銀色日和

永井月月

第1話 遭遇!



 私、遠藤梨杏えんどうりあん(19)は目を覚ます。まだ登り切らない秋の太陽は、それでも部屋を暖かく照らしてくれる。


 ベッドの上で全身を伸ばし、体を縦一文字にして思いっきり力を入れる。


「んんん~~~~!あぁ……朝だっ!!!」


 大きく息を吐いて勢いよく立ち上がる。スマホのアラームが鳴る直前に解除する。ふふふ…私ご自慢の「エア目覚まし」今日も成功!


 サッとカーテンを開けると、さっきよりも強く太陽が私を祝福してくれた。今日はお日様がとても優しい。私のための朝みたいだな、なーんて。


 部屋のドアを開け、ちょっと急な階段を下りる。リビングのドアを開けると今日もパパが変な体操をしている。ラジオ体操第8って本当にあんの?って毎回思うけどこの人に聞いてもきっとロクな答えは返ってこない。


 半分無視しながらリビングに入ると嬉しそうに話しかけてきた。


「おお!今日も我が娘は何と可愛らしいか!!!まるで野に咲く一輪のバラ。さぁ……一日の始まりを飾る抱擁を!!」


「はいはいすごいすごーい、パパ今日も元気だねー。心の中で抱擁しといたよー。ねぇママー今日朝ごはんなにー?」


「ちょっと梨杏、パパは構ってあげるだけで調子乗るんだから相手しないの!昨日の残り物テーブルに並べといたからそれ食べちゃってくれる?」


 軽く返事を返すと椅子に座って朝食を取り始める。残り物とは言えママの手料理、肉じゃがに焼き鮭、それからネギとワカメのお味噌汁。あったかくていい匂いだけでよだれが口の中に溢れてくる。毎日こんなにおいしいご飯が食べられるなんて私は幸せだなー!ってしみじみ感じる。


 しばらくすると体操を終えたパパと洗い物を終えたママも食卓に加わり、いつもと同じ騒がしい朝の食卓が完成した。


「ママの手料理は今日も眼で見て美味しい!口に入れて美味しい!まさに一石二鳥だな!!」


「パパ……この前出来合いのコロッケ出した時にも同じこと言ってたわよね?」


 コントみたいに朝から話してるパパとママ、ママはパパのことを余り良く言わないけど、とても好き合ってるのはずっと一緒に暮らしてきた私が一番知ってる。


 この二人みたいになれる相手、私にもいるのかなあ。


 そんなこと考えてたらあっという間に時間が経っていた。今日の一限遅刻厳しい先生だから急がないとだ……。慌てて着替えて顔を洗い、最低限外に行けるだけの化粧をし、髪を整える。まーマスクするし適当でいっかなー、なんて自分に甘くなりがちで少しだけ呆れる。


 この分なら多分間に合うな、と安心しながら靴を履いてパパとママにいってきますの挨拶をする。部屋から返事が返ってくるのを聞いて世界に踏み出す。


 いつも乗るバス停までの道のりはいつもと変わらず平和で、暖かい。大体5分程でバス停に着く。なんだろ、なんか近づくごとに騒がしくなっている気が。


 バス停が視界に入るころには、ちょっとした人だかりが出来ていることがわかった。どうもバス停を中心にひとが集まってるみたい。事故でもあったのかな、と少し不安になる。


 少し足取りを速めて人だかりまで辿り着く。少し背伸びして中心を覗いてみる。


 

 何だあれ。おかしい。


 脳が一瞬理解を拒む。見てはいけない。見られてもいけない、多分。


 目を逸らすよりも早く、それは私の目を射抜いた。あー……やばい。私終わったかも。直感だけど。



 銀色の全身タイツに身を包んだ男と目が合った。



 ——奴との付き合いが始まった最初の朝だった。

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