VS.八尺女

カサリユ

序章. 月光

ゴッ──ゴッ──

鈍く重い音が、頭蓋ずがいの奥で反響する。骨がきしむような感覚が走る。脳が揺れる。

──これは、おれを殴る音だ。


意識が飛んでいた。

──そうか、おれは闘っていたのだな。


顔が熱い。身体も熱い。炎症を起こし、熱を帯びている。

指先に力を入れる。拳を握る。折れてはいない。

口の中に、鉄の味が広がる。粘りつく血だ。

おれの血だ──相当殴られたらしい。


匂いを嗅ぐ。

血の匂いと、土の匂いがした。

背中に地面の感触がある。おれは組み敷かれているのか。


左肩が痛む。衝撃が伝わるたびに激痛が走る。

外れているのか──ありがたい。利き腕ではない。


ゆっくりと目を開ける。

腫れのおかげで、わずかにしか開かない。

目突きの妨げになっている──幸いだ。


──月明かりを背に、黒く長い影が見下ろしていた。

女がおれにまたがっている。腰に重みがのしかかっていた。

そうだった、おれはこの女と闘っている最中だった。


黒い影の中で、眼だけが不気味に鈍く光っている。


おれは、にぃ、と笑った。


──まだ、れるのだな。

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