驚くべき密度と熱量、そして「王道」と「変化球」を巧みに組み合わせ

驚くべき密度と熱量、そして「王道」と「変化球」を巧みに組み合わせた、非常に引き込まれるファンタジー叙事詩です。

まず感じたのは「裏切りの連続による快感」です。

冒頭の滅びゆく帝国の地下道シーンは、まさに王道中の王道。赤毛の近衛騎士ヒューガと白金色の髪の皇女アシュリーゼの逃避行は、一気に読者をその世界観へと引き込みます。

しかし、そこからの展開が凄まじいです。

敵が「勇者」を自称し、かつヒューガと同じ「死神」の組織出身という因縁。

ヒューガが勇者を倒すのではなく、ヒューガ自身が自害(反射)に追い込まれ、一度「死ぬ」こと。

導き手として現れた「女神サラ」こそが諸悪の根源であり、ヒューガがその「神」を斬り捨てること。

最後に現れた「本物の(?)女神セラ」が、神話の威厳を木っ端微塵にするような「痴情のもつれ」を語り出すこと。

この、シリアスから始まり、最後にはコミカルなテンポへと着地させる緩急の付け方が実に見事で面白かったです。