信じるか信じないかは貴方次第。

麻婆豆腐

第1話

夜中はどうしても心が落ち着かない。

俺は至って冷静だ。

今日も俺はやり遂げた。


朝起きれた、

ごみを捨てれた、

歯を磨けた、

服を着替えれた、鍵を閉めて外に出れた。


俺はしっかりできた。


今は夜中の一時。

いわゆる、何もかも寝静まったといわれる時間なのかもしれない。


外は暗い、少し肌寒い。はぁ。


なぜこんな気持ちなのかもわからない。

ビタミンは飲んだ。

ネットで見たんだ、ビタミンを飲むと心の安寧が取れるって。


半信半疑だが、こんなものに頼ってしまうほど余裕がないのかもしれない。


携帯の通知は何もない。

出会いもなければ、友人もいない。


こんなに気持ちが堕ちていて自分に何ができるのだろう、

そればかり考えてしまう。


お気に入りの音楽、お気に入りの映画、耳が千切れるほど見聞きした。


しっかり泣けている、うん、まだ大丈夫、まだ。。


「今朝早く、S区にて若い男性が死亡した事件が発生しました。」


え?S区?若い男性?なぜだろう普段ならスルーするのに。


「この現代若者の孤独死が増えています。

 心に余裕がなくなっていたり、淋しさや孤独を感じた際には

 お近くの相談窓口に…」


そんなのなんの役に立つというのか。

親に相談しようが、飲み屋の姉ちゃんに話そうが、

何にもならないというのに。


いけないいけない。こんなものに悪態をついてしまっては。

はぁ、寝れない夜をどう過ごしたらいいんだろう。

煙草を買いに行くついでに散歩にでも出よう。


若者の孤独死かぁ。煙草が旨いな。まだ心は大丈夫。


…あれ、ここはどこだ?

変わった街だな。いけない歩きすぎてしまったのかもしれない。

携帯は…しまった。こんな時に限って…

タクシーでも止めればいいか。


「お兄さん。少しお話していかない?」


え、俺?え、こんな時間にすっごいきれいなお姉さん。

「え、俺っすか。お金ないんで。」


「お金なんていらないわ。

 私の話を少し、ほんの少しだけ聞いてほしいの。」


まぁそれならいいかと思った。

きれいな人だからいっそ騙されてもいいや。


「ここでいいわ。温かいお茶でもいるかしら?」


…公園?本当に話だけなんだ。


「あ、俺は大丈夫です。煙草…平気っすか?」


「もちろんよ、好きなだけ吸ってちょうだい。」


「あざっす。」


「ごめんねぇ、怖いわよね。

 こんな夜更けに女が一人で男の人に声かけるなんて。

 でもどこかのお店に行くほどのことでもないし、

 話だけ誰かに聞いてほしくて。」


「いえいえ、平気っす。俺でよかったら…その…話聞きます。」


こんなのドラマでしか聞いたことないし、

この俺がいう日が来るなんて。


「ありがとう、どうもありがとう、見知らぬお兄さん。

 話っていうのはね、恋愛がらみなの。

 一方的な話になってしまうけれど、いいわよね!」


意外と強引な女性だ。


「付き合っていた男の子がね、いやどうかしら、

 付き合っていたかも怪しいけれど、

 私のプライドが許せないから付き合ってることにするわね、」


やべぇ、女だ。


「毎日、まめに、頻繁に、それはもう連絡を取っていたわ。」


頭痛が痛い、か。


「それが昨日返信が遅くて電話を掛けたの。 

 もちろんすぐに出てくれたわよ。

 けれど待てど暮らせど返信が来ないのよね。

 ブロック確認をしたの、何を思ったのかね。

 そしたら、」


ブロックされてたんだろう。俺にでもわかる。


「ブロックされていたの。」


ほらね、はぁ、

煙草を買いに来ただけでこんな愚痴を聞かなきゃならないのか。

とんだ人生だな。

どうせ暇だしいいけれど、これは割と来るものがあるな。


「ひどくない?!

 いきなり電話かけただけでブロックよ?

 もう私頭にきて彼の家に行ったの!

 そしたら知らない男の人が出てきて私もうびっくり!

 でもおかしいのよ、何度も彼の家には遊びに行っているから

 兄弟も男子がいるなんて話聞いてないし、

 某アニメの探偵さんでもびっくりじゃない?」


遊ばれていただけだろうに。

きれいな人でも苦労するんだな。


「位置情報まではさすがに調べなかったけど、

 彼、心に闇というか、黒いものを抱えていたから

 そのせいで何かあったのかしらって思うようにして、

 家を後にして帰路に就いたの。」


…なぜだろう、ありきたりな会話過ぎてオチも見え見え。

何も面白さを感じない。

いつになったら話が終わるんだろう。

買ったばかりの煙草が半分終わってしまった。

ついていない。


「それでね、今ここにいるってわけなの。

 本当についていないわよね…。

 でもね?信じられないと思うけど、

 ここら辺彼のにおいがするの、

 柔軟剤なのかもしれない、とっても不思議よね?

 気のせいかもしれないけれど。」


変なこと言う。

人は見かけに…え?


「お兄さんからも同じ匂いがするのよ。」


その瞬間、お姉さんの目の色が赤く光った。

おいおい嘘だろう。映画の見過ぎか?

たばこの吸いすぎか?

あ、カラーコンタクトか。

今はピンクもあるらしいからな…。


「ねぇ。お兄さん、最近テレビかネットニュースは見たかしら?」


おいおい、怖いこと聞くなよ。


「最近若者の孤独死が流行っているんですって。

 物騒な世の中というか、淋しいわよね。」


俺は怖くなった。

今すぐにでも走って逃げたい。

これお決まりのパターンじゃないの。


「スゥ~。えぇ、いい香り。

 彼を思い出すわぁ。

 あなた今何歳?

 何か悩みを抱えてるんじゃないかしら?

 いいのよ、そのもやもやを出してくれても。」


俺は、この瞬間に二つ学んだ。

一つは知らない人について行かない。

最後は、女、こわい。


話していると不思議と黒い靄が出てくる。


気持ち悪い。


どんどん黒いのが出てくる。

出てくるというか、湧き出てくる。


吐きたい。


でも、吐いたらダメな気がする。


走らなきゃ。


逃げなきゃ。


でも、この人と一緒にいたい。


「さぁ。そうよ、上手ね。

 なかなか賢いわね、坊や。」


前が見えない、貧血を起こした時のようだ。

アルミホイルをくしゃくしゃにしたような視界だ。

吐き気も止まらない。

逃げたいのに足が動かない。


「そう、その調子。

 そのまま、そのままよ。」



ここから僕の記憶はない。


変な話だろう?

俺も思っている。

というか、俺が一番よくわかっていない。


起きたら見覚えのある天井だった。

天井かはわからないが、きっと天井だ。

俺の部屋だろう。


よかった。

あのあと無事に家に帰れたのだな。


なんて俺自身に良くない出来事だったんだろう。

おかしいだろ、今世の中は電子機器や化学で動いてるんだぞ。

あんな生き物どう説明しろってんだよ。

俺がおかしいのか?

それとも世間が公表していないだけで、現代に存在しているのか?


なぁ、誰か助けてくれよ!

教えてくれよ。


一旦煙草でも買いに行くか。


え、あれ、俺…。。。






「次のニュースをお伝えします。

 昨夜N区にて変死体が発見されました。

 体の九割が破損しており、

 部分的に溶けている状況です。 

 何とも言えない状況です。 

 凶悪な殺人犯が今この現代にはびこっているかもしれません。

 皆様、必要かつ緊急な外出以外絶対に出歩かないようにしてください。


次はあなたかもしれませんので。



以上、本日のニュースでした。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

信じるか信じないかは貴方次第。 麻婆豆腐 @hamukatsusand

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る