第11話「ダンジョン由来のもの」


「それでは報酬金を準備致します。少々お待ちくださいませね」


 そう言って後ろに座るギルド職員へとクエスト達成を知らせて報酬金を準備させている間、エルはもう少しゲトゥから話を聞くことにした様です。

 まだそれほど混み合ってませんもんね。


「ところでゲトゥさま」

「なんでぃ?」


は回収されましたか?」

「あたぼうよ! 混みじゃなきゃ俺らの命の値段は安すぎらぁな」


 エルが言った核石かくせきという言葉と、ゲトゥが言ったいしという言葉はまったく同じものを指しています。


 魔物に比べれば危険度の高いものではありませんが、その身に魔力を宿す動植物──『魔獣』というものが居ます。この魔獣には核石はごさいません。

 それとは異なり、から産まれた『魔物』の体内にはこの核石があるのです。


 別の大陸では『魔石ませき』と呼んだりもするそうですが、コレがそれなりのお値段で売れるんですよ。ピンキリですけど。


 だからハンター達は討伐依頼をこなした際は、極力この核石の回収を行います。勿体ないですから。


「よろしければこちらで買い取りますが?」

「いや今回は良いんだ。ちょいと目当てがあってよ」


 ほんの少しだけ佇んだエルでしたが、ハハーンとすぐに思い当たったらしいです。


「差し出がましい事を申しました。ご容赦くださいませ」

「おい姉ちゃん。なんか変なこと考えただろ?」


「いえ、ちっとも。あ、報酬金が準備できた様で──」

「こら待て。さっきのハハーンの中身を教えろ」


 私だけじゃなくてゲトゥにもバレてましたか。さっきのハハーン。


「あ、いえ、その…………奥様──ランさんへのプレゼントにされるのかな、って」


 そうなんです。核石というのは魔物から出てくるものなんですが、半透明の綺麗な色をした石。

 御守おまもりやアクセサリーとしても人気なんですよ。


「ちげぇよ! 娘だよ娘! 誕生日なんだよ今日!」


 少し小声でそう言うゲトゥ。

 ここはDカンですが、二つ隣のAカンに居ますものね、その娘。


「まぁ! それはおめでとうございます!」


 ちゃんとゲトゥ同様に少し小声でそう言うエルが、もうひと言付け加えます。


「私事ですが、わたくしも今日誕生日なんですよ。なんだか嬉しいです」

「お、そうかよ。そいつはめでてぇな、おめでとさん。そんで幾つに──ってこりゃ聞いちゃダメだな忘れてくれ。すまん」


 割りと紳士なところのあるゲトゥ。すぐに頭を下げて謝ります。憎めないおじさんですよねぇ。

 けれど少しも気にした素振りのないエルは、なんでもない事のように答えました。


「今日で三十五です。ベスさんのほぼ倍ですね」


 ベスは今日で十七。親子でも通る年齢差です。


「その核石、よろしければ鑑定致しましょうか? もしかしたら守護や属性付きかも知れませんし」

「そりゃわりいよ。ここに卸す訳じゃねえんだし」


 ゲトゥがエルの背後──ギルド職員に視線をやりつつそう言います。

 確かにそれはそうですね。ギルド職員の仕事のひとつに素材の鑑定業務がありますが、それはもちろん持ち込まれた素材の、ですからね。


「えぇ、ですからわたくしが鑑定いたしますから」


 少し混み始めたホールを振り返り、ゲトゥが腰の革ポーチから取り出したハンカチを開き、小指の先ほどの薄黄色の核石を示して言いました。


「なら頼む。鑑定ありなしじゃ全然違うからな」


 にこ、と少し口角を上げたエルがメガネを片手で押し上げて、その指をゲトゥが示した核石へとそっと触れさせ『鑑定』しました。


Évaluationいばるあしおん


 ポッと指先に灯った光が一瞬きらりと煌めいて消えます。


「ふぅ──」

「どうだった?」


「なかなか良いものですよ。属性は『風』、さらに敏捷アップの守護が僅かながら見込める核石ですね」

「よっしゃ! 最高じゃねぇか!」


 十個にひとつ位の割合で付く属性に加えて、三十個にひとつ位の割合で出る守護まで付いてた様ですね。

 これはゲトゥ、良い引きしてましたねぇ。


 ちょうど報酬金の準備も整った様です。

 職員から声を掛けられたエルが報酬を受け取って、ゲトゥへと正規の報酬金が支払われました。


「恩に着る、何から何まで助かったぜ姉ちゃん。また姉ちゃんのカウンターに座らせて貰うぜ」


「でしたら──エル・ボガードと申します。わたくしの名前も覚えてくださいね」

「分かったエル嬢。また頼まぁ」


 立てた二本指を額に当てて、ぴっ、と振って挨拶としたゲトゥがDカンを離れます。

 こそっとAカンに寄り、ベスにひと言『できるだけ早く帰れよ』と声を掛け、正面入り口から出て行きました。


 これでエルの最初の依頼がクエスト発注から達成まで完了です。速やかでしたねぇ。


「エルさん、貴女鑑定使えたんですねぇ」

「ずいぶんと前ですが、ハンターだった父からを頂いたものですから」


 しれっとエルが使って見せた鑑定ですけど、誰でも使えるものじゃないんですよコレ。

 世間の魔法使いが使う様な、修練で覚えられる技術ではなく、魔物と同じくダンジョン由来のなんですよ。


 『ダンジョン由来のものは大抵なんでも不思議』


 という言葉がありますが、未だその謎がほぼ解明されていないダンジョン自体が不思議の塊。

 エルが唱えた不思議な言葉もダンジョンの中でしか見られない、私たちが古代語と呼ぶモノなんです。


「ダグアさまも鑑定お持ちですか?」

「ええ。私はロジン様から頂いたスクロールで」

 

 ダンジョンで手に入るこのスクロールというものもなんだかよく分からないもの代表なんですが、巻物状のそれを解いて中に書かれた説明を読み、その内容を受け入れるとそこに書かれた魔術を覚える事が出来るんです。


 なんだかよく分からないものなのにそれを試して便利に使う──そんなのって人間だけですよね。

 ダンジョンもそうですけど、人間も大概不思議な生き物ですよねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る