第36話
「王宮騎士団は期限ギリギリまで鍛えるとして。問題は王宮魔法使いたちよね」
私は王宮魔法使いたちが使っている研究室前で、大きく深呼吸をした。
「私が説得できなかったら、ルーベンが交渉をしてくれるとは思うけれど。でもルーベンは忙しいから、なるべく手を煩わせたくないのよね」
ルーベンは私との話し合いのために時間を作ってくれているけれど、一国の王子が予定外の時間を捻出するのは大変なことのはずだ。
これ以上、ルーベンの時間を削るわけにはいかない。
「私に出来ることは私がやらないと。だって今の私は、何の仕事もしていないのだもの」
王宮騎士団を鍛えているのも、王城内に監視魔法を掛けて回ったのも、仕事ではない。
ただ単に組織を潰すためにやったことだ。
それがこの国を守ることに繋がるとはいえ、私は自分の目的のためにしか動いていない。
タダ飯食らいと大して変わらないのだ。
そんな私が、自室でのんびりしていていいはずがない。
「さあ、行くわよ!」
私は自身に気合いを入れると、研究室の扉を開けた。
「ごきげんよう、王宮魔法使いのみなさん」
「ジェイミー様! 先日の結界は見事だったそうですね。あたしも同行したかったです!」
「この魔術式ですが、ジェイミー様はどう思います!? 僕はもっと簡略化が可能だと考えているんですが」
「それよりもこの魔法道具を見てください! ジェイミー様のアドバイスをもとに改良を加えてみました!」
研究室に入るなり、王宮魔法使いたちに囲まれてしまった。
一緒に結界を張ったことで、私の魔法の威力を知った彼らは、私に異様なほど懐いてしまったのだ。
敵対しているよりはいいけれど、これはこれで厄介だ。
全員が一斉に喋るものだから、何を言っているのか聞き取れない。
「みなさん、落ち着いてください」
私の言葉を聞いた王宮魔法使いたちは、落ち着くどころかさらに興奮して話しかけてくる。
「ジェイミー様はあたしの知る中で最高の魔法使いです。そのジェイミー様と話すチャンスを逃すわけにはいきません!」
「魔術式について、魔法に詳しいジェイミー様の意見を伺いたいんです!」
「頑張って魔法道具を改良したので、ジェイミー様に褒めてほしいです!」
だから一斉に喋られると誰の話も聞き取れないのだけれど……もういいや。
先に私の言いたいことを言ってしまおう。
「みなさんの話を聞きたいのは山々なのですが、今日は私からお願いがありまして……」
詰め寄ってくる三人の王宮魔法使いたちを両手で引き離しながら、話を続ける。
「ジェイミー様があたしたちにお願いですか!?」
「どのような魔法をご所望でしょうか!?」
「もしかして魔法道具の作成依頼ですか!?」
「実は、近々みなさんに頼みたいことがありまして……危険が伴うことなので、無理強いはしたくないのですが……」
「危険? まさか王宮騎士団の戦闘訓練に付き合えって言うんじゃないですよね?」
「騎士団との戦闘訓練なら僕はパスです。そういうの、好きじゃないんで」
「私もです。騎士団の戦闘訓練に付き合ってる時間があるなら、魔法道具を作りたいですからね」
また三人が一斉に喋ったけれど、「王宮騎士団との戦闘訓練は嫌」という気持ちだけはしっかりと伝わってきた。
そして直前までグイグイと来ていた三人は、蜘蛛の子を散らすように私の前から去っていった。
私は、自分の研究に戻ろうとする三人を急いで引き留める。
「待ってください。みなさんが戦闘訓練に付き合いたくないことは知っています。ですので王宮騎士団に関しては、これからも私が指導をします」
「それならジェイミー様は、あたしたちにどんなお願いがあるんですか?」
三人の魔法使いは振り返って私のことを見つめた。
この様子を見る限り、簡単には話に乗ってくれない気がする。
どう説得をしようか。
「戦闘訓練を嫌がるみなさんに頼むのは心苦しいのですけれど……近々魔法使い相手に戦闘をする可能性があるのです。それに協力をしていただけないかな、と思いまして……」
戦闘は嫌だと断られるだろう、と考えていた私の前に、先程の三人が舞い戻ってきた。
三人とも目をらんらんと輝かせている。
「魔法使い相手の戦闘をするんですか!?」
「いつですか!? 近々っていつの話ですか!?」
「私、絶対に参加したいです!」
「……へ?」
この反応に誰よりも驚いたのは私だ。
あれほど王宮騎士団との戦闘訓練を嫌がっていたのだから、この話にも難色を示されると思っていたのに。
「みなさんは戦闘が嫌いだったのではありませんか?」
「あたしたち、そんなこと言いましたっけ?」
魔法使い三人組が一斉に首を傾げた。
「いやいやいや。今さっき、王宮騎士団の戦闘訓練には協力したくないと言っていたじゃないですか!」
私の言葉を聞いた三人は、三人で顔を見合わせて苦笑をした。
「そりゃあ騎士団の戦闘訓練には付き合いたくないですよ。彼ら、魔法を使わないんですもん」
「そうそう。汗を飛び散らせながらの戦闘なんて暑苦しいですからね。でも魔法使い同士の戦闘は違います」
「魔法使い同士の戦闘って優雅で美しいですよね。芸術的と言っても良いかもしれません」
三人は興奮が落ち着いてきたのか、言葉を被せないように順々に話してくれた。助かる。
……って、それはどうでもよくて!
「あなたたちが騎士団との戦闘訓練を嫌がっていたのは、荒事が嫌いなわけではなく相手が魔法を使うかどうかの問題だったのですか!?」
王宮魔法使いは魔法の研究にばかりのめり込んでいて、それ以外のことには興味を示さないと思っていたのに。
しかし私の言葉に、三人は首を横に振った。
「研究だけに没頭したい人もいますよ。向こうにいる老人たちは、魔法の研究以外に興味を示しません」
「結界を張りに行くのを嫌がってるのもあの人たちです。若い世代は割とアグレッシブに動いてますよ」
「結界を張るのも勉強になりますからね。実践は良い刺激になります。実は私も研究だけに専念したい派だったんですが、以前ジェイミー様を救出しに行ったことで、魔法での戦闘の素晴らしさに目覚めました!」
「王宮魔法使いは全員、研究室に籠もりたいものだとばかり思っていました……」
「人それぞれですね。あたしは魔法が絡むことなら、何にでも首を突っ込みたいタイプです」
「僕もです。毎日、魔法による殺人事件のニュースはないかチェックしてます」
「私は最近、休日には魔法闘技場に通ってるんです。魔法使い同士が己の技術をぶつけ合う決闘は素晴らしいです」
これは王宮魔法使いに対する認識を変えなくてはいけないのかもしれない。
上の世代は魔法の研究のみに没頭したい人が多いようだけれど、若い世代はもっと柔軟らしい。
「ええと……では、みなさんは私に協力してくださるのですか?」
「「「もちろんです!!」」」
三人が力強くそう言った。
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