1211 結婚観の二択④ 20/52

「『子どもがいても夫婦ふたりだけでデートしたい? 家族一緒のお出かけで十分?』うっわー、飛躍しすぎてて、俺、想像できねぇよ」

「頻繁には無理でも、何かの記念日ぐらいは行きたいわね」


 え、と声を上げると、何よと睨まれた。

 成瀬なるせの手にはあいかわらずお猪口が握られていて、形のいい口で美味しそうに飲んでいる。

 酔ってる?とまた聞いてしまった。どちらかというと仕事一筋のイメージが強いからだ。

 ふ、と鼻で笑った成瀬は見せつけるような笑みを浮かべる。


「まさか。私の普段のペース、知ってるでしょう」


 徳利五本とか余裕だもんな。余計な心配でしたねー。


「俺も成瀬さん・・と一緒かな」


 五十嵐いがらしさんもこのメンバーに慣れてきたらしい。素面でもコミュ力が高い人はひと味違う。

 成瀬が何か言いたげに片眉を上げたが、それよりも速かったのは桂木かつらぎだった。


「結婚できたら、の話ですけどね」


 つかさず、俺は桂木をどつこうとして、避けられた。空振りの肘が、不時着したのは机だ。沈みこむような体勢で生意気な後輩に苦言を申し立てる。


「話の腰を折るなっつーの。例えばって話で、想像して答える質問なわけ! 五十嵐さん、こんなかわいくない後輩と春日さん、変えてくださいよ!」


 それはダメ。とさわやかな笑顔で断られた。

 センパイ、さすがに傷付きますよ。と棒読みが切り返される。

 ため息が我慢できなかったことは、言うまでもない。


「はぁ、いいですよ。来年の新入社員に期待しますよ。次つぎぃっと。『結婚後は地元に帰りたい、と言われたら、一緒に行く? 別れる?』」


 桂木のさっきの単身赴任と似てませんか、というケチはスルーして、五十嵐さんに振る。


「五十嵐さんって地元ここじゃないですよね」

「山口の港町だな。帰る予定は当分ないけど」

「右に同じく」


 同意した成瀬は香川の出身で、桂木は岡山だったはずだ。

 俺だけか、地元で就職してるの。


「じゃあ、ここじゃない所に移住したいって言われたら、別れる?」

「検討はする」


 別れる方へって意味だろ、成瀬。

 桂木は理由によりますねと答えをはぐらかして、五十嵐さんは異動希望出すかなぁと答えを濁した。

 皆さん、仕事がありますもんねぇ。簡単には決めれませんよねぇ。

 地元民は疎外感をまぎらわすように、器の酒をゆっくりと飲み干した。



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