第22話「ギルド海猫亭」


 月が変わって本日からイヌの月になりました。

 イヌの月になると、なんだかぐっと年末の気分になるのは私だけでしょうか。

 今年ももう丸二ヶ月だけですもの、きっと私だけじゃありませんよね。


 ギルマス執務室とロジンの私室を繋ぐ扉が開かれて、顔を見せたのは当海猫亭ギルマス、ロジン・バッグその人です。


『おはようございますロジン。なんだかご機嫌ですね』

「そう? そんっなことないと思うんだっけどな〜♬」


 めちゃくちゃご機嫌じゃないですか。

 貴方そんなキャラクターじゃないでしょう。


『何か良いことでもあったんですね、きっと』

「昨日僕らをけてきてたの、気付いてるから。白々しい素振りはいらないよ」


 あら、気付かれていましたか。


 私がウミネコは、私の手足であり私。

 ここに居ながらにして飛ばしたウミネコが見たもの聞いたもの、それはすなわち私が見たもの聞いたものです。

 隠れるつもりで飛ばしたならば、そこいらの並のものなら気付くことなんてない筈なんですけど。さすがAAダブルエーハンターですね。


『それは失礼しました。次回からは気付かれないよう超超望遠で覗くように致しますね』

「僕の『この目』ならそれでも見つけてみせるけどね」


 あははっ、なんて楽しそうに笑うロジン。本当に嬉しいらしいですね、今日のエルとのデート。


『そういえばレイから手紙を貰ってきましたよ。貴方の机に置いてある紙切れがそれです』


 向こうのハンターギルドで貰った何かの資料の裏、そこに書き殴っただけのメモだかなんだか分からない紙切れ。

 ロジンが書いた手紙を昨日の明るいうちにレイへと届け、その場で読み終えたレイがちゃちゃちゃと書いたものがソレ。

 それでもレイにしてはちゃんと書いた方ですよね。


 ソレを取り上げすぐさまロジンが読み、明るい笑みをこぼしました。


「ふふっ、さすが姉さん。姉さんらしすぎてちっとも参考にならないよ」

『なにが書いてあるんです?』


「姉さんとタィさんの馴れ初めだよ。さすがにコレは真似できないけど」


 ロジンがソレを開いたままで机に置きましたので、読んで良いよという意味でしょう。サラッと私も読み終えて苦笑します。


『レイらしいですね』

「タィさんも相当っぽいけどね」


 レイのご主人、タィ・ガースも確かに変わり者です。

 俊敏さには欠けそうですが、小さいながらも頑健な体躯を誇り、かつ、それでいて理知的で知識も豊富。なのにとても無口なんですよ。

 肉体派で直感派なレイとは真逆だから合うんでしょうね。


『ところでロジン。手紙からだと分かりませんけど、『』と書いて、発音は『ティ』と『チ』の中間くらいだそうですよ』


 と、そこまで私が言った時、コンコンコン、とドアを叩く音。朝の打ち合わせにそろそろダグアが顔を見せる時間ですね。

 どうぞ! というロジンの声に続いてドアが開かれて、顔を見せたのは予想と違ってエル、そしてその後にダグアが続いていました。


「おはようございます、ロジンさま」

「こんちゃらごあすー」


 さすがに訛りすぎでしょう。ダグアは何を言ったでしょうクイズが出来るレベルですよそれは。


「はい、おはようございます、二人とも」


 今日から副ギルマスとなるエルも混ざり、手短にギルマス打ち合わせを行います。

 特別に長引く様な内容のトラブルもありません、今朝の打ち合わせはサクッと終わりですね。


 …………という事は、ですよ。


『んん゛っ』


 ただひとりエルだけがキョロキョロしています。

 対してロジンとダグアの二人はほんのり苦笑いですが、貴方たちがなかなか紹介してくれないのが悪いんですよ。


「エルさん」

「先ほどのは……、あ、はい、なんでしょう」


「これまで僕とダグアとでこのギルド海猫亭を運営して参りましたが、今日からはエルさんもその一員です」

「はい、心しております」


 ふんす! と両手を握ってやる気を示すエルです。


「そこでエルさんにもうひとり、紹介したいモノが居るんです。、ご挨拶を」


 再びキョロキョロと辺りを見遣るエル。その視線は入り口ドアとロジンの部屋のドア辺りを行ったり来たり。

 けれどそのドアはどちらも開きません。


『エル、初めまして。


 頭に直接響いたであろう私の声に、エルは壁ドア天井に床、視線を彷徨わせています。


 そうなんです。私はこのギルド海猫亭の建物そのもの。

 意識も人格も持つ、不可思議な建物なんです、私。

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