#03 例えばラブコメの絶体的ヒロインの親友とデートをしたらどうする?


 例えばラブコメの絶対的ヒロインの親友が遊園地に行く計画を立てたとする。

 その相手は普通に考えれば親友である絶対的ヒロイン、もしくはラブコメの絶対的鈍感主人公である必要がある。

 しかし、絶体的ヒロインの親友が相手に選んだのはクラスメイトのモブ・オブ・一般ピープル。

 その他大勢の中の一人のモブこと俺だったのだ。



 この場合、ラブコメとしてのストーリー性は破綻していると言わざるを得ない。

 なぜなら、絶対的ヒロインの親友とモブがラブコメ的展開になることなど絶対にあり得ないからだ。

 つまり、これはデートなどではないということ。



 じゃあ、一体なんなのか?

 そう、答えは視察だ。



「やっほー。おっはぁ〜〜〜天雲くん」

「おはようございます。八条さん」



 休日にこうして八条さんに会うことなどなかったから、かなり新鮮だった。

 八条さんの私服姿はギャルだ。

 ミニスカートにニットの半袖。

 肩は丸出しになっていて、なんか制服姿よりもかなり大人びている。



「天雲くんの休日コーデ……」

「す、すみません。ダサいですよね」

「めっちゃいーじゃんっ!!」

「えっ、そうですか?」

「うん。すっごく良いと思う」

「本気で言ってます?」

「うん。ガチでマジの本気。制服じゃない天雲くんもいいと思う」

「あ、ありがとうございます」



 八条さんの反応は、俺の想像とはだいぶ違っていた。

 空気を読んで、俺のファッションには一切触れないのかと思っていた。

 女子と出かけることなんて俺は未だかつてなかったわけで、どんな服を着ていけばいいのかわからないから、ネットとSNSを駆使して昨日の放課後買いに行った経緯がある。

 果たして、それが正解なのかどうか俺も不安だったのだ。



「シンプルだけど、今秋の流行りだよね。その程よいワイドデニムにその柄の半袖のシャツ合わせたのはホントにセンス良いと思う」



 すごく嬉しい。

 人から肯定された経験があまりないから、率直に言ってすごく嬉しい。



「八条さんも……その……私服すごくカワイイと思います」

「マジ?」

「はいっ!」

「超嬉しいんだけどっ!!」



 目の前にいるのは絶体的ヒロインの親友という二つ名を持つ女子。

 決して手の届かない絶対的ヒロインの白鷺さんと比肩するくらいに八条さんはカワイイ。

 俺はそう思っているけれど、方や日本を代表するモデルでインフルエンサー。

 方や肩書のない女子高生。


 

 お化け屋敷と同じで、バックボーンで人間の認識が変わる良い例なのかもしれない。

 俺にとってはどちらもヒロインで、どちらも高嶺の花。

 今日も、八条さんはカワイイ。


 

 八条さんは溢れんばかりの笑みで、見ているこっちまで嬉しくなるような表情を見せている。



「あ、バス乗ろ。朝めっちゃ早起きしてメイクがんばったから寝ちゃったらごめんね〜〜〜」

「あーだから今日の八条さんキラキラしてるんですねっ」

「キラキラしてる?」

「はいっ! すごくキラキラしてカワイイです」

「っ!!」

「そんなにキラキラするくらいがんばったのでいっぱい寝て下さい」



 高速バスの座席は、八条さんが予約してくれたのだった。

 座席を気兼ねなく倒せる一番うしろの席は、すごく快適。

 そして、席に着くなり、八条さんは秒で寝てしまった。




 *




 二時間近くバスに揺られて、ようやく遊園地に着いたのだった。

 目的はもちろん日本最凶のお化け屋敷と名高い、”震慄迷宮”だ。

 何年かに一回、震慄迷宮はバージョンアップをする。

 現在の震慄迷宮は、今年のはじめにリメイクされており、俺はまだ行っていないからかなり楽しみにしている。

 

 

「あたし、本当にお化け屋敷はじめてなの」

「ええっと、ここはおそらく日本で一番怖いですよ」

「うん。予習してきた感じだとそうだよね。怖いけど、天雲くんが一緒ならきっと大丈夫……だと思う」

「大丈夫です。ちゃんと解説しながらゆっくりと回りますから。さあ、さっそく向かいましょう」

「解説……ゆっくり……え?」



 そういえば、八条さんは俺と遊園地なんて来てしまって大丈夫だったのだろうか。

 学祭でお化け屋敷を作るというミッションがあるとはいえ、異性とこうして二人きりの時間を過ごすのはまずいんじゃないかと思ったわけで。

 ラブコメのデートではないことくらい心得ている。

 けれど、第三者はそう捉えないだろう。



「あの、今さらですけど」

「どしたの?」

「俺なんかと来て良かったんですか?」

「? なんで?」

「だって、八条さんの……彼氏とかに怒られちゃうかもしれないですし」

「あー……」



 八条さんの反応からするとやっぱりまずかったかもしれない。

 彼氏激おこぷんぷん丸(死語)は困る。



「あたし彼氏とかいないけど?」

「……そうなんですか?」

「うん。いないよ?」

「と言いつつ、実はいるんですよね?」

「いないって。ガチだよこれ」

「なんでです?」

「なんでって……うーん。告られてもさ、そのなかに付き合いたいって思う人いなかったんだよね~~~。あくまでもその中にはって話だよ?」

「正直、意外です」

「そう?」

「はい」



 高嶺の花の絶対的ヒロイン白鷺聖里花しらさぎせりかとは違って、手が届くかもしれない八条麗七はちじょうるな

 一見すると白鷺さんのほうがモテそうだが、現実は違う。

 次元の違いすぎる可愛さを放っている白鷺さんは告白すら許されない状況なのだ。

 対して、八条さんは”ワンチャン行けるっ!”って男子は思うらしく、毎月告られている(当社調べによる)。

 

 

 だから、彼氏がいないほうが不思議なのだ。



 実際には、八条さんは白鷺さんと比べても見劣りしない魅力があると思う。

 違うのは、あくまでもバックボーンだけだ。



「そうなんですね。じゃあアリバイ工作とかしなくて大丈夫そうですね」

「アリバイ工作って、天雲くん面白いこと言うじゃん。ウケる。えっ」

「どうしました?」

「待って。ブリッジヴァンカードとコラボしたバーガーショップあるじゃんっ!!」

「ブリッジ……なんです?」

「やばっ!! 天雲くん!!」

「はい?」

「あれ食べようよっ!!」

「え?」



 確かにお腹は空いているし、香ばしい匂いがしてきて食べたい気もする。

 でも、俺達が挑もうとしているのはウォークスルー型のお化け屋敷。

 満腹にしていって大丈夫なのか?



 場合によっては、キラキラのエフェクトが必要かもしれない。

 


「やっぱ、アボガド&ワサビでしょ。天雲くんは?」

「俺は……じゃあ、チーズバーガーにします」

「は、マジ? サイドメニューも神じゃん」



 ナゲットにフライドチキン、ポテト。

 どこにでもありそうなメニューだけど、どの辺が神なんだろう?



「見て、これ。この写真、山盛りすぎて死ぬ。神すぎ。うちの近所に欲しいよね」

「そう……なんですか?」

「うんっ!!」



 八条さんは、バーガーの他にフライドチキンとポテト、それにコーラを買った。



「お会計、4,869円になります」

「はーい」

「なんだって……」



 いくらなんでも豪快すぎる。

 俺の近所の遊園地の入園料が1,600円。

 乗り物券一枚が100円。

 お化け屋敷は乗り物券八枚が必要となると、お化け屋敷に入るのに2,400円掛かる計算だ。



 なんと!!

 八条さんの支払った金額で、お化け屋敷二人入れるじゃないかっ!!

 なんという高額支払い。



「天雲く〜〜〜ん。あたし先に席取っておくね」

「はい。お願いします」

「チーズバーガーとドリンク、併せて2,430円になります」

「……はい」



 くっ。

 近所のお化け屋敷一回分よりも高い。

 商品を受け取って、八条さんの座っている席の向かいに腰掛けた。



「うまっ、ヤバっ、めっちゃ美味なんですけど」

「良かったですね。美味しくて」

「あ。そうだ、天雲くん。記念に一枚撮ろうよ」

「心霊写真ですか?」

「違うって。フツーのやつ」



 八条さんが身を乗り出して俺に顔を近づけてくる。

 ちょ、近すぎ。

 スマホの画面に俺と八条さんの顔がドアップで映し出された。

 メイクの匂いかな。

 それともシャンプーかな。

 すごく良い匂いがする。



「いいじゃん。めっちゃアピれるね」

「なにをです?」

「天雲くんに拉致られましたーとかってストーリー上げていい?」

「それ、ガチで通報されるヤツですからね?」

「あはは、ウケる。ウソウソ。初デートっと」

「……デートなんですか、これ?」

「違うの?」

「お化け屋敷の視察じゃなかったんですか?」

「それも兼ねてるけど、いいじゃん。楽しんでも。ほら、せっかくだからさ、デート楽しも?」


 

 バーガーを食べつつ、フライドチキンにかぶりつく八条さんを見ていると、すごく気持ちが良い。

 やっぱり食べっぷりの良い子は好きだなぁ。

 なんでも美味しいって言って食べる子ってカワイイと思う。


 

「あ。天雲くん」

「はい?」

「デートに来たことは言ってもいいけど、ドカ食いはバラさないでね?」

「言いませんって」



 うん?

 デートに来たことは言ってもいいのか。

 普通、どっちもバラしちゃダメなやつなんじゃないかな。

 あ。

 ストーリー上げちゃったみたいだし、後の祭りか。



「って、え。普段、昼休みも同じような食べっぷりじゃないですか?」

「えー。言ってもサラダとチキンバーだよ。こういうときくらいしかバカ食いなんてしないってー」



 そういうものなのかな。

 


「それにしても美味。美味すぎて死ねる」

「確かに美味しいですね」

「これだけでも来てよかったぁ。ありがとね、天雲くん」

「俺は別になにもしてないですよ」



 八条さんが喜んでくれるのは、俺も見ていて嬉しい。

 俺も来てよかったな。

 


 食べ終わって、いよいよ震慄迷宮の入口まで来た。

 外観はそこまで変更無し。

 バッグからノートを取り出して、記載していく。



 震慄迷宮2026

 外観:コンクリート打ちっぱなしの病院。

 汚れはほどほどで、ツタが絡まる表現あり。



「なにそれ?」

「あぁ、俺の趣味です。今まで訪れたお化け屋敷を言語化してるんです」

「すごっ!! あとで見せて?」

「別に構いませんけど、これはメモ書きなので、ちゃんとしたのはタブレットに残しています」

「本当にホラーガチラブじゃん」

「そうですね。お化け屋敷とホラー映画、それにホラゲは好きですね」

「ホラゲもするの?」

「いえ。どちらかというと配信を見てる方が好きです」

「え、待って。配信って誰の?」

「グデ氏ちゃんですね。グデグデロードショーの」



 むしろ、グデ氏ちゃんの配信しか見たことがない。


 

「それガチ?」

「はい。八条さんがホラゲの配信好きって聞いたときは、ちょっと気になっていたんです」

「あたしもグデ氏ちゃん好きなのっ!!」



 グデ氏ちゃんとは、絶叫しながら毒を吐き、ホラーゲームの配信をする女性チューバーだ。

 グデ氏ちゃんもホラーに対する愛が配信が溢れている。

 誰に似たのか。



「マジか。運命感じる。結婚しよっ!!」

「え。け、結婚って」

「だって、グデ氏ちゃんマジで神ってるよね。ハロウィンで顔出ししたとき、メイクとかマジで感動だったもん」



 去年のハロウィンで顔出しをして、幽霊メイクをしたことがあった。

 端正な顔立ちで、幽霊のメイクをしたのにもかかわらず美しかったと一部のニッチな視聴者から評判だった。

 まあ、身内びいきではないけど、俺もそれはそう思う。

 そうか。

 八条さんが好きなのはグデ氏ちゃんだったのか。



「天雲くんがグデ氏ちゃん知ってるなんて。あぁ、結婚した〜〜〜い〜〜〜」



 ちなみにグデ氏ちゃんは……。

 いや、あえて黙っておこう。

 何事もタイミングというものがある。



「今度、一緒に観よう?」

「はい。ぜひ」

「やったぁ」



 それはそうと、目の前の震慄迷宮をどう攻略するかだ。

 


 匂いはどうか?

 視界は?

 どんな音がする?

 演出は?



 楽しみで仕方ない。



 とんでもない悲鳴が中から聞こえてくる。



「あ、あのさ」

「はい?」

「一度、落ち着こうか」

「……はい?」

「お手洗いに行ってきてもいい?」

「どうぞ」



 ん。

 俺はとんでもないことに気づいてしまった。



 少し離れた場所に、同じ学校の生徒……隣のクラスの女子たちの姿があったのだ。

 なんてこったい。

 






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