#12 例えば才色兼備のギャルと買い出しに行くことになったらどうする?


 例えば絶体的ヒロインが目の前にいて、いつも一緒にいる親友と話しているとする。

 そこになぜかクラスメイトの女子たちが集まり始めて、居づらくなったモブ・オブ・一般人はどうしたら良いのだろうか?

 本来、その場にいてはいけないモブ・オブ・一般人は完全に空気に徹するほかないとしたら、汗が止まらくなるのは必然ではないのだろうか?



 ホームルームをはじめる前の休憩時間にルナさんと俺はお化け屋敷の企画案を話していたのだが、そこに白鷺さんがタイミングよく来たのだった。

 ルナさんは思い出したようにカバンから、ディルミーランドのお土産を取り出して白鷺さんに渡したまではいい。

 そこから二人はディルミーランドでの話に花を咲かせ、いつの間にか話を聞きたい女子たちが集まり始めたのだ。

 


「ナギ君とたくさん写真撮ってきちゃった」

「うわ~~~ルナっちめっちゃ盛れてて良いじゃん」

「でしょ~~~」

「いいなぁ~~~ディルミー。って、天雲くんもヤバっ」

「なんか尊くない?」

「それ思った」

「マジ? めっちゃ嬉しいんですけど。尊死するって」



 尊いとは……?

 尊死とは……?



「天雲くんって、休日こんな感じなんだ?」

「えっ?」

「これ、どこの服?」

「ええっと……CUの……です。すみません」

「めっちゃエグいって」

「ええっと、なんかすみません」

「ちょっと~~~ナギ君が神なのは分かってるけど、みんな押し強いって」



 ルナさんが質問攻めを遮ってくれて助かった。



「ほら、みんな~~~ホームルームの時間だよ~~~」



 花ちゃん先生の登場により、ようやく俺は解放されたのも束の間、今度は学祭のお化け屋敷の企画を話さなければならない。

 ルナさんと少しづつメッセで進めていたお化け屋敷の企画がいよいよ大詰めとなっていて、そろそろみんなに説明をしなければならないとルナさんと打ち合わせをしていたのだ。



 ……途中でうやむやになってしまったが。



「じゃあ、八条さん司会進行お願いしますね」

「は~~~い。じゃあ、ナギ君もよろ~~~」

「はい」



 ルナさんと二人並んで教壇に立った。

 緊張するけれど、人間はいつか勇を鼓すべきときがある。

 つまり、それが今だ。

 それに、これは俺とルナさんで考えた企画だ。

 きっとみんな分かってくれるはず。




 *




 俺とルナさんの考えた企画案は大好評だった。

 とにかく企画書は綿密に書いたし、心霊スポットや震慄迷宮、ディルミーランドの視察から得た案をもとにストーリーを作り込んだ。

 この前決めた班にさっそく分かれてもらう。



「あたしとナギ君は、手の足りないところに回るから」

「はい。あと、ニオイ班がなかったので、それは俺が担当します」

「ルナちん、質問~~~」

「なになに?」



 手を上げたのは美術班のメンバーの女子だ。



「ゾーン3のゴザは滑ると思うんだけど、固定はどうしたらいいの?」

「俺から説明します。それに関しては、裏側に養生テープを貼って、縁も同じように上から固定しようかと思っています。養生テープなら貼ってもすぐに剥がせるし、規定には抵触しないと思いますので」

「なるほど」



 剥がれなくなる接着剤を窓や床に付着させるのは禁止と通達があったのだ。

 


「あの……この人体模型は貸し出ししてくれんの?」

「あ~~~それはあたしが交渉してくるね。ま、他のクラスが使うとかも考えられるから、最悪、使えなかったら借りるっきゃないっしょ」

「借りるって……」

「俺の知人にマネキンを貸してもらいます」


 

 霊の事故物件で散々驚かされたアレだ。

 まさか貸してくれないなんてことはないから、人体模型を借りることができなくても悲観することはない。

 どちらかというと、問題なのは音響班のほうだ。

 意外にも音声を録音するのは難しいと思う。

 というのも、演技力が求められる。



 果たして、クオリティは大丈夫なのか心配になる。

 


「ってことで、今日から準備をするのにまずは材料集めからよろ~~~。あたしとナギ君はニオイのほうの素材集めるね」

「りょーかい」

「オッケー。って、男子、協力してよね」

「するって。マジで今回優勝狙ってるから」

「いや、行けるだろ、コレ」

「企画書だけでも怖いし」



 良かった。

 みんなやる気になってくれている。

 ここでブーイングが出たら、本気でどうしようと思っていた。

 俺が安堵していると、となりからルナさんが俺の背中を軽く叩いてくれた。



「やっぱ、ナギ君にお願いしてよかった。ありがとね」

「いえ。ルナさんがいたからこそです」



 ルナさんは俺の企画を的確にまとめてくれたのだ。

 断片的だった俺のいくつものストーリーを一つにしてくれたのはルナさんだ。

 ゾーン1の廊下、ゾーン2の山奥の墓場、ゾーン3の廃病院、ゾーン4の事故物件、そしてラストゾーン。

 これからのストーリーをディルミーランドのテーマみたいなバックボーンはルナさんの案。

 本来、ゾーン2からゾーン4のいずれかのストーリーにしようかと考えていたところ、



『いいじゃん。全部やっちゃおうよ』



 と言ってくれて、すべて繋がるストーリーを組み立ててくれた。

 やっぱり、ルナさんはすごいと思う。



「本当に学祭楽しみになってきました」

「だね。あ、ナギ君」

「はい?」

「一つ提案があるんだけど」

「なんでしょう?」

「みんなで集合写真撮って、それも小道具の一つに使ってみない?」

「はい?」

「あと、お化け屋敷作ってるところとかさ、写真撮ってノートに纏めるの。それで、メイキングみたいにしてクリアした人たちだけが見られるみたいなやつ」

「いいですね。それ、学祭っぽくてすごく良いですっ!」



 集合写真は大きくプリントアウトして廊下に貼り出して、全員の顔をボールペンでグリグリするらしい。

 グデ氏ちゃんもとい、タマキとルナさんが配信したホラゲ”家族写真”のパクリだ。

 それとは別にメイキングを作る。



 すごく良いアイディアだと思う。



「ルナさんさすがです」

「良かった。あたしも少しくらい役立ったじゃん」

「少しじゃなくて、すごく貢献してますって」



 ルナさんはすごく嬉しそうに笑った。




 *



 

 放課後、クラスメイト達は班ごとに分かれて、さらに細かく係を決めているなか、俺とルナさんはさっそく買い出しに行くことにした。

 クラスに割り当てられる予算は三万円と多いのか少ないのか、材料を揃えてみないとピンとこない。



「ライトとかアロマとか、小道具は全部百均で揃えるとして、一番掛かるのはコスメだよね」

「ですね。あとは絵の具も大量に使いますし」

「そういう経理ってやつ、あたし苦手だわ」



 遊園地で大食いしたときの様子を見る限り、なんとなく想像はしていたけど、やっぱり苦手だったみたいだ。



「それは俺がやります。ルナさんは俺がまったく分からないメイクとかお願いしてもいいですか?」

「オッケー」



 当日、クラスメイトをゾンビ化させるコスメは俺達が買い出しをすることになった。

 もちろん、俺はまったく分からないから、ルナさんに頼るしかない。



 百均に到着し、店内を見て回る。



「ええっと、コスメとメイク落としと、筆……あとは、あーアロマだっけ」

「はい」

「あとさ、受付のノートとか必要じゃない?」

「ですね。お化け屋敷作るのに夢中で、細かいところに全然目が行ってませんでした」

「だって、ナギ君は職人だからね。そういうとこはあたしに任せてよ」

「はいっ! お願いします」



 そして、ルナさんは重要なことに気づくのだった。



「あのさ、よく考えたらね、制服だと血糊とか付けられないし、汚せないよね?」

「確かに……」

「ドンキで制服買わない?」

「え……せ、制服が売ってるんですか?」

「うん。あとはネットとかで。ちょうど今ハロウィンのグッズ売ってるから、探せば安く買えるじゃん」

「そうすれば血糊も付けられますし、もっと怖くできますね」

「ゾーン2の廃病院が一人と、ゾーン3が二人、それにゾーン4に四名で、七名分かぁ」

「でもサイズとかありますよね?」

「全部大きめの買っておけば全員着られるし、サイズ感は暗いからあんまり気にしなくて良いんじゃん?」

「そういうものですか?」

「うん。着回して使う感じで。ゾーン3は男子固定にすればいいしね」

「なるほど」



 ルナさんは経理には向いていないと言いつつ、こういう細かいところはよく気づく人だった。

 それにクラスを纏める力があって、俺一人ではどうにもならないこともうまく進めてくれる。

 本当にすごい人だと思う。



「じゃあ、百均で買い物したあと、ドンキに行こう」

「はいっ!」



 百均で買い物を済ませて、次にドンキに行くとハロウィンが近いからか、コスプレの衣装が大量に展示されていた。

 そのなかで制服はいくつかある。

 学祭のクラス発表に関しては服の縛りはなく、衣装として着用するならなんでもオッケーなのだが、公序良俗に反するものは流石にNG。



「ナギ君、個人的にこれ着たいんだけど」

「えっ?」

「ハロウィンしちゃう?」

「ハロウィンしちゃうって……え?」



 めちゃくちゃミニスカートで、へそ出しの背中に小さな羽がついた小悪魔のような衣装だった。



「これに網タイ穿いてさ、めっちゃ可愛くない?」

「それはルナさんですから、可愛いに決まってますけど」

「もうっ、そんなに褒めないでよ。照れるじゃんって」

「ですが、これを着られると」

「? なに?」

「目のやり場に困るというか」

「へぇ〜〜〜ナギ君、あたしのこういうコス見て照れちゃう感じ?」

「はい。別の人ならなんとも思わないと思うんですけど、ルナさんだと……照れますよね」

「〜〜〜っ!!」



 ルナさんが突然顔を背けた。



「どうしました?」

「なんでもないって。あたしこれ買うわ。あ、制服買い占めちゃって」

「大丈夫ですか? 具合悪いですか?」

「大丈夫。ごめん、ちょっと暑くて顔火照っちゃって」

「確かにまだ残暑が抜けてないですからね。あ、俺、飲み物買ってきますから、ルナさんは休んでいてください」

「ううん。ホントに大丈夫。ありがとね。制服買っちゃおう」

「そうですか?」

「うん。あ、でも、同じ制服にしなくていいかな……」

「同じ制服のほうが良さそうですが、ストーリーから考えると制服はバラバラでも良いような気がします。他の高校の子も被害に遭ったんだって感じにすると幅が広がるかもしれません」

「なるほど。その感じだとさ、うちの高校の制服の子もいたほうが良い感じになるよね?」

「はい。ですので、うちの制服の子は血糊無しでいきましょう」

「オッケー。あ。もしかして受付の子はさ、このミニスカポリスとかってゆーのにしたほうがいい?」

「……ですね」



 受付は案内役も兼ねており、捜索隊を募っているのだからストーリー上は高校生ではおかしいことになる。



「でも、警察は逆の立場かもしれません。近づいてはダメ、とか言いそうじゃないですか?」

「だね。異世界モノっていうと神様かな」

「そうなんですか?」

「アニメかなにかで見た気がする。あ、天使あるじゃ〜〜〜ん。これにしよ?」

「お化け屋敷に天使……」



 とんでもない違和感だ。

 むしろ、それが新しい気がしてきた。



「ルナさん天才ですね。薄暗いお化け屋敷の入口に天使がいたら、それはそれで怖いような気がします」

「それでさ、メイクを天使じゃなくて悪魔っぽい感じにするの」

「ッ!! それです!!」



 思わず感動して、ルナさんの肩に手を置いてしまった。



「この”事件”の首謀者は受付の天使ですよ。それで悪魔っぽいメイクをさせておくんです」

「なるほどっ!」

「それで無事に帰ってきたお客さんに『まさか無事に帰って来るとは』みたいなセリフを吐くんです」

「それ、面白いね」

「はいっ!」

「じゃあ、天使のコスも買っていこう」



 セーラー服やブレザー、それに男子用のものも数点買って、さらにルナさんは個人的に小悪魔コスを購入した。



「めっちゃ買ったね。重くない?」

「全然大丈夫です。ルナさんがいてくれて本当に助かりました」

「なにが?」

「すごくアイディアが参考になりますし、俺が全然気づかないところに気づいてくれるので」

「だって、あたしの仕事をナギ君が手伝ってくれてるわけじゃん。それなのにほとんどの企画をナギ君が作ってくれたんだもんさ。むしろ、あたしなにもしてないじゃんって」

「そんなことないですよ。ルナさんは本当に才色兼備ですね」

「どういうこと?」

「見た目もかわいくて、頭も良いってことです」



 すごく可愛いのに性格も良い。

 それでいて、頭が切れる。

 こんな完璧な人がいるなんて、俺にとって衝撃でしかない。


 

「あたし、テストで五〇位以内に入ったことないよ?」

「テストはあくまでテストですから」

「あのさ、ナギ君」

「はい?」

「この袋、半分持って良い?」

「いいですよ。重いですから」

「いいの。持ちたいの」

「そうですか?」

「うん」



 ルナさんがビニール袋の取っ手の片方を持ってくれた。



「こういうのなんかいいね」

「重くないですか?」

「全然」

「そうですか。あの、ルナさん」

「なに?」

「……いえ。言いかけて忘れました」



 この関係は、お化け屋敷を作り終えたら終わりなのでしょうか?



 そんな馬鹿なことを訊こうとしていた。







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