#05 しゅきぴが好きすぎてアレな話
ナギぴがなんでしゅきぴなのかって?
決まってるじゃん。
あれは、高校一年生のとき。
まだ入学して間もない頃だったんだよね。
もうあの時点でマジのガチのイケメン君。
もち、見た目だけの話じゃなくて、中身も超神の男の子なわけよ。
うーん。
思い出すだけでドキドキする。
はじまりは、化学係で一緒になったときかな。
「八条さん、俺やっておきますから、先に帰って大丈夫ですよ」
「え。なんで?」
「バイトあるって白鷺さんと話してた気がしたので、俺やっておきますから」
「マジ?」
「はい。マジです。それに大した作業量ではないので」
「天雲くんダメだよ」
「え?」
「あたしだって化学の係なんだから。押し付けるのとかよくないと思う」
放課後、資料を大量に作らなくてはならなかったのだ。
両面コピーをした上で、製本してホチキス止めという超絶めんどい作業をナギぴと一緒にすることになったのはいいけど、あたしにはバイトがあった。
もはや遅刻は免れない状況だったんだよね~。
「俺、多分一人のほうが速いと思いますから」
「え……」
「あ、八条さんが足手まといとかそういうことじゃないですよ。ほら、俺、協調性がないから、むしろ俺が足手まといになるっていうか」
「なら、分担してやっちゃおうよ」
「……でも、八条さんがバイト行けなくなると、困る人が出ちゃうんじゃないですか?」
「あ〜〜〜大丈夫。実はさっき遅刻の連絡入れておいたんだよね。絶望的に無理そうだからさ」
「そうですか。じゃあ、爆速でやっちゃいましょう」
「オッケー。じゃあ、あたしこっちからプリント取っていくから」
「はい。じゃあ、ホチキスは止めないで、交互に重ねておきましょう」
「なんで?」
「二枚重なっていることもあるかもですし、逆に足りないこともあるかもしれません。ミスに気づいて後からホッチキスを外すのは非効率だと思いますので」
「うん。そうだね。じゃあそうしよっか」
「はいっ」
ナギぴの手際の良さは神かそれ以上だった。
指サックがないから、スティックのりをほんの少しだけ指に塗って爆速で製本をしていく姿は、まさに出来る男。
出来る男オブ出来る男じゃんって感じ。
「ふぅ、終わりましたね」
「天雲くんのお陰じゃん。ありがとね」
「なに言ってるんですか。八条さんがいたから早く終わったんですよ。それよりもバイト」
「あ、そうだった」
それで二人で昇降口から外に出たら真っ暗だった。
季節は春。
午後六時半で日は完全に落ちていた。
「遅くなっちゃいましたね」
「だね。あ~あ、バイト行きたくないなぁ」
「あの、八条さん」
「なに?」
「暗い中、女子が一人で歩くには危ないですから、バイト先まで送っていきます」
「え、いいよ。慣れてるし」
「そういう問題じゃないんです。もし、八条さんになにかあって行方不明にでもなったら俺、一生後悔します。だから、これは俺のエゴですから、送らせて下さい。お願いします」
「そこまで言うなら……まあ」
いくら暗いって言ったって、ここは東京で人通りも半端ないくらい多いんだよね。
「臓器売買とかの組織に拉致られるかもしれませんし」
「ないって」
それでバイト先のカフェまでナギぴは送ってくれた。
マジで優しさがナギぴの全身から溢れすぎてて、心で涙を流す感じみたいな?
それで、さっそくカフェの入口から入ると、店長が激おこで顔を真っ赤にしてたの。
あたしは遅刻をメッセで連絡したはずなのに、その人は店長にシフトを交代してもらっていたみたい。
結果的にあたしはやらかしてしまっていた。
つまり、シフトに入っていない人に『遅刻します』って連絡していて既読も付いていなかったわけ。
しかも、あたし的に店長はちょっと苦手だったんだよね。
「八条さん、こういうの困ります。ワンオペとかこの退勤ラッシュ時に無理ですからね」
「ホント、ごめんなさい」
「それに初めてじゃないでしょ。こういうの」
「はい。ごめんなさい」
「待って下さい」
パワハラ店長に責められているところにナギぴが割って入ってきた。
「今回の件は俺に責任があります。八条さんが遅刻したのは、化学の授業で使う資料を作るのに俺が足を引っ張ったせいなんです」
「ええっと、君は?」
「八条さんのクラスメイトの天雲凪と言います。八条さんはちゃんと連絡をしていました。でも、なにかの原因で伝わらなかったんだと思います。もし必要であれば俺が働きます。肉体労働なら、俺にでもできますよね?」
「いや、君を雇っているわけではないから」
「八条さんが穴を開けた分は俺がなんとかしますから、だから、八条さんを責めないであげてください」
「分かった、分かったから」
ナギぴはそういう人だったのだ。
今日の遅刻の連絡に関してはあたしが絶対的に悪い。
店長に怒られても仕方なかったじゃん?
でも、ナギぴは理由も聞かずに庇ってくれた。
まるで自分のことのように必死でさ。
翌日、朝登校してすぐにナギぴにお礼を言ったんだけどさ。
「俺、謝ることは得意なほうなので、そんなに気にしないで下さい。八条さんが事なきを得たなら、それで大丈夫です」
「うん。ホントにありがとう」
「あ、昨日のことは内緒にしてくださいね」
「……なんで?」
「あまり目立ちたくないので」
「そっか」
「はい」
あたしはセリカと仲が良く、その影響もあって周りに友達も多い。
押しとクセが強いギャルも多くて、そういうのが苦手な男子がいることは認識していたんだよね。
きっと、ナギぴも同じだったんじゃないかって思ったから、お礼だけ言って今まで通りにすることにした。
あたしがナギぴに馴れ馴れしくしていたら、きっと他の子は興味を示してナギぴに話しかけると思う。
それはきっと、ナギぴが望むことじゃないからって。
でも、そんなあたしの思いとは関係なく、ナギぴの評価は日に日に爆上がりしていくわけ。
あたしだけじゃなくて、いろんな子に紳士的なんだよね。
例えばさ、ソラと掃除当番になったときも。
『青山さん、机は俺がやりますよ。制服汚れちゃうじゃないですか』
って感じで、ソラもイケメンって評していたくらいだしね。
だから、あたしが裏で、今度はナギぴを助けることにしたの。
ナギぴは押しの強い子が苦手っぽいから、そっとしておいてあげてって。
*
「そっかそっか。うまくいってなによりだね」
「でしょ〜〜〜」
「でも、ギャル苦手なんだったらイメチェンしたほうがいいんじゃないの?」
「ギャルが苦手なんじゃなくて、押しの強い子苦手なんだって。それにあたし、カラコン取ったら人前に出られないじゃん」
今日はセリカの家で一緒に配信を観る約束をしていたんだけど、いつの間にか昨日のお化け屋敷の視察の話になった。
そこで、隣のクラスの子たちにばったり会っちゃって、みんな「やっぱりな」って反応で自分でもウケた。
「出られるから大丈夫。それで、天雲くんと手を握ってどうだったの?」
「手汗ドバドバで死ぬかと思った。怖いのとしゅきなのがグッチャグッチャでどうしようかって」
「あ~あ、ついにルナにも彼氏ね。いいなぁ、羨ましい」
「セリカだって作ればいいじゃん。って、ナギぴまだ彼氏じゃないし。あたし、まだ告ってもないじゃん。ヤバ、振られたらガチめに死ぬ」
「どうでしょうね。天雲くんって、割とイケメンだし、中身はできた人だし。彼女くらいいそうじゃない?」
「いないって
「ルナ……それ、本当?」
「……なに、どういうこと?」
確かにナギぴは彼女なんていないって言っていた。
間違いない。
「そんなに最良物件なのに彼女いないわけないでしょう?」
「……確かに」
「遊ばれてない?」
「ないない。あの紳士イケメンに限って、絶対にないってば」
「じゃあ、わたしが見極めるね」
「どういうこと?」
「ホラゲの配信を三人で観るってことにして誘うのよ」
「……それガチ?」
「本気よ。ルナは人を疑うってことしないから」
「だって、ナギぴはナギぴだよ?」
「だから、わたしが見極めるから」
「疑わないでよ。しゅきぴなんだから」
「それは分かったって。学祭の件だって、ちゃんとひっくり返してあげたでしょう?」
「それは感謝してるけど……」
しゅきぴのナギぴがお化け屋敷が好きっていうのは、一年生のときの夏休みの課題からの情報なんだよね。
春から気になりだして、夏休みの前には完全にしゅきぴになっていたから、夏休み明けが待ち遠しかったわけ。
それで、”夏休みの活動”っていう内容で英文を書けっていう課題が張り出されたとき、真っ先にナギぴが何してたのか気になって見たのはいいけど……。
実はあたし英語で読めなかったんだよね。
それで、セリカに読んでもらったわけなんだけどさ。
もち、あたしが学祭のクラス発表責任者になったのもセリカが裏で手を回してくれたから。
だから、ナギぴにお化け屋敷の企画を協力してもらうのは必然的ってやつ?
断られたら、完全に撃沈コースだったけど。
「ここまでお膳立てしてあげたのに、怖くて告れないとかやめてよ?」
「大丈夫だって。切腹する覚悟で行くから」
「期日は、学祭ね」
「マジ? 早すぎなんですけど」
「ルナ、いつまで引っ張るつもりなの……」
「だって……」
「とにかく、グデ氏ちゃんの配信観るからってちゃんと誘ってよね?」
「うん。オッケー」
「今、ここで誘って。ほら、メッセ交換したんだから」
「ひぇ?」
しゅきぴが好きすぎて、アレだ。
アレ。
なんてメッセ入れていいか分かんない。
それに今、午後三時じゃん?
昼寝してるかもだし、おやつの時間かもだし。
メッセ入れて起こしちゃっても悪いし、嫌われちゃうかもだし。
「彼女とデート中かもしれないよ?」
「ないない。絶対にないって」
「それを確かめるんでしょう?」
今頃、彼女と手つなぎデート中で、イチャイチャしてたら……死ぬ。
ガチで死ぬ。
『ナギぴ、はい、あーん。美味しい?』
『はいっ、美味しいです』
『良かった。ここのお店美味しいから』
『はいっ! すごく美味しいです』
みたいな、やり取りをどこかのテラス席でしていたら、死ねる。
ガチで死ねる。
もう御臨終じゃん。
「……ルナ、想像で泣かないでよ」
「だってぇ……」
「ちょっとスマホ貸して」
「え、だ、ダメだって」
「わたしが代わりに入れるから」
「返して、ダメ〜〜〜っ」
ルナ>明日の放課後暇ですか?
セリカがなんの飾り気もないメッセを送ってしまった。
死ぬ。
なんでよりにもよって、そんな事務的なメッセ送っちゃうのよ。
送信取消しようと思ったら、すでに既読がついちゃったじゃん。
ナギ>時間は空いています。
ルナ>時間をください。おねげいします。
ナギ>承知しました。
完全にセリカの口調になっているし。
死ぬ。
しかもミスっておかしいことになってるし。
やっぱり死ぬ。
「死ぬったら死ぬの」
「死なないから。ほら、これで明日も会えるでしょう?」
「そっか。やったじゃん」
「現金なんだから」
「って、ちが〜〜〜う。ナギぴに変な女だと思われたかもじゃん」
「ないって。大丈夫」
こうして、ナギぴと月曜日から会えることになって超ハッピーってなったけど、なにを話そうって思ってアレになって、夜眠れなかったんだよねー。
__________
♡と★を押していただけると幸いです♡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます