第19話
【side ジェイミー】
再び執務室に戻った私たちは、先程の話の続きを始めた。
ルーベンにチーズケーキをがっつくみっともない姿を見せてしまった分、そのマイナスを取り返すために真面目なところを見せよう。
私はキリッと目に力を込めると、真剣な声で言葉を紡いだ。
「これはあくまで私の推察ですけれど……一回目の人生で隣国が襲ってきたのも、組織が関与しているのではないかと思うのです」
「ジェイミー、先程のデザートは美味しかったですか?」
「はい、とても!」
「では料理長に、これからもああいったデザートを用意するように指示を出しておきますね」
「ぜひお願いします!!」
満面の笑みで答えてから、ハッとして口元を押さえる。
真面目な部分を見せるはずだったのに、さっそく真面目な話から逸れてしまった。
そんな私を、ルーベンは小動物でも見るかのように微笑ましそうに眺めている。
「やめてください、ルーベン。デザートの話はもういいのです! 執務室に移動をしたということは、真面目な話の続きをするのでしょう!?」
「ふふっ、そうですね」
ルーベンはまだ微笑みながら私のことを見つめている。
私はそんなに何度もデザートの話を振りたくなるほど、デザートにがっついていただろうか。
……がっついていたかもしれない。
良いと言われたから、ルーベンの分のチーズケーキも食べてしまった。ルーベンがくれると言うから……。
だって王城で出されるチーズケーキだ。その辺で売っているケーキとは質が違う!
これまでスイーツを食べることを我慢していたのに、いきなり最高級のチーズケーキを目の前にお出しされて、それでも我慢が出来るだろうか。いや、出来るわけがない!
私はスイーツに飢えていたのだから!!
「考えなくてはならない事柄のうち残りは、隣国をどう対処するか、魔物をどうするか、疫病をどうするか、ですね」
今さらチーズケーキにがっついた事実を消すことは出来ないため、私は努めて冷静な声を絞り出した。
今度こそ挽回をしなくては。
「聖女が現れた事実を秘密にしておくことで、隣国対策は十分ではありませんか?」
「いいえ、永遠に隠しておくことは無理だと思います。聖女がいることでこの国は豊穣ですから。それともまた私を地下牢に監禁でもしますか?」
私にそう言及されたルーベンは、バツの悪そうな顔になった。
今目の前にいるルーベンは何もしていないけれど、別の世界線のルーベンの仕出かしたことに、思うところはあるのだろう。
「その節は、別の俺がすみませんでした」
「いえ、あなたは何もしていないのでお気遣いなく。あなたにはその世界線で生きた記憶は無いのでしょう?」
「それはまあ」
「でしたらこの話はここで終わりです。記憶に無い行為を責められるのは嫌でしょうからね。私もこれ以上、ルーベンを責めるつもりはありません。今ここにいるあなたは何もやっていないのですから」
それよりも今は、もっと他に考えるべきことがある。たくさんある。
「ルーベン。一度目の人生で、隣国が襲ってきた理由を考えましょう? 私はあれに組織が関与していると思うのです」
「そう思う理由は?」
「三度目の人生で私が強い聖女としてバリバリ動いていたときには、隣国が攻めてこなかったからです。組織は兵士が束になって挑んでも私は負けないだろうと思い、隣国ではなく疫病を国の壊滅に使うことにしたのでしょう」
「確かに聖女が現れたのに、襲ってくる回と襲ってこない回があるのは、何かしらの外的原因がありそうですね。例えば王が絶対に聖女が欲しいという気持ちだけで動いたのなら、聖女が強くても襲ってきそうですからね」
そう、隣国が王の一存で動いていたのなら、三度目の人生でも隣国が襲ってきたはずだ。
それなのに、そうはならなかった。
この事実が指し示すのは、隣国に何かを吹き込んだ者が存在しただろうことだ。
そしてその者は、聖女である私の強さを踏まえて、隣国を動かすか、別の方法を取るかを決めたのだ。
「襲ってきた回では、組織が隣国に働きかけたのだと思います。聖女がいるだけでその国は豊穣になりますから。戦争をしてでも奪う価値があると吹き込んだのでしょう」
「証拠が無いのであくまでも推測の域を出ませんが……その可能性は高そうですね」
「やはり組織をどうにかするしかないようですね」
「とりあえずのところは、組織に聖女が出現していないと思わせることが出来れば、時間が稼げると思います。ジェイミーの言うように、事実を永遠に隠しておくことは出来ないでしょうが、稼いだ時間を使って組織を壊滅させてしまえばいいのです」
一体どのくらいの時間を稼ぐことが出来るだろう。
……上手く立ち回ったとしても、それほどの時間が稼げるとは思えない。
「組織が隣国を巻き込む前に何とかしないとですね」
「ええ。実のところ、あまり時間が無いのかもしれませんね」
隣国を巻き込むと、被害は大きくなるし、後処理もややこしくなる。
組織が隣国に良からぬことを吹き込む前に、何としても組織を叩きたい。
「それと、魔物をどうするかですけれど。これは国に結界を張ることで解決するはずです」
「ですが、ジェイミーが聖力を使ったら……」
「結界は魔力で張ります。さながら内通者相手に吐こうと決めた嘘のように」
「なるほど」
聖力が使えなくても魔法使い数人が集まれば、魔力で結界を張ることが出来る。
聖女の存在を隠したい今、聖力にこだわる必要はない。
魔力で結界を張るとなると聖力と比べて効率は悪いけれど、出来上がる結界に差は無い。
「さすがに私一人では無理ですけれど、王宮魔法使いを何人か派遣してくださるのなら、魔力での結界作成が可能です」
「しかも魔法で結界を張るところを王宮魔法使いに目撃させることで、魔法が得意なジェイミーは聖女ではないと印象付けることも出来ますね! 王宮魔法使いはジェイミーの魔法を見たら、王城に帰ってからうわさをせずにはいられないはずです。彼らは魔法に関してだけは饒舌ですから」
そのことは私も知っている。
一度目と三度目の人生で、王宮魔法使いとは関わりがあったから。
彼らは世間話に興味を示さない一方で、魔法に関する話には貪欲に食いついてくるのだ。
「結界を張るとなると、王宮魔法使いのみなさんを西へ東へ連れ回すことになりますけれど……平気でしょうか?」
「構いません。国に結界を張るのは、王宮魔法使いの責務ですからね」
それなら良かった。
とはいえ激務になるだろうから、あちらこちらへ連れ回すお詫びに、道中では王宮魔法使いが喜びそうな魔法の話をしよう。
「疫病に関しても組織が何かをしたに違いないので、聖女の存在を隠すことで時間稼ぎが出来るでしょうね」
「聖女の存在を隠しつつ、組織を叩く。これしかありませんね!」
私は握りこぶしを作って、やる気を表した。
私のその様子を、ルーベンは微笑ましげに眺めていた。
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