第5話 どこまで迷惑をかければ気が済むのでしょうか

「どのみち私の場合、結婚は難しいですわ。私は出来損ないの英雄なのですから…」


 私は出来損ないの英雄。どうしようもない人間なのだ。


「アイリーン…すまない、我が家にさえ生まれてこなければ、アイリーンは普通の令嬢として、幸せに生きられたかもしれないのに…」


「アイリーン、ごめんなさい。あなたにこんな辛い思いをさせてしまったのも、私達親の責任よ」


「お父様とお母様のせいではありませんわ。私に魔力がないのがいけないのです。全て私のせいなのです…」


「アイリーンのせいではないだろう。そもそも、勝手に期待した、この国の貴族や王族が悪いんだよ!アイリーンがどんな悪い事をしたというのだい?それなのに、アイリーンは貴族世界で酷い扱いを受けて…アイリーン、守ってやれなくてごめんね」


 両親だけでなく、お兄様まで謝って来たのだ。


「お父様、お母様、お兄様、謝らないで下さい。全て無能な私がいけないのです。ですので、どうか…」


 私も涙が溢れだす。どうして私は、こんなに無能なのだろう…


「アイリーン、泣かないでおくれ。君も分かっていると思うが、アイリーンはこの国にいては幸せになれない。だから、この国を出られる様に今、手配を進めているところだ」


「この国を出るですって!そんな事をしたら、国家反逆罪で捕まってしまいますわ」


 我が国では、定期的に魔王軍が攻めてくる。魔王軍が攻めてきたら、貴族中から人が集められ、命を懸けて戦わなければいけない。そのせいもあった、貴族たちが安全な国を目指して逃げだそうとする事件が多発したのだ。


 その為我が国では、貴族が国を出る事を禁止している。もし破れば、国家反逆罪として、厳しい罰が与えられるのだ。最悪、一族全員極刑という事も考えられる。


「分かっている。でも、このままアイリーンに辛い思いをさせる訳にはいかない。私達は、アイリーンには幸せになってほしいと考えているのだよ…」


 そう言って悲しそうに笑ったお父様。きっと両親とお兄様は、覚悟を決めているのだろう。自分たちの命と引き換えに、私を幸せにしようと…


 でも、そんな事は絶対させたくはない。


「嫌です!お父様とお母様、お兄様を不幸にしてまで、私は幸せになんてなりたいと思いませんわ。ですから、どうか…」


「アイリーン!私たちにとっても、この国にいる事は非常に辛い事なのだよ。それなら心機一転、新しい国で生きて行けたらと考えている。それが命がけの脱出になったとしてもだ!なによりも、これ以上アイリーンが傷つけられ続ける姿を、私たちはもう見たくないのだよ」


 お父様の目から、涙が流れだす。


「お父様…私…」


「アイリーン、君はもう十分苦しんだ。もう自由になってもいいのだよ。どうか…どうか幸せになってくれ。アイリーンの幸せが、私たちの幸せでもあるのだから…」


 そう言って笑ったお父様。お兄様やお母様も、泣きながら笑っていた。私の大切な家族までも、私は不幸にしようとしている。


 私の存在が、家族を苦しめている。


「お父様たちの気持ちは分かりました。ですが、私にも思いがあります。どうか少し考えさせてもらえませんか?」


「…アイリーン。分かったよ。でも、私たちはアイリーンの事を一番に考えている。だから、どうか分かってほしい。それから明日、朝一で王宮に向かい、婚約を解消してくることになっている。嫌だろうが、来てくれるかい」


「はい、もちろんですわ。お父様こそ、私のせいでごめんなさい。明日は胸を張って婚約破棄をして参りますわ」


 お父様に笑顔でそう告げた。

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