第16話◇恋バナなんて初めてするわ

「っ、実はね……」


 改めてスコーンをしっかりと持ち直して、ゆっくりと食べ進めながら、わたくしは先日のウィル様との顔合わせで起こったこと、全てを話した。


「それでね、ウィル様が氷で『希望のかけら』をそっくりそのまま再現して下さって。どうしてここまで再現できるのかを帰りがけにお尋ねしたら、それは当然、ずっと見てきたからですね、なんて仰って……わたくしの目を、じっと見つめて……。そんなの、まるで薔薇だけじゃなくてわたくしのことも見てきたと仰ってるみたいで……」


「え、実際そうじゃないかしら?あの王家主催の、貴族の子供たちを集めたアルウィン殿下との交流会ね。あの時からずっと、なんでしょう?」

「婚約破棄されているわたくしを見かけた直後、その足でアルウィン殿下のところに相談に向かった……って」


「そんなの、絶対次の男には渡さない!!って本気で思って下さってるじゃないの……!!」


 途中から、あんまりレジーナがにんまり笑いながら聞いているものだから、恥ずかしさのあまり異様に喉が渇いてきてしまって、結局、呼び鈴を鳴らしてアンにお茶のおかわりをお願いすることになってしまった。


 いつの間にかマフィンも食べ終わって、今、私のお皿の上には薔薇のクリームで飾られたケーキが二種類置かれている。

 チョコレートのムースケーキには、生クリームを絞って形作られた真っ白の薔薇が。

 ショートケーキには、ベリーのクリームを絞って形作られたピンクの薔薇が。


 レジーナはとっくにケーキは食べ終わっていて、次はどのクッキーを頂くかを物色していた。


 けれども、最初はニヨニヨしていたレジーナも、膝の上に乗せられたことや微笑まれていたことに関しては、さすがに驚きで目を丸くして絶句する。

 動揺してしまったのか、思わず摘まんでいたクッキーをお皿に取り落としてしまったほどだった。


「し、信じられないわ~!!いえ、アメリアが私に嘘を言うわけがないって、絶対に本当のことなんだって、それは分かってるのよ!?ただっ……笑いかけたり女性に愛を語ったりするウィリアム様が、この世に存在するの!?し、しかも、お膝にアメリアを乗せるなんて……!?ああっ、想像できない!!」


「でしょうね。ご両親であるベルナルド様とミリム様も、ウィル様の暴走に爆笑していたくらいですもの……」


 早口になって頭を抱えて悶え始めるレジーナに対して、「それは、そうなるわよね……」とわたくしも苦笑する。

 ケーキを口にしながら。


「だけど、ウィリアム様がいて下さってよかった。アメリアがちゃんと幸せな花嫁様になってくれそうで、安心したわ」


 けれども、レジーナはこう締めくくってくれた。

 きっとずっと昔から心配してくれていたんだわ……。


「それで?アメリアは、結婚後も薔薇のお仕事は続けるの?」


 結婚後の仕事についてもよく語っていたからか、レジーナは訊いてきた。


「そのつもりよ。例のお店も、やりたいと思ってる」


 それは子供の頃からずっと夢見ていた、まだこの国のどこにもない形態のお店だ。

 漠然としていたイメージは少しずつ形になってきていて、わたくしは毎回「こんな感じのものを作ろうと思うの」と試作品をレジーナの元に持ち込む。

 実は今回持ち込んだお菓子も、そのお店のための試作品だったりする。


「そのお店の話、小さな子供だった頃からもう何度も聞いたわ。薔薇の生花だけじゃなくて、雑貨や化粧水や香水あたりも買えて……そして、喫茶スペースね」


 クスクスとレジーナが笑う。

 当時おままごとの延長線で言っていたことは、十八歳になった今では現実にわたくしたちの目の前に存在している。

 一部だけではあるけれど。


「そのあたり、ゾグラフ家は大丈夫そうだった?計画変更なしでいけそう?」


 問いに、わたくしはその件についても思い起こす。


「そうね。そこに関しては、全く問題なかったというか。むしろ……ウィル様の方が、意外と、乗り気で……」


 既に当然のように今後はゾグラフ家の新事業……というか、ウィリアム様中心での薔薇関連事業が始まることになっていて、逆にわたくしの方が生産についてなど、導入のための方法を細かく相談されたのだった。


「近衛の仕事のために新婚生活は王都になるから、店をやりたいなら王都で場所を探すのがいいんじゃないかって」

「えっ、本当に!?あの極寒令息と評判のウィリアム様が、そこまで踏み込んでアメリアに言って下さったの……!?」

「そうなのよ……」


 元はわたくしの「希望のかけら」を維持するためだけに雇われていた庭師たちを、今後もそのまま雇い続けたいし、今後は事業として拡大させたいということだった。


「すっごく愛されてるじゃない、アメリア~!!」


 事業として拡大、というあたりで、本気さが溢れているのは明らかで、動くお金も大き過ぎて。

 しかもそれは、わたくしが嫁がないなら決してやらないことのようで。


「う……そうよね。愛されてるのよね、わたくし……」


 自覚すると、とても嬉しいけれど、恐れ多くもある。

 やっぱり公爵家が動くとあまりに大事になり過ぎて、顔が青くなったり赤くなったりしてしまうわね……。


「まだ自分でも信じられないのよ。もしかして、夢の中なのかしら?」


 思わず尋ねてしまったわたくしに、レジーナは吹き出すように笑った。


「ふふっ。大丈夫。ちゃんと現実よ、アメリア」

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