第42話 朝食を用意しよう

 この国では朝食はさほど難しいものを作らない。日本の典型的洋風朝食、ベーコンエッグにパンにサラダを手早く作り、朝食として準備する。


 ベーコンはロトスが作ったものが塊でそれなりの量が保管してあり、卵も養鶏をしている家から週に既定の個数を買い上げている。ベーコンエッグが作れればまず朝食には困らないだろう、ということで、アザレアに教える朝食のレシピはこれにしようとジェイドは決めた。


 卵の焼き方は「サニーサイドアップ」一択だ。日本で目玉焼きといえば大抵この片面焼きのことを指すが、他にも両面を焼く「ターンオーバー」なども日本以外では結構好まれていたらしい。しかしこのターンオーバー、やろうとすると両面を焼く訳なので目玉焼きをひっくり返す必要性が出てくる。料理初心者にやらせたら事故が起きる気しかしない。初心者はひっくり返す以前に卵を割った瞬間に黄身を潰してしまう可能性もあるけれども。


 数人分のベーコンエッグを作ったところで視線を感じて目を向けると、セーレンが目を丸くして見つめていた。


「セーレン? どうかした?」

「あっ、すみません、その、びっくりして」


 掃除の手が止まっていたセーレンが、慌てて動き出す。


「ジェイド様、お料理上手なんですね」

「んー、子どもの頃興味を持って、ベイカーの料理してるとこ観察してたからね」

「そうなんですね……」


 観察してるだけでできるならソニアも出来ないとおかしいのだが、そこは見なかったことにする。


 もっと大がかりな料理をしているところを見られると拙いまずいが、ベーコンエッグくらいならギリギリセーフだろう。と言ってもセーレンはあまり噂話などに興じるタイプではないので、大した心配はしていないのだが。


「パンを焼いたりは出来ないからね、セーレンの方がすごいよ」


 話を変えるためにセーレンに矛先を向けると、セーレンは慌てたように手を振った。


「私なんて全然……今日もベイカーに言われたとおりにやってたんですけど、違うって何回も言われちゃって」

「ベイカーの手伝いをずっとしていたからって、そんなに簡単に同じことを出来るようにはならないでしょ。ちゃんと食べられるもの作ってるだけで偉いよ」

「いえ、その、あの、掃除終わったので帰りますねっ!」


 セーレンは実は褒められるのがあまり得意ではない。ベイカーがセーレンの仕事に注文をつけるのは、褒められると逆に恐縮して動きが悪くなることを知っているからなのだと思う。


(本当に何であのセーレンとベイカーからソニアが生まれたんだろうな……)


 ソニアとセーレンは、顔だけはそっくりだが性格が正反対と言ってもいい。首をかしげながら、ジェイドは朝食の準備を進めた。


 家族用の朝食だけではなく、アザレアたち使用人の分の朝食も必要だ。しかしそちらはジェイドたちが食事を終えてから食べることになるので、温かいものは冷めてしまうかもしれない。火で温め直せるスープなどを用意できるといいのだが、それについてはダンジョンでどんな野菜が収穫できるかによるだろう。現状、じゃがいももトウモロコシも見つかっていないのでポタージュが作りにくくてキツイ。やって玉ねぎのポタージュあたりか。


 手早く調理を済ませ、料理をワゴンに乗せる。その作業をしている間に、アザレアとマリーがやってきた。


「ジェイド様! ジェイド様が料理されてたんですか!?」


 昨日の話を知らないマリーが驚いた様子で駆け寄ってくる。


「マリーもアザレアもいい所に来てくれた。もう完成してるから配膳してくれる?」


 考えてみれば配膳まではジェイドの仕事ではない。というか配膳される側なので、もう食堂に行かなくてはならない。


「かしこまりましたぁ! マリーちゃん、運ぶよ~」

「あっ、はい!!」


 二人がワゴンを押していくのを見送って、ジェイドも食堂に向かった。


 食堂にはまだ誰も来ていなかったので、少々ほっとする。

 考えてみればラムズが起床して食堂に来ていれば、モルトがキッチンに現れていてもおかしくなかったのだ。わざわざ早く起きて準備した料理にグダグダ言われるのは、ジェイドでも流石にあまりいい気はしない。


「あら、おはようジェイド」

「母上。おはようございます」


 アザレアがキッチンに来ていたのだから、当然フリージアは起床している。ジェイドを見てアザレアは首を傾げた。


「もしかして、朝食を準備してくれたのかしら?」

「はい。先程アザレアに料理を引き渡しました」

「そう、ありがとう」

「俺も美味しい食事が食べたいですからね」


 パンだけの食事はジェイド自身が嫌だ。だから料理をするのであり、それ以外の分は自分の分を作るなら、一緒に作ってもそこまで大変なことではない。


「その……ジェイド? 貴方が料理をしたこと、旦那様には……」

「言わないでください。アザレアが作ったことにしておいてください」


 即答するとフリージアは僅かに目を伏せた。


「分かったわ」

「どうせこれからアザレアに料理を教えて、俺が居ない間に料理をしてもらうんです。誤差の範囲ですよ」

「貴方がそうしたいと希望するならそうしましょう。それで、朝食後の予定だけれど……」


 フリージアと話をしているうちに、ラムズやクリスも食堂にやってくる。

 そして昨夜の惨事からは想像もつかない程穏やかに、朝食は終わった。

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