第21話「ダメ、でしょうか?」


 まだまだ山狗亭も混み合う十八時過ぎ、エルは山狗亭職員たちはもう大丈夫だろうと見極めた様です。

 ギルド嬢からも職員からも、表立って戻ってきてくれとは言われはしませんでしたが、「またお手伝いに来ますね」と伝えると「是非に!」と一同からお言葉を頂戴していました。


 それにしたってアレですね。

 ギルド嬢たちの制服、目のやり場に困っちゃいます。スカートは短めで、お胸の辺りは谷間まで丸見えです。

 これはハンターさま方から評判良いのも頷けますが、エルがこんなの着ちゃったらあの瓶底丸メガネさんは卒倒しちゃうんじゃないでしょうか。



「エルさん、お疲れ様でした」

「あらロジンさま。……もしかして、お迎えに来て下さったんですか?」


「えと、ええ、国営ギルドからここは割りと近いですから」

「わざわざ申し訳ありません。私事でお騒がせしまして」


 国営ギルドから一旦海猫亭に戻ったことは敢えて言わなかったのはまぁ良いですけど、私がウミネコ飛ばしたのは貴方しか知らないんですよ。

 ボロが出そうな嘘はどうかと──とは思いもしましたが、国営ギルドから近い、と言っただけなのでセーフですね。事実ですし。


「ザマ──ボガード女史。今日は助かったわ。これ、受け取ってくれや」


 手渡されたのは封筒です。


「こちらは?」


 思い当たらなかったのか、エルがいつものこてん。

 そしてロジンとナポリが仲良く「はぅ」。


 「はぅ」の直後、少し剣呑な空気が流れた様な気もしましたが、意外や意外、二人はがっしり握手したんです。

 いいんですよ貴方たちのどうでもいいくだりは。


「バイト代や」

「そんな! わたくしはOGとしてお手伝いに参っただけです! 頂けません!」


 エル的に、前の職場に遊びに来たような感覚なんでしょうね。楽しそうでしたから。


「ほほ〜。ならなんや、ボガードはんは儂にギルド法違反をせぇと。そう言うとる訳やな?」

「いや、そんな──」


「ギルド法にちゃんと載っとる。ギルド経営者は正規の給金をきちんと支払うこと、ってなぁ。オマエのいつものセリフ言うたろか、おぃ?」


 ミラノの言葉に思い当たらなかったのかエルこてん、ロジン&ナポリの「はぅ」。


「規則ですからなぁ──ってかぁおい! 黙って受け取れ小生意気なザマスめが!」


 これは一本取られました。エルのいつものセリフですね。訛ってますけど。

 口は大変悪いですが、どうやらミラノなりにエルへの感謝を表しているようですね。

 口はめちゃくちゃ悪いですけど。


「元上司にギルド法違反をさせる訳にはいきませんね。では確かに、ありがたく頂戴いたします」


 三時間ほど働いただけですからね、そんなに多くはないでしょうけど大事なことですから。


「ではまた、近いうちにお手伝いに参りますので」

「おーきに。また頼んまっさ」


 まだ混み合うギルド山狗亭のホール隅っこで行われたこのやり取り。

 これでエルも円満退社、って事になるんでしょうか。

 エル本人はハナから円満退社のつもりだった様ですけどね。


 名残惜しそうに見送るナポリに手を振って、ロジンとエルは山狗亭を後にしました。


 ルート的には山狗亭から真西に向かうとエルの自宅。

 そこから南西へ向かいつつ、川をひとつ渡れば海猫亭です。


 海猫亭の二階に住むロジンはともかくエルは海猫亭に戻る必要はありませんから、自宅へ送り届けて解散でしょうか。

 なんだかんだと仕事の話を少ししつつ、不意にロジンが真面目な声音。


「エルさん」

「はい」


「この間はお母様のケーキもあって断られましたが、このあと少しお茶でもどうですか?」


 おお、時間はまだ十八時過ぎ。

 夕食に誘っても良い時間ですが、お茶ぐらいならあわよくば……


「ロジンさま。この間もお伝えしましたが、わたくしに限らず異性の部下を軽々に誘われるものでは──」


 それを食い気味に遮ってロジン。


「僕とダグアはギルマスと副ギルマスです」

「? そうですね。それがどうかされましたか?」


「ギルマスと副ギルマスとは言いますが僕らは同格、僕が彼の上司という訳ではないんです」


 こて────んと行きそうだったエルの首が、途中で止まってぴょこんと元に戻りました。


「そうですよ。もう僕とエルさんは上司と部下ではなくなるんです。だから、どうでしょうか?」


 これです!

 これがダグアが副ギルマス交代を急いだ理由のもうひとつ!

 もちろんその為に交代した訳ではありませんが、モヤモヤしてないで早く誘えとロジンの背中を押したかったそうなんです。


 親代わりにロジンとレイを育てたも同然のダグアですからね。心配なんでしょうね、ロジンの事が。


 さて、エルは頷いてくれるのでしょうか?


「ロジンさまったら、なんだか狡いことを仰ってる気が致しますよ?」


 ダメ、でしょうか?


「でも筋は通っていますよね。確かに」


 おぉ? 頷いて、くれそうな?


「けれど、今日はまだわたくし、副ギルマスではありませんもの」


 あちゃ、ダメっぽいですか……

 エルはメガネのツルを右手で押し上げ──

 あ、それって嬉しい時の──


「だから明日のランチに致しません? わたくしだってして行きたいですし」


 きたぁ! きましたよダグア!

 明日! ロジンとエルがデートです!

 訛りキャラに進化した甲斐がありましたよ!

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