第12話 髪の色って!

「イーリアがずっとわたくしの侍女なら、馬鹿王子と婚約してもいいわ」


 アリアお嬢様はおかしな条件を第一王子に提案しました。

 私としましては、ありがたい話です。

 ええ、どうも私の噂に尾ひれがついているようで、私の結婚は絶望的となりました。


 第一王子が言ったように、愛人問題に腹を立てた私が殴って仲裁に入った侯爵に重傷を負わせたとなっているのです。


 その話を聞いた瞬間にアドラディオーネ公爵に視線を向けると、真っ青な顔色をして慌ててサロンを出ていく姿を確認しました。


 おそらく侯爵に重傷を負わせたのは母です。その事後処理をアドラディオーネ公爵に押し付けたはずなのですが、噂というものは制御するには難しく私が行ったとなってしまったのでしょう。


 酷いですわね。


「良いぞ」


 アリアお嬢様の条件に第一王子は間を置かずに返答しました。

 あら? 聖女マリーの子供だと御存知のはずですのに、アリアお嬢様に私がつくことを許すとは寛大ですわね。


 しかし、どうされたのでしょうか。今まであんなに第一王子との婚約を嫌がっていましたのに……。


「そのおバカもイーリアに殴って貰えば治るのではなくて?」


 ……お嬢様。何故、私が殴る前提になっているのでしょう?

 それに、おそらく第一王子のお馬鹿は性格の問題かと思われます。


「よし! まずはパンチを見切ることから始めよう! イーリアとやら、打ってくるとよいぞ!」

「お断りします」


 私は別に訓練を受けた護衛ではありません。第一王子に見切られることなど簡単なことでしょう。


「私よりもその辺りの護衛の方がお強いでしょう。訓練はその方たちと行ってください」

「私の横を素早く抜けるなど、普通の護衛では無理ですよ。ああ、はじめましてランドルフ殿下の側仕えをしておりますリカルド・サフィーロと申します。国王陛下から伯爵の地位を拝命しております」


 偽名……どうどうと偽名を名乗るのですね。そして伯爵の地位を与えられているということは、このことは国王陛下もグル。

 ……私はこのことについては話さない方が無難でしょう。


「サフィーロ伯爵は東方の方なのかしら? そんな青い髪は珍しいわね」

「え? あお?」


 お嬢様の言葉に、私は思わず声を上げてしまいました。

 三人の視線が私に突き刺さってきます。


 え? どう見ても銀髪でしょう?

 室内だからといって、青には見えないわよ。

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