雨後の雨
タングステン
雨後の雨
___僕は雨が好きだ。あさぼらけが空を覆うとき、周りのビルも、アスファルトも、人の汚れさえもが洗い流されてふぅーっと黄金色に輝くような気がする。
少しきつい学ランの裾が重くなる時期だったか。
僕の持ち物がたびたび隠されるようになった。だけど__
「太陽の言いたいこと、ちょっとわかるかも。私も雨、好きだなぁ。雨の日の景色、雨の日の音とか、毎日をちょっと囲う額縁みたいな……?」
あの人だけは違った。
「太陽また靴隠されたの?探したげる!」
いつも僕なんかを気にかけてくれ、僕の心の傘となってくれた。僕と彼女は時々帰る仲になり、シャツの下が透けてほくろがのぞくのをチラリと見ることもあった。
そして、今日僕は
”彼女と相合傘をしてみようと思った。”
さすがにやりすぎと思ったが彼女はそれでも受け入れてくれるであろう。僕はあめんぼのようにはねながら靴箱へ向かった。一言目はどうしようか。彼女の傘は僕がこっそり持ってるし、天気予報は明日の朝までずっと大雨だ。そうして誰かと話す彼女が目に入った。そう、言うんだ。勇気を出せ僕、僕!
「雨が好き好き抜かしてて、きもいんだよね〜」
彼女は僕の前でそう吐露したあと、あいつらとケラケラ笑っていた。
僕はあいつの顔を見ずにその場から逃げるように走り去った。全部、本当に全部嫌いだ。いじめをするやつも、それに加担するやつも、それを見て見ぬふりするやつも。
___表参道の26時が過ぎていく。
冷たい雨が僕の体を刺す。僕は震えた手で3行ばかりの遺書を綴り、底のはげた靴を揃え、廃墟となったビルの屋上の柵に足をかけ、夜の雨に飛び込んだ。
僕はその一瞬、自分が雨と混ざったような気がした。次があるなら雨がいい。そうだ、それがいい。みんなで下ってるように見えて自分のことしか考えてない雨がいい。
少年は微笑んで夜の雨に溶けていった。雨は彼の血も、匂いも、悲鳴すらも残酷に塗りつぶし、誰もそれに気づくことはなかった。
〖雨後の朝〗
雨後の雨 タングステン @Tungsten7474
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