45の世界
キャンパス委員会
一章 昨日のはじまり
第1話 帰省の朝
二十五歳の誕生日の朝、俺は都心のワンルームを出た。
玄関のドアを閉めるとき、部屋の中を振り返るかどうか一瞬迷って、結局やめた。
見なくても分かる。
昨日までと同じ、散らかった床と、洗えてない皿と、冷めた空気。
誕生日だからといって、特別な予定があるわけでもない。
ただ、地元の同窓会があるから、久しぶりに実家へ帰る──それだけだ。
電車の座席に腰を下ろすと、窓の外の景色が少しずつビルから住宅へ変わっていった。
通勤ラッシュを過ぎた車内は静かで、みんなスマホの画面を見つめている。
俺のスマホは通知がほとんど来ないまま、ロック画面の時刻だけが更新されていく。
誕生日おめでとう、のメッセージも今年はまだひとつもなかった。
フリーター三年目。
バイトはちゃんと行っているし、クビにもなっていない。
でも履歴書に書けるようなものも、これといって増えていない。
「二十五って、もっとちゃんとしてると思ってたな。」
窓ガラスに映る自分に小さくつぶやく。
思っていたよりも疲れた顔をしていた。
⸻
地元の駅に着いた瞬間、空気の匂いが変わった。
湿った土と、遠くで燃やしている何かの匂い。
改札を抜けると、昔と変わらない風景が広がっていた。
→ 続きは第2話へ
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