第17話


【side ルーベン】


 ジェイミーがこれまでの人生の話をしてくれた。

 ジェイミーの語った話は、到底信じられるような内容ではなかった。

 死に戻りなんてものが、この世にあるはずがない。


 しかし。

 荒唐無稽な話なのに、筋の通っている部分もあった。

 例えば、森には王宮魔法使いが張ったものではない結界が張ってあったし、それならジェイミーは聖女のはずなのに魔法も得意だ。

 何より、俺のこの言いようのない感情が、ジェイミーの話を裏付けているような気がする。

 ジェイミーは命の恩人ではあるものの、それだけでここまで愛しい感情が芽生えるとは思えないからだ。


「次は隣国対策をどうするか、ですね」


 目の前のジェイミーが深刻そうな顔でそう言った。

 しかしその話を始めるとまた長くなるだろう。

 それならここらで一度、話を区切った方が良さそうだ。


「そうです……が、少し話し過ぎましたね。もう午後です。一旦、お昼にしましょう」


「お昼を食べながら話の続きをするということですね!」


 ジェイミーがなるほどという顔をしたが、そんなわけはない。


「いいえ。食事の場には使用人も控えていますので、こういった話は出来ません。食事中は肩の力を抜いて、雑談でもしましょう」


 他人に聞かれるとマズい話だというのはその通りだが、そっちは建前だ。

 ずっと小難しい話をしていたから、一度クールダウンがしたかったのだ。

 それにせっかく目の前にジェイミーがいるのに、このような楽しくもない話ばかりをするのももったいない気がした。

 食事の場では、自然に笑みの零れてしまうような気軽な雑談をしよう。



   *   *   *



「いざ雑談と言われると、何を話せばいいのか迷いますね」


 運ばれてきた料理に手を付けながら、ジェイミーが困ったように眉を下げた。


「どのような話でもいいですよ。好きな物とか、好きなこととか。ジェイミーには趣味がありますか?」


「趣味……考えたこともなかったです。聖女の仕事や魔法の鍛練、過去改変のための準備など、やることがたくさんありましたので」


 ジェイミーが申し訳なさそうに述べた。

 ああ、趣味が無いなんて、そんなことがあるだろうか。

 ジェイミーの人生は、どれだけ遊びの少ないものだったのだろう。

 聞いているだけで悲しくなってくる。


 ちなみに俺の趣味は、仕事をサボって昼寝をすることだ。

 なぜ仕事をサボったときの昼寝はあんなにも気持ちが良いのだろう。

 あの心地良さを知ってしまうと、知らなかった頃には戻れない。


「趣味が無いのは変ですかね?」


 ジェイミーが困惑した様子で質問をした。

 変ではないが、寂しい気はする。


「別に趣味は無くても構いませんが、あった方が人生は楽しくなると思いますよ。それに深刻なことばかりを考えていると、眉間にしわが寄っちゃいますからね。息抜きは必要ですよ」


「息抜きですか……うーん。いざ息抜きを考えようとすると、思いつかないものですね」


 ジェイミーは少し真面目すぎるきらいがあるのかもしれない。

 ……ということは、森でのあの老婆の演技も、特に楽しんでやったものではなかったのだろうか。


「ジェイミーの趣味、老婆の演技はどうですか?」


 試しに俺があのときのことを口に出してみると、みるみるうちにジェイミーの顔が赤くなっていった。


「恥ずかしいので、あのときのことは忘れてください!」


「恥ずかしくはないと思いますよ。あの老婆の演技は、なかなか上手かったですから」


「あのときは必要に駆られて仕方なく演技をしていたのです。だから絶対に趣味にはなり得ません!」


 そうか。実はもう一度あのときの老婆の演技を見てみたかったのだが、残念。

 無理強いをするようなことでもないので、あれはレアな体験だったと思っておこう。


「あの。ルーベンのオススメの趣味はありますか? 老婆の演技以外で」


 自分では趣味を見つけられないと判断したのだろうジェイミーがそんなことを聞いてきたが、俺の趣味である「仕事をサボって昼寝をすること」は、ジェイミーに受け入れられる気がしない。

 そうなると、一般的な趣味を勧めた方がいいのだろう。


「刺繍や編み物、それに読書を趣味にする令嬢が多いとは聞きますね。あとは町へ買い物に行ったり、観劇したり。流行りのスイーツ店へ行くことが趣味だという話もよく聞きます」


「…………」


 あれ。何だろう、この間は。

 ジェイミーが複雑そうな表情で俺のことを見つめている。


「どうかしましたか?」


「……ルーベンは令嬢の趣味事情に詳しいなあと思っただけです」


「一般論ですよ、一般論」


 俺の言葉を聞いたジェイミーは、しかし浮かない顔をしている。

 その顔を見てハッと気付く。

 これはもしや、アレではないだろうか。


「もしかしてジェイミーは嫉妬をしているのですか?」


「いっ、いいえ! 趣味の話をするくらいに親しい令嬢がいるのか、と思っただけです!」


 それを嫉妬と呼ぶのではなかろうか。

 個人名を出したわけでもないのに、他の令嬢の趣味事情を知っているというだけで嫉妬をするなんて、ジェイミーは可愛いなあ。

 それにこんな小さなことで嫉妬されるほどジェイミーに愛されているなんて光栄だ。


「妬いているジェイミーも可愛いですね」


「妬いていません!」


 ジェイミーが嫉妬を否定してそっぽを向いてしまった。

 ぷりぷりと怒って頬を膨らませていて可愛い。

 ジェイミーは何をしていても可愛い。

 一分一秒ごとに可愛いを更新してくる。


 ……自分はこれまでの三度の人生とやらで、どれほどジェイミーに惚れていたのだろう。

 我ながらちょっと引くくらいにジェイミーのことが愛しくてたまらない。



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