攻略対象外の推しを救うついでに、世界を改変してみることにした
白露 鶺鴒
第一章 風の大陸 出会いと陰謀の幕開け
第1話 神との邂逅
『ああ……僕の負けか
でも、僕の……目指したものが負けたわけじゃない
悲劇が……繰り返されないため……無駄にならないことを祈るよ……』
『勝手なことを言わないでよ! あなたのせいで! 世界は混乱しているのよ!』
『羨ましいよ……何も、知らないくせに……
他人を貶め、正義を振りかざす君達が……
……ああ……こんなのに世界の命運を託すのか……
…………様……ぼく、も……いま、そちらに…………』
画面に表示される推しの死に、唇を噛む。それでも、ボタンを押す手は止めない。
主人公の言動にイラつきつつも、イベントを進める。
このシナリオでは、主人公が敵方に騙されて、元凶として、私の推しを殺す。
主人公達が世界の謎をまだ全く知らない状態。
この時点で世界を救うために行動をしていたのは推しだけなのに。
「はぁ……ストーリー上、必要なのは理解してるけど。アイオ様……もう、マジ無理っ」
乙女ゲームが好きだった。
学生の頃から、恋愛シミュレーション、所轄乙女ゲームを何作もやり込んでいた。
魅力的なキャラクター、描かれる深い絆や感動的なストーリーが好きだ。
多少、悲劇性を含んでいる話の方が、好みだった。
大学を卒業し、中小企業の事務として働き始めた。
学生の頃に比べると自由な時間が減った。それでも続けている唯一の趣味。
その中でも『救世の神子と闇の姫』という乙女ゲ―に嵌って、最近はずっとやり込んでいる。
このゲームでは、珍しく攻略対象外のキャラクターに嵌った。
滅びゆく世界を救うための物語。
ストーリーが凝っていて、難易度事に少しずつ表現が変わる。難易度が難しいほど、より世界観を理解していく作りになっている。
推しは亡き主のために、世界を救うために奔走している。
ただ、一途に。
死んでいった仲間や主が望んだ世界を残すために生き、世界が救われることを見届けることなく死んでしまう。
主人公と推しは、同じ闇属性であり、主人公の踏み台として用意されたキャラだ。
「幸せになって欲しいのに」
推しは誰にも理解されずに、死んでいく。
いくつもの分岐があるゲームのストーリー。どの展開でも、推しは主人公たちの敵として登場する。そして、推しの目的も少しずつ解明されていく。
あの世界のラスボス――邪龍。そして、邪龍を復活させることを企む教団。
推しが教団を潰すために行動をしていなかったら、世界はとっくに滅んでいる。
だけど、主人公達はそれを自分の手柄にする。
結果、彼の成し遂げた偉業と存在意義――全てが奪われる。
その悲劇性に何度も泣いてしまった。
それでも、彼のスチルは悔いのない満足な死に顔で、とても美しい。
彼の自分の意志を貫く生き様が好きで――でも、彼が幸せに生きる世界はない。
「明日、会えると嬉しいんだけど」
ゲームのイベントが終わり、セーブをして、ゲーム機をスタンバイ状態にして鞄にしまう。
明日は〈救世の神子と闇の姫〉の公式イベントがある。そこに参加を表明していたのは、SNSで交流していた人。
私が上げた動画や攻略情報にコメントをくれたのがきっかけで、会ってみたいと思っていた。
そのために、現在、夜行バスで都心へ向かっている。
「そろそろ、寝ようかな」
カーテンで仕切られている座席の明かりを消して、瞳を閉じた。
微睡み始めた瞬間、キキーーッというブレーキ音が痛いほどに大きく響く。
音に驚くよりも早く、ふわっと自分の体が浮いた。
ドゴーーーーン!!
体が壁に叩きつけられた。
息が出来ないほどの激しい痛み。自分の目にかかる液体の感触に手を当てるとぬるりとした赤。
「あっ……い、…………」
痛みとぐらぐらと揺れる視界。何が起きたかを確認することも出来ず、視界が暗転した。
目を開けると、不思議な空間にいた。
遠くからでもわかる、細く長い建物が輝いている。
遥か上、空まで一直線に続いている。
そこだけが明るく光り、他は真っ暗闇。
不思議に光景に戸惑う。
それでも、暗闇に向かって歩く勇気はない。光る建物の方向へと向かい歩き始める。
建物は円柱が丸く配置されているだけの場所だった。
壁はない。ただ、上までずっと続いている。
その中心には、光る玉と、大きな本。
大きな本のタイトルは〈救世の神子と闇の姫〉。
先程までプレイしていたゲームのタイトルと同じ。
少し興味を惹かれて近づく。
突然、光の玉が輝き、人型に変化する。
「え?」
驚いて目をこする。
目の前には初老の男性が立っていた。
「え? どういう状況?」
「うむ。吾はこの本のタイトルの世界を司る神じゃ。すまぬが、そなたに頼みがある。この世界を救ってくれぬか?」
いや、何が起こった!?
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