第十三話 海と共に生きる町

勇者御一行様は、フィンの言う通り、王都ゼストスを旅立ってから十日ほどたった夜、港町カイレアへと到着した。

その日は、カイレアに入ってすぐのところにあった宿屋に泊まることにした。

久しぶりのちゃんとしたところでの就寝だったため、彼らはすぐに、眠りに落ちた。


次の日の朝、集合場所であった宿屋の入り口前に集まると、レオがカイレアの町を散策したいと言い出した。

その提案に乗って、フィンたちは、皆でカイレアの町を散策してみることにした。

ユリシアはいつもの通り、自分は行かないと言っていたが、ツバキに半ば強制的に、一緒に連れていかれることになった。


フィンたちは、朝から掃除をしていた、そこの主人の娘らしき少女に、いってらっしゃい、の一言をもらって、宿屋を出た。


今回は、散策なので、セリカには宿屋の厩舎で、お留守番をしてもらうことにした。


宿屋から出ると、大きな通りが広がっていた。

昨夜は暗かったため気づかなかったが、フィンたちが泊まった宿屋は、カイレアの中央通りの端に位置していたらしい。


中央通り

カイレアの町の中央を一直線に貫く、よく整備された道である。

海岸へと続く広い道であり、この通りの脇には、カイレアで採れた、新鮮な海の幸の料理を売っている、出店などが広がっていた。

海岸まで行く途中に、カイレアが『港町』と言われる所以である、港がある。

その港には、漁を行う船から、隣大陸との交易品を乗せた船まで、さまざまやってくる。

この町には、異邦人の交易商がおり、彼ら以外の外国人はいないとされている。

しかし、隣大陸との交易を終えた船には、隣大陸の異邦人も乗ってくることがあると聞いたことがあるだけでなく、見た目にもほとんど差がないため、実際のところは、よくわからない。


海辺の方では、真珠の養殖もしているようで、その真珠を使ったアクセサリーも、カイレアの名産である。

聞いた話によると、真珠細工職人の工房も、海辺にあるらしい。


港に船が多くあるということからも想像できるように、カイレアでは、造船業も盛んである。

エレジアで扱われている船のほとんどが、この町で造られたものであり、カイレアには、造船所が、複数存在している。

どうやら、造船職人が人気職業であるらしい。



フィンたちは、中央通りを歩いて進みながら、開いている出店を探す。

出店はあるのだが、どの店も、開いていないのだ。

しかし、店主がいないわけでもなく、みな店の中や外で、何やら準備をしている。

今の時間的に、まだ開店前であるということは、おそらくないだろう。

フィンは、何か予期せぬ問題でも発生したのかと思ったが、彼らの楽しそうに、しかし熱心に作業をしている様子を見て、それは見当違いであると、すぐに理解できた。


「あーあ、こんだけ海のにおいがしてたら、食べてぇよぉ、海の幸」


潮風の上で、海のにおいと焼いた海鮮匂いが混ざり合い、鼻先にまとわりついた。

レオは、思わずよだれを垂らしながら、そう言葉を漏らした。


リオがレオをなだめながら、少し笑って、


「フィン、他に新鮮な海の幸をを食べれるところは、どこかにないの?」


フィンにそう質問した。


「あ、そういえば、もう少し港のほうまで行ったら、市場があった気がします」


「市場!?」


「よし、そこにいこう!」と、海鮮が食べた過ぎて、目がエビになっているレオに案内を促され、市場へと向かった。


ちなみにこの間、ツバキは宿屋に戻ろうとするユリシアの腕をつかんで、引き留めていることに必死だった。


「そん……なんじゃ……世界なん………て……救えません……よ……!!」


こんな言葉を吐きながら、ユリシアを説得しようとしていた。

ユリシアには、あまり響いていないように見えたが、腕を振りほどくことはなかった。



「……俺の…海の幸はあ?」


市場に着くと、そんな情けないレオのつぶやきが潮風に溶けて、流れていった。

ここも、何かの準備で忙しいようだった。

しかし、昨日の夜から何も食べてない彼らにとって、その情けないつぶやきが出てしまうのは、当たり前のことであった。


さすがのフィンも食欲には勝てなかったのか、市場にいたおばちゃんに聞いた。


「あの、すいません、どこかに、新鮮な海の幸を食べられる場所はありますか?」


すると、そのおばちゃんが親切に教えてくれた。


「ああ、あんたら、観光しに来たのかい、ちょっと数日早かったかもねぇ」

「でも大丈夫さ、そっちの路地を曲がったら、酒場通りがあるさね」

「そこの酒場だったら、どこも開いてるさ」


「よし、行くぞ!!」


おばちゃんの言葉にレオが、颯爽とその路地の方に走っていった。

レオに他の三人も少し呆れながら、しかし速度を上げてついていく。

そしてフィンは、「ありがとうございます」と感謝を告げて、レオの方について行った。

おばちゃんは離れていくフィンに、


「もう数日は、この町に滞在するんだよ?」


そう声を大きくして言った。



おばちゃんを疑っていたわけではないが、路地裏を抜けると、本当に酒場通りがあった。


フィンたちはそのうちの一つに入って、絶品の海鮮料理をたらふく食べたのだった。

香ばしく焼かれた大ぶりのぶりぶりの海老、異国の香辛料で煮込まれた白身魚のスープ、丸々一匹を串に刺したイカ焼き、そして真珠のように艶やかな貝の酒蒸し。

レオたちは夢中でそれらを口に運んだ。


こうして、港町カイレアでの日々は、潮風と海の幸に包まれて、静かに始まった。


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【キャラクター紹介】

■リオ・クラウス

・年齢:16歳

・性別:男性

・種族:人族ヒューマン

・出身:クラウス伯爵家


白に近い金髪のショートミディアムに、水色の瞳を持つ少年。

色素の薄さと白い肌は、彼がアルバスであることと深く関わっている。

穏やかで争いを好まず、人を傷つけることを何より嫌う性格で、その生き方は彼に医療魔術師という道を選ばせた。


淡いブルーグレーのシャツに、汚れにくく加工された白銀のローブ。

胸には王立医療魔術院の首席卒業者バッジを付けている。

裾と袖には金色の装飾紋様が走り、黒系のスリムパンツと白革の静音ブーツがその姿を引き締める。

腰のベルトには医学書ホルダーと小型のポーチが揺れ、旅でも治療でも手を抜かない彼の気質が滲んでいる。


優しさと研鑽を積み重ねたアルバスの青年は、旅の途中で今日もまた、誰かの痛みに手を伸ばす。

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