第41話「現れたひと」


「お話どうでした?」

「ありゃダメだわ。ダブルAの親分であれじゃ、俺らにゃ余裕で手に余るぜ」


 ロジンが実演で苦労した甲斐あって、ゲトゥとサンポンカンは『過ぎる力』に無謀な憧れは抱かずに済んだ様です。


「それが良いですよ。わたくしの母も苦労してますから」

「らしいな。お母ちゃんは右腕だって?」


 この四人にはロジンからひと通りお話してます。

 ロジンのも、クシアスパーティのも、ボガード夫妻のも。

 ここボルオエスベで情報が上がっている深層の特殊な罠についてをひと通り。


「ええ。もう凄いんですよ母様の右腕。この間のわたくしの誕生日にケーキを焼いて待っててくれたんですが、さぁ食べようという時にテーブルごとボカンっ! ですよ」


「そ、そりゃ災難だったな。ちっとも食えず仕舞いか?」


「テーブルもケーキもほとんど木っ端微塵でしたけど、無事だった所をスプーンでひと掬いだけ。それでも母様が手ずから焼いてくれたケーキですもの、とても美味しかったですよ」


 良いコですねぇ。お母様もエルとの二人暮らし楽しいでしょうね。

 けれどやっぱり大変そうですね、強過ぎる右腕で生活するのは。


 これはこの間エルがロジンに話していた内容を盗み聞きしたものですが、ボガード家の食器なんかは全て無骨で頑丈な作りの木製だそうです。

 陶器やガラス製品だとあっさり砕け散って危ないからなんですって。


「では深層の罠について理解していただいたところで、今回のダンジョンアタックについてお話しましょうか」

「おぅ、頼まぁ」


 エルからは、一層から三層までで今ある素材の依頼について、さらにダンジョン変遷後の今のダンジョンについて上がってきている情報について。


 対してゲトゥからは、主にサンポンカンにマッピングの重要さとコツについて教えるつもりでいること、一泊はするつもりですが流れ次第で二泊する予定でいること、三泊はないこと、いくら頑張っても三層までの予定でいること。


 そんなやり取りの後。


「では現在上がってきているマップ情報はご提示しない方がよろしいですか?」

「だな。サンポンカンのトレーニングになんねぇかんな」


 そこから少しで話は終わり、お気をつけて、とエルに見送られてゲトゥ率いるサンポンカンパーティはダンジョンへと旅立ちました。


 まぁ、トレーニングがてらですからね、せいぜい三層までしか行かないとゲトゥも言ってましたし、万が一にも罠宝箱に出会うこともないでしょう。


 ──なんて言っちゃうとフラグだなんだと言われちゃいそうですが、まぁ大丈夫でしょう。

 分かんないですけど。


 少し肩の荷の下りたエルは、ぱんっ、と軽く両頬を挟む様に叩いて気持ちを入れ替えて、引き続き窓口業務に向き合いました。



 そして正午過ぎ、本日通しのエルが四時間の昼休みに出たほんの少しあと。

 ばんっ! と大きな音を立ててギルドの正面扉が開かれました。


 ちらほらと訪れる依頼者が数人いるだけのホールは『さてはか!?』と一瞬ざわつきます。

 以前にミラノとナポリがやってきた時と同じ様な感じですものね。


 けれど開かれた扉から顔を見せたのは、上品そうなご婦人がお一人という事もあってすぐに落ち着きを取り戻しました。


「お騒がせして申し訳ございません。ここに勤めるエル・ボガードの母でございます。ギルマスさま、おいででございましょうか?」


 現れたのは、なんとエルの母、イント・ボガードその人だったのです!

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