08謔流
今と昔では違うかもしれないが、刀は自分の為に振ってはいけないと俺は師から教わっている。
自分の為にというのは、自己都合の為にという意味だ。この自己都合とは、己の都合の良いようにという意味であり、己の一振りに対して言い訳をすることである。振る前か後かは問わないが、刀を手にした人間が身勝手な解釈を聞いてもいないのに一方的に始めてこれを容認し正当化する事を指す。「アイツは死ぬべき悪党であるから、この手で殺すしかない」みたいに。
刀は殺す為の道具ではない。殺すために使うのであれば、それはただの刃物であり刀ではない。では何の為に使うのかと聞きたくなってしまう凡人凡庸の為に俺の自己都合解釈で師の教えを述べるとすると、刀は『相手に勝つため』に使う手段に過ぎないのだと、このように講釈を垂れる。俺だって人間なので基本的には自己都合解釈だけで生きている。他人の感性や考えだけで生きるだなんて、それこそおぞましい。だから矛盾のように感じる俺の言動に辟易した者は、ここでUターンしてくれ。
では、辟易しなかった物好きの為に続けよう。
殺す事と勝つ事は違うのか。もちろん違う。殺せば確かに相手は黙るかもしれないが、死人に口がなくなるのかといえば無くなるのは口数だと言うのは当たり前だが、しかし相手を黙らせることが勝ちではない。当然だ。
相手が負けを認めなければ、負けを認めさせなければ勝ち負けで言う所の本当の勝ちではない……などと語りを始めれば、勝負に勝って戦に負ける、戦に勝って勝負に負けるなどと時と場合によっては呼べるかもしれないなどと、そのような屁理屈を持ち出す者が一定数いるかもしれない事を理解した上でこれに対して反論せずに自己都合解釈を続ける。勝つとは、生き残ることだ。
勝負に勝って
少し寄り添ってやろうか。考えられる勝負の最中でルール変更、決着の変更はあるだろうか。ハンディ等で何らかのルールが追加された事によって勝負が複雑になった、若しくは根底から勝負する気がなくなったかのどちらか。いや、何れにしても子供が負けを認めたくなくて言い出した強がりに過ぎない。やはり屁理屈だ。殺すな。勝て。絶命は結果。戦え。生き残れ。
まとめて終わろう。
何も考えずに怒りだけで刀に手をかける時があったとして。その時は思い留まって決してその刀を抜いてはいけない。その抜きかけた刀を己を
「よく、わからないですよ。師匠」
「そうか」
では、門下生の為にもう少し語ろう。
怒り、殺意、感情だけで振るった刀は
しかし、たとえ人を捨てて鬼になろうとも体が人間である限り人間は記憶で生きる生き物であるから斬る前と斬った後の記憶がどこかに残っている。刀か、己か、斬った相手なのかは人それぞれだが、残像が握る度にちらつく。同じ刀を抜くという動作なのにも関わらず、違う意味をどこかに感じてしまう。意味を見出してしまう。たとえ鬼でも。
何度も言うが、刀を道具としてしか扱わず、ましてや殺しの道具としか見ていない人間が
今この時点でここまでの話を全て理解し、理解していることを自覚しているのであれば、俺が教えることは何もない。
「はい。師匠。教えて下さい」
「そうか。バカだな、お前。話聞けよ。ここまでの話全部ちゃんと理解してるだろ」
「はい」
「まったく。刀はあるな」
「はい」
俺の知っているこの流派は、名刀を必要としない。しかし、鉄の塊であればそれでいいわけでもない。もちろん、木刀でも構わない。しかしただの木の枝では駄目だ。つまり、刀として魂込めて打たれた刀であれば良いのだ。修練すれば誰でも会得できる技だから、自分の相棒で構わないのさ。会得できるまで修行しなければいけない事を除けば、誰でも覚えられる。それでも本当にやるか?
「はい。お願いします、師匠」
「師匠は辞めてくれ。どうにも痒い。早来さんにしろ」
「はい!師匠!」
おい。話聞いていたか?
「まあいいや。とりあえず素振り百回」
「はい!」
第三のエト撃破、並びにロスト撃破して第四のエト。一連の戦いは終わった。終わった翌日から三日間、俺は休暇を貰った。少し休みたかった。貰ったこの休みの最中にフライングで敵が来ないことを祈ってな。
この休みは爆食爆睡して過ごそうと思っていたのだが、運悪く門下生に捕まった。適当な広さのある場所を探し、見つけた大きな桜の樹の下で座って稽古を始めた。あくびをしながらその素振りを見ていた。
素振りを眺めていると隣から知らない女の声が聞こえてきた。
「ねえ!ちょっと、聞いているの!
アメリカ被れの金長髪美人日系女性がひとり、九時の方向でガミガミ何か言っている。前のめりになって質問……いや、尋問しているのか。新キャラだな。
「誰だよ、お前」
「え?あたしを知らないの?あんた本当に三等兵?」
「悪かったな三等兵で」
俺も好きで三等兵になった訳じゃない。どうせなら二等兵が良かった。
「ふーん。まあ、いいわ。それで、英雄さんは一連の結末をどこまで知ってるのかしら。ちなみに私は軍の射撃ナンバーワンだからあんな棒を振って稽古する必要ないから」
「そうかい。じゃあ、どうしてその射撃ナンバーワン様がここで俺の指導を見ている。棒振りには興味無いんだろ?桜が好きなのか?」
「拙者も聞きたいでやんす。北海道ゴシップ新聞に載せるでやんす」
今度は反対側三時の方向から「ぐへへ」と笑うネズミみたいな男がひとり割って入って来た。この二人はどこの諜報員だろう。洞爺選択機関かな。
「取材なら本部の広報に聞け。俺よりもまともな資料を持ってるだろうから」
「へへ。あんな表の紙くず、当てになりやせんぜ。ささ、旦那」
「こんな桜の樹の下で話すことでもないんだけどな」
サードに札幌テレビ塔を模した大きな建造物をレイの出力で特殊防御膜を突破、そのままタワーを突き刺してサード爆散撃破。第四のエト『U』はこれに巻き込まれてなぜか大破、ロスト。終結。
北海道軍は敵国全てに対し、この『零和型黎和級ゼロ番艦令和』の威力と希望を提示して和平条約を結ぶ。貿易の一部関税撤廃と今後とも主戦場となるであろう北海道各地に支援物資、軍事提供、戦闘員の人員派遣を約束。北海道はあっという間に復興が進み、街を取り戻した。
そのゼロ番艦に乗っていたパイロットは一部で英雄だと言われ、担がれた。政治の匂いがするだろ?
表彰状と勲章が貰えるから式に参加しろと言われたが、俺は参加を拒否した。レイが会場に運ばれていたからそれで十分だろ。
記念の盾等一式は後日郵送だと聞いた。どうしても本人に送らなければ本部の格好がつかないのだろう。仕方ないから受け取って転売して、その金で飯でも食おうかな。
「内部情報っぽいことを言うとすれば、そうだな。第四のエト『U』は巻き込まれてロストと言うことになっているが、正確には巻き込まれたのではなく
「戦闘機にはパイロットがいるの?」
「ああ。操縦しているのは俺ではないけど」
「そうなんすね〜。メモしやすね〜」
「もう帰っていいか。夕飯の支度がある」
「まだ専用ライフルの真相を聞いていないわ。条約には明記されているのに実戦記録には無いのよ。どこに隠してあるのかしら」
「お前はガンラバーなのか?」
「ええ、そうよ。オタクよ」
「そうか」
それから何度も左右(主に左)から質問(尋問)されたが、適当に流し続けたら諦めたのかやがて会話は途切れた。
春の暖かで冷える風が流れている。秒速何センチかで落ちる花びらを静かに速めるささやかな春の風。桜花の匂いは日本の四季を体感できる唯一の香り。幾ら真似しても完コピの域には辿り着けない自然の脅威とも言える風花。風香。サードインパクト(ダイアウト)で燃えなかった奇跡の桜。調べたところ令和も北海道の桜が満開になるのが五月らしい。ゴールデンウイークって言葉は歴史の教科書でしか聞いたことなかったけどな。
「それにしやしても、次は何日に地球侵略に来ますから準備しておいて下さい〜、ってのは親切な敵ですよねぇ」
「そうだな。それは、そうかもしれないな」
そうかもしれないし、違うかもしれない。敵が攻撃の予定を俺達に知らせているとも捉えられるが、知られてしまったとも考えられる。どちらも人間側の視点だけど。
奴らはどう捉えているのか。バレた以上、月イチというルールを破っても良いだろうに。律儀に現れて、地球を破壊して人類滅亡を企み、人類に倒される。ここまでがセットなのか。全て世界の思惑通りなのか。エトも、俺達も全ての行動は予定調和。予言の書あの書は誰が書き、誰が読むべきだったのか。北見紋別シブノツナイ予言の書。未来の予定が書かれている公開書。じゃあ、公開されていない書はどこにある。誰が何をどこまで知っていて、どうするつもりだ。人類は滅亡するのか。するべきなのか。世直しがしたいだけで、結局しないのか。知らない事を知るためには戦うしかない。戦いの先に知るしかない。
・第三次エト交戦 備忘録
・敵対象生物
〉第三エト「TORA」撃破、ロスト
〉第四エト「U」ロスト
・サードインパクト(これは三回目のインパクトという意味のサードではなく、サードによるダイアウトを意味するサード。数多の隕石攻撃による被害の事を指す)が第二次であるが、地球規模の被害の為省略する。
・自軍被害(推測)
沈没艦は破棄の為に沈めた艦を含む。戦艦と記載したものは軍艦と同義として扱う。無人仕様も含む。
〉航空浮遊式戦艦
沈没二隻、大破無し、中破以下数隻 他
〉航空浮遊式空母
沈没無し、中破以下一隻 他
〉航空浮遊式護衛艦(戦艦以下の級まとめ)
被害艦数隻 他
〉海上戦艦
沈没 戦艦無し、空母無し、護衛艦以下二隻
大破、航行不能 空母一隻、護衛艦以下三隻
中破以下 護衛艦以下十二隻 他
〉死亡 十四人
〉負傷 二百七人
一般人含め、個人の負傷死亡に関する正確な数値は
・第五次世界大戦 備忘録
・自軍被害(推測)
沈没艦は破棄の為に沈めた艦を含む。戦艦と記載したものは軍艦と同義として扱う。無人仕様も含む。
〉航空浮遊式戦艦
沈没九隻、大破三十二隻、中破以下百隻強 他
〉航空浮遊式空母
沈没二隻、大破一隻 他
〉航空浮遊式護衛艦
沈没破棄百五十隻と余り、大破・中破併せて百隻余り。何れも帰還済
〉海上戦艦
沈没破棄 戦艦七隻、空母三隻、護衛艦以下六隻 他
大破、航行不能 戦艦十二隻、空母二隻、護衛艦以下二十二隻
中破以下 計百二隻
〉死亡 七十二人
〉負傷 二百八人 他
一般人含め、個人の負傷死亡に関する正確な数値は
以上。
三章へ続く。
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