルルはどう、かな?」


 頭をツンとつつくと、優しく押し返される。


 黒い瞳と目が合えば、小鳥――チルルはまんまるな身体ごと、ころんと転がった。


 初めての名付けだったけど、気に入ってくれたかな? 


 ……それなら、嬉しい。


「改めてよろしくね、チルル」

「ぴっ」


 分かってなさそうな顔に、思わず私は声を出して笑っちゃった。



――


うっかり完結済みにしちゃいました……。全然まだまだ続きます、失礼しました!


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