二の言霊 暴食 少女救出編
Ep11.近藤政司-01 藤花探偵事務所
私立
そんなメイン通りから少し裏手に入ったところにある昔ながらの喫茶店。レンガ調の外装に昔と変わらない看板。レトロな様相を醸し出しているその場所は、扉を開けると上部で鳴り響くドアベルと共にまるでタイムスリップしたかのような世界が出迎えてくれる。
喫茶――カームマウンテン。長い白髭が特徴のマスターがハンドドリップで淹れてくれる珈琲は、マスター自ら厳選して仕入れた豆を使っており、店内を満たす焙煎した豆の香りは常連客の心を落ち着かせてくれる。
今日も店内は静か。冷房の入った店内はアスファルトへ太陽が照りつける外の世界とは隔絶された心地良い空間。新聞を片手にソファー席へ座るサラリーマンに、喫茶店奥の席で人気のケーキセットを頼む女性客。そして、マスターが珈琲を淹れているカウンター席一番奥には、いつもその場所で時間を潰している髭面の男性が一杯の珈琲を飲んでいるところだった。
「いやぁ、マスター。今日のブルーマウンテンも最高だね」
「ありがとうございます」
マスターは男性客へ軽く会釈をしつつ女性客のための珈琲を準備している。男性客はブルーマウンテンの入ったカップをカウンターへ置き、タブレットを手に何やら調べものをしている様子だった。
そんな中喫茶店のドアベルが鳴り、レトロなメイド服を身につけた店員の女性が店内へ勢いよく駆け込むお客さんを出迎える。サスペンダーをつけたボタンダウンのシャツにズボン。ベレー帽を取ると、少し外ハネしている茶髪のショートヘアーに長い睫毛が特徴の可愛らしい顔が現れる。
「いらっしゃいませ。あら、
「
「いいんですよ。近藤さんは毎日うちの珈琲を飲みに来て下さるんですからマスターもありがたいって思ってますよ」
「いえ……むしろ事務所の冷房が壊れたからって日中も此処に居座ってるんですから、冷房代払わないといけないくらいです」
店内入口付近で花楓さんと呼ばれたウエイトレスと話をした後、
「こらーー、近藤さん! また仕事サボって何やってるんですか!」
「うわっ、恵海! そんな大声出すなよ。ほかのお客さんへ迷惑だろうが!」
「迷惑なのは近藤さんです。毎日長時間居座ってマスターの山本さんも困ってるでしょう?」
「マスターは、別に困っていないぞ? なぁ、マスター」
マスターは笑顔で会釈する。心優しいお爺さんといった印象だ。ドヤ顔の近藤を見た恵海は余計に頭上へ蒸気を発しつつ説教をする。
「このあと依頼人との打ち合わせでしょう? そんな事だから本格的な事件じゃなくて、いつも迷子の猫探しとか、浮気調査みたいな仕事しか舞い込んで来ないんですよ? 今日もどうせタブレットで碌な事調べてなかったんでしょう……って、あれ?」
そう、この髭面の男。名前は
てっきり近藤がいつものように
昨日の朝、
「ふはははは。俺の事を見直したか恵海。因みに依頼人とはこの後、この喫茶店で待ち合わせる事になっている。だいたいクーラーの壊れた事務所で打ち合わせなんかして、依頼人が熱中症にでもなったら大変だろう?」
「まぁ、それはそうですけど……」
まぁ、そう怒るなと頭をポンポンされ、頬を膨らませる恵海。宙ぶらりんになってしまった怒りの矛先をどこに向けようか、考えあぐねいている内に、依頼人らしき女の子が喫茶店へ入店して来る。中学生くらいだろうか? 可愛らしいサマーニットのワンピース、短い栗色の髪からはアンテナのような毛が数本跳ねている。息を切らした様子の少女の姿を確認し、ウェイトレスの花楓さんが水を差し出す。グラスに入った水を一気に飲んで落ち着きを取り戻す。
「はぁはぁ。ウェイトレスさん落ち着きました。ありがとうございます」
「いえいえ。ご注文が決まりましたら、申し付けくださいませ」
ソファー席へ座る女の子へ恭しく一礼するウェイトレスの花楓さん。女の子が一人になった事を確認し、予め依頼人の格好をRINEで聞いていた近藤が女の子の向かいの席へと座る。近藤の隣をキープしているのは恵海だ。
「
「あ、はい。探偵事務所の……?」
「はい、
「アシスタントの吉永です。よろしくお願いします」
互いに自己紹介を済ませたところで、依頼人用のアイスミルクコーヒーを代わりに注文する恵海。お腹の前で組んだ指を動かし、テーブルへ視線を向けたまま落ち着かない様子の依頼人。入店して来た時の様子からも、内心相当焦っているんだろう。暫く緊張を解してあげようと世間話をする恵海。アイスミルクコーヒーが来たところで、近藤が本題に触れる。
「依頼内容、拝見しました。お話聞かせてくれますか?」
「あ、はい。姉は私立白霊学園に通う高校二年生です。名前は
美樹が見せたのは携帯のストラップ。カラフルなアイスクリームが4段重ねになっていて、真ん中に可愛らしい顔がついた何かのキャラクターらしい。美樹が言うには、姉がつけていたストラップと一致するのだという。
「これは……何かのキャラクターですか?」
「えぇ!? 所長、知らないんですか? これ、
恵海が信じられないとおっさんを蔑むような眼で見るものだから、大きく咳払いをする近藤。二人のやり取りを見ていた女の子は、くすりと笑みを零す。少し緊張が
「で、そのクアトロちゃんがお姉さんのものである確証はあるんですか?」
「はい、此処見て下さい。コーンの先っぽが欠けているんです。これ、お姉ちゃんが以前スマホを落とした時に欠けた部分と一致します」
「なるほど~」
「姉は通学の際、必ずそこの公園を通るとも言ってましたし、もしかしたら事件に巻き込まれた可能性もあるんじゃないかって」
「あの、美樹さん。警察には連絡したんですか?」
「いえ……警察は信用していませんので……。とにかく、お姉ちゃんを助けてください! お願いします」
警察は信用していないと言う美樹の発言に一瞬眉根を寄せる近藤だったが、彼の探偵としての直感がただの行方不明事件とは何かが違うと告げていたため、近藤は美樹へ微笑みかける。
「分かりました。ご依頼、お受けいたしましょう」
「ありがとうございます!」
「そうと決まれば、美樹さんの分とぼくの分もケーキセット頼みましょう。ここのガトーショコラ美味しいんですよ、美樹さん。あ、勿論所長のおごりで」
「おいおい、依頼人の分も分かるがどうしてお前の分まで……」
「あ~、事務所のクーラーが直ったら、事務所での書類整理も早く終わるんだけどなぁ~~~」
「はいはい、分かりましたよ。マスター、花楓さん、ガトーショコラを二つ」
花楓さんが追加注文を取り、ケーキセットを二人分、奢る羽目になる近藤なのである。そんな二人の様子を見ていた神戸美樹は、恵海へ向き直り、お辞儀をする。
「おねーさん、気を遣ってくれてありがとう」
「あ、おねーさんじゃなくて、こう見えても
「ぇ? えええええええええ!?」
喫茶カームマウンテンに響く女の子の驚声。眼前の
★★★★★
二の
行方不明となった神戸美空の運命は? 皆さんのお気に入りキャラ、是非見つけて下さいね。
~用語解説~
クアトロちゃん――41《フォーティーワン》アイスクリームの公式マスコットキャラクター。コーンの上にバニラ、ストロベリー、チョコ、ミントの4段アイスが乗っており、ストロベリー部分に可愛らしい顔がある。他にチョコバニラのダブル君や、メロンとミントのグリーンさん、カラフルな色のレインボーちゃんなどのキャラも存在する。
喫茶――カームマウンテン
私立白霊学園近くの商店街、裏路地に入ったところにある隠れた銘店と謳われる昔ながらの喫茶店。ソファー席4席と、カウンター席のみの小さな店だが、長い白髭と白髪が特徴のマスターが厳選した豆を独自ルートで仕入れており、ハンドドリップで淹れる珈琲はまさに職人の技。ちなみにマスターの名前は山本さん。レトロなメイド服を身に着けたウェイトレスは
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