第19話:正義の執行者

「どういうことだ!猿渡!」


犬飼が驚きのあまり大声で叫ぶ。


「まぁゴンさん、落ち着いて。」


「猿渡くん、彼は君の知り合いかい?」


呆然と立ち尽くす猿渡に桃谷は問いかけた。


「はい。鬼頭さん…ご無沙汰しています。」


「まさかあなたがプロメテウスだったのですか。」


「そうだ、私がプロメテウスだよ。」


笑いながら鬼頭は答えた。


鬼頭の横の鬼は大きな棍棒を手に持ち、一向に動く気配がない。


犬飼は剛羅という鬼を警戒しつつも話を続ける。


「猿渡、一体、あいつは何者なんだ。」


「彼の名前は鬼頭剛さん。僕と同じプロのハッカーです。」


「僕が3年前にハッキングの国際大会で優勝する前年の優勝者です。」


猿渡は鬼頭を見ながら、本当に自分の知っている鬼頭剛なのかと動揺していた。


「僕は鬼頭さんのハッキング技術に惚れ込んでいたので直接教えてもらうこともありました。」


「登、君は若いのに優秀だったからね。」


「確かに鬼ヶ島の座標を特定した時のあのアルゴリズムは鬼頭さんが国際大会で使われていたものです。」


「だから僕には容易に解けました。」


「さすがだぞ。登。あの座標を特定できるのはこの世に数人くらいだろうとは思っていたよ。」


「登、君もその中の一人ではあったよ。」


鬼頭は猿渡を称賛するかのように手を叩いた。


「まさか、わざとあのアルゴリズムを使ったのですか?」


鬼頭は叩いていた手を止めると不気味な笑みを浮かべていた。


「だとしたらどうなんだ?」


猿渡は鬼頭の回答に息を飲んだ。


「登、私は君たちが来るのを待ち望んでいたんだよ。」


「どういうことですか?」


「君たちはここまで辿り着いた。ここでは人間は支配者なのだ。」


「君たちも私と一緒に鬼を支配し『正義を執行』しようじゃないか。」


鬼頭の高らかな笑い声が基地内に響き渡る。


「さっきから聞いてりゃあ、お前は何を寝ぼけたことを言っている?」


犬飼の怒りがついに爆発した。


「何が『正義の執行』だ。お前のせいでこの島で平和に暮らしていた鬼たちの生活が一変した。」


「それに、2年前、お前が鬼を送らなければ俺の後輩は亡くならなかった。」


怒り狂う犬飼を鬼頭は嘲笑うかのような表情を浮かべていた。


「2年前に亡くなったのは確か刑事だったような。あなたは刑事なんですね。」


「一つ勘違いしないでもらいたい。私は人間を殺めてはいけないということを掟として鬼を送り出しています。」


犬飼の拳はずっと握りしめられたままだ。


「不慮の事故だったと聞いていますが、掟を破ったのは鬼自身だ。」


「私を逆恨みするのは辞めてもらいたい。」


「それに鬼たちは今も人間様と同じ文明を築こうと働きながら平和に暮らしてますよ。」


犬飼は鬼頭の言葉に返す言葉が見つからず、握っていた拳によりいっそう力がこもった。


桃谷は感情的になっている犬飼を制した。


「ゴンさん、落ち着いて。あなたは鬼を支配し、金品を奪わせている。」


「鬼頭さん、あなたの目的は何ですか?」


「私の目的ですか…。」


「一つ言わせてもらうと世の中には知らなくても良いことがたくさんあるんですよ。」


鬼頭はそう言いながら目線は猿渡を捉えていた。


そして桃谷の方へと目線を移した。


「私の目的は先ほども言ったように『正義の執行』ですよ。」


「僕には鬼を支配して金品を強奪させることが『正義の執行』だとは到底思えない。」


「ハハッ、確かに、それもそうですね。」


「でもね、話を聞けばあなた方にもきっと分かりますよ。」


「私が『正義の執行』をしているということを。」


鬼頭は相変わらず不敵な笑みを浮かべていた。

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