第二章:中央神国ライフと魔王族の子

第10話 中央神国へ

 兵士たちを見送ったあと、お父さんはしばらく周囲を見回した。

 一緒に住もうと言ったはいいけれど、もしかしたら家族がいるかもしれない。


 だけど、誰の気配もなかった。


 シアは、私から一瞬たりとも離れようとしない。

 私はというと、そんな姿が可愛くてもう頬が緩みっぱなしだ。


「そういえば、君。名前は?」


 シアは小さな声で答えた。


「……シア=ジース」


 その瞬間、お父さんの表情がほんの少しだけ動いた気がした。


「じゃあ、帰ろうか。ゲートを開くよ」


「はーい!」


 私たちは三人で家へ戻った。


・・・


――夕食時


「……シア、小食だね」


「……」


 シアはパンを半分ほどかじるだけで、ほかの料理には手を伸ばさない。


「みなも、みなもの部屋にもう一つベッドを置いておいたよ。懐いてるみたいだから、一緒に寝てあげて」


「わかった! シア、行こ!」


「……うん」


 私とシアは部屋へ向かった。


 残ったお父さんは、紅茶をひと口飲む。


「シア=ジース……。高い魔力を感じる。――さすがは魔王の子、か」


・・・


――翌朝


「おはようー」


「あ、おはようみなも!」


 お父さんが忙しなく動き回っていた。出かける支度をしているみたいだ。


「シアはまだ寝てるの?」


「うん。よく寝てるよ」


「そうか。突然で悪いんだけど、エルフ国で国王がピンチらしくてね。助けに行かないといけなくなった」


 お父さんは荷物を背負いながら続ける。


「えっ!? 結局会えなかった国王様だよね?」


「そうだよ。食料はキッチンにあるから、好きに食べていい。それとこれも」


 そう言って、巾着袋を手渡された。中にはお金が入っている。


「今日は帰れないと思うから、そのお金で街でも見てくるといいよ」


 お父さんは私の頭に手を置き、優しく撫でた。


「……気を付けてね」


「ありがとう。じゃあ行ってくる」


 ゲートを開いて、お父さんは出かけていった。


「おはよう……お姉ちゃん」


「あ、シア! おはよう。ご飯食べよ?」


「うん」


 一緒に朝食を食べるけれど、やっぱりシアはパンを少し食べるだけだ。



「シア、街に買い物に行ってみよう!」


 そう声をかけると、シアは首をかしげた。


「買い物……?」


「そう! 街ならいろんなものが売ってるよ。シアの食べられる物もあるかも!」


 最初は乗り気じゃなかったみたいだけど、途中で――


「行く!」


 と小さく頷いてくれた。


「よし! じゃあ着替えよ!」


 私は出かける支度をすると、帽子を手に取った。


「シア、この帽子かぶってね!」


 少し大きなエッジ帽子だけど、角が隠れる。


「じゃあ行こう!」


「うん!」


 そうして、家を出た。




――約30分後


「わぁ……大きい街!」


 ここが中央神国の首都らしい。

 街全体がドーム状のシールドに守られていて、とにかく広い。


 私はガイドブックを開いた。


――中央神国 首都


・街全体を包む巨大シールドあり

・いかなる攻撃にも耐える

・中心には真っ白な塔


 街は大きく三つの区画に分かれているらしい。


 商業特区・居住特区・管理特区。


 そして中心の塔は、神の命を直接受ける“神徒”と呼ばれる組織の区域。


「よし、まずは商業特区だ!」


 私は大きな門をくぐり、首都の中へと足を踏み入れた。

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