第13話「失敗するエル」


 昨夜の初出勤を終えて本日、エルの海猫亭での二日目が始まっています。


 昨日がの出勤だったルイはお休みで、今朝はエルとシン三姉妹の次女センの二人が朝勤、昨日昼勤だったユニが通しです。


 ルイが来てくれたお陰で六人体制になりましたから、シフトが組み易くなった様なんですよ。

 それと言うのも、通しが一人、朝勤が二人、昼勤が二人で、毎日五人のギルド嬢が必要なのに、これまで五名しか居ませんでしたから。


 もちろんこれまで年中無休でルイたちを働かせていた訳じゃありませんよ。


 六日に一度はギルド嬢を休ませる為、その代わりにギルド職員が受付業務をこなしていたんです。

 もちろんギルド職員にも休みが必要ですからシフトのやりくりはまぁ大変で、さらにハンター達から職員による受付業務はウケが悪くてですね。


 と言うのも、ギルド職員はみな男性ですから。


 ハンターには男性率が高いのもありますが、何故か女性ハンターも受付業務はギルド嬢が望ましいらしいです。なぜでしょうね?


 幸い昨日はで入っていたエルが期待以上に仕事が出来ることが判り、かねてよりロジンとダグアで相談していた『通しで入った翌日はお休み』というルールが今日から採用されたんです。


 なので、昼勤→昼勤→朝勤→朝勤→通し、そして次がお休みという順でギルド嬢たちのシフトが固定できるようになりました。

 もちろん、ギルド嬢同士で相談し、シフトを交代する事なんかも可能です。以前からそうですし、各自で都合の良い悪いもありますものね。


 そして昨夜のうちにダグアからルイに休みが伝えられ、本日無事に彼女はお休みとなったんです。


 なぜロジンからでなくダグアから伝えられたか、ですよね、疑問が出るとしたら。


 ひと言で言えば、エルを誘って断られたロジンが使い物にならなかったから、ですね。



「ねぇエルさぁん?」

「どうしました?」


 少し業務の手が空いたらしいセンがエルに声を掛けました。


「ギルマスって、昨日あれから何かあったの?」


 ザマ──フォックスタイプの真ん中、ブリッジのところに中指を当てて二秒ほど。

 ほんの少し時間が止まった様にピタリと動きを止めていたエルが、ゆっくりメガネを押し上げてから口を開きました。


「いえ。ロジン様は特に何もなかったかと。もちろんわたくしの知る限りにおいてですが」


 なるほど。どうやらメガネのブリッジを押さえるのは、考え事をする際の手癖の様ですね。

 とは言え、エル視点だとロジンには特に何も無かったように見えてるんですねぇ。


 彼なりに意を決して食事に誘ったんだろうと思うんですが…………ご愁傷様です、ロジン。


 けれども、たとえギルマスがフニャフニャで使い物にならなかったとしても、特にどうということもなくギルドの業務は進みます。


 特にエルはなんの問題もなく活き活きと受付業務を続けていますね。

 朝の八時にカウンターからcloseの札を退け、バリバリバリと依頼を捌いていくエル。

 時に訪れる依頼者からの依頼受注についても滞りなく捌いています。

 もちろん海猫亭と山狗亭の違いもありますから、判断のつかないものはダグアらギルド職員に確認を取るのも忘れずに。


 いやもう本当に有能で、何より楽しそうに仕事していて気持ちが良いです。

 なぜこの彼女をアラフォーだからと受付業務から外そうと思ったのか。山狗亭のギルマスたちは節穴だったと言わざるを得ませんね。

 エルの有能さに対して、無能であるとまで言ってしまって良い様に思います。



 そうして正午きっかりにユニが昼休みに突入し、十四時少し前に昼勤の二人──キウとベスがカウンターへと顔を見せました。


 エルは頑張って笑顔を作って申し送りを行いますが、ベスはそっぽを向いてツンとしています。

 まだまだお子様なんですよねぇ。


 ここに昨日の顛末を知っているルイがいればまた違うんでしょうけど、生憎とお休みです。

 と、そんなところにくだんのハンサム瓶底メガネがやって参りました。


 幾分かフニャフニャも元に戻った様子ですが、何か別に良いことでもあったでしょうか。


「ベス、キウ、午後の受付業務よろしくね」


 そう言ったロジンが、なんと彼らしくもなく目敏く気付いた様です。


「おや? ベス、良いの着けてるじゃないか」


 自分の頭の左側を指差し、ロジンがニコッと笑ってさらに言います。


「よく似合ってる。可愛いね、ソレ」


 ぼむんっ! と音が出そうな勢いで顔を赤らめたベス。

 そうなんです。

 昨日までは着けてなかった、キラリと淡く光る石のついた髪留めがベスの頭で主張していたんです。


 おそらく昨日あれから、ゲトゥが町の宝飾屋まで走って大急ぎで作らせたものでしょう。

 エルが鑑定した核石、それと同じ薄黄色の石ですから。


 あ…………今度はベスがフニャフニャです。


 多分ですけど、ロジンが言った『可愛いね、ソレ』の『ソレ』という部分。

 聞こえてなかった、というか聞かなかったんじゃないでしょうか。心が。


「あっ、ほんとですね! よくお似合いです!」


 今度はエルです。

 さぁエル! 今こそ距離の詰め時ですよ!

 今ならベスもご機嫌さんです!


「ゲトゥさまの核石ですよね! とてもですね!」


 ……どうやらエルは失敗した様です。


「ふんっ! だ!」


 赤らめた頬のまま、ベスはそっぽを向いてAカンに座ってcloseの札を取り去り手を上げます。


「お待ちの方! どうぞ!」


 苦笑いのキウはエルの肩をひとつポンと叩き、ベスに続いてBカンに座って受付業務を始めた様ですね。


 状況がよく分かっていないエルとロジンに対し、大体全てを悟ったセンが小声でエルに伝えます。


「髪留めじゃなくて、ベス本人を褒めるのが正解だったみたいだよ?」


 なるほど。

 難しいですね、乙女心。

 私にはちっとも分かりませんね。

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