第25話 魔力操作が重要です

「取り敢えず、二人ともやってご覧なさい。失敗しても予備の核石はちゃんとあるから、あまり緊張しないでね」


 フリージアに言われるままにジェイドとクリスティナは小刀を核石に当てる。慎重に刃を動かせば、僅かに核石が削れていった。歪みを削り取る感覚は大分硬く、長時間続けるのは骨が折れそうだ。


(……電動工具が欲しくなるなこれ)


 ジェイドは前世で少しだけ石磨きを齧った事がある。百円ショップのアロマディフューザーに鉱石が使われているものがあり、それの石を磨いてピカピカにするという遊びだ。最初は紙やすりも百円ショップで購入して手で磨いていたのだが、途中で面倒になってリューターを買った。あまり地道すぎる作業は性格的に向いていない。


「あっ!!」


 破裂音がして振り返ると、クリスティナが核石を粉砕していた。飛び散る破片が、空中で勢いを失ってテーブルの上に落ちていく。これはアザレアが魔法で処理しているのだろう。


「両手で同じ程度の魔力量にするのが難しいのですけれど!?」

「慣れるまで繰り返すしかないわね」


 フリージアが新しい核石をクリスティナに渡している。粉砕された粉の方はアザレアが風魔法で上手い事回収しているようだ。

 ジェイドは手に持った加工途中の核石を目の高さに持ち上げてしげしげと眺める。球状に加工しろというが、核石の形は正方形どころか五角柱状の歪な形をしている。クリスティナに新しく渡された核石など、楕円の金平糖と言った風体だ。ここから細かく削って球にするのはきつすぎる。


「同じくらい、同じくらいに……」


 ぶつぶつ呟きながらクリスティナが再び核石に刃を当てる。次の瞬間に石が真っ二つになった。


「ああ〜〜〜〜」

「今度は小刀に込めた魔力が強かったわね」


 クリスティナがジェイドの方を窺い見て口を尖らせる。


「どうしてお兄様はそんなに簡単に削っていますの……!?」

「どうしてと言われても」


 ジェイドは魔力を込める量をほぼ変えることなく、ただ地味に削る作業を続けていた。地道な作業は性格的に向いていないが、出来ないということではない。


「そうだな、調整が難しいなら両方に全力で出せるだけの魔力を入れてみたらどうだ?魔力の消費は大きくても、細かく調整するより良さそうだと思うけど」

「ぜんりょく……」


 フリージアから新しい石を受け取ったクリスティナが少し考え込む。大きく一つ呼吸をして、核石に刃を当て、次の瞬間。


「えいっ!!」

「うわ!?」


 クリスティナから膨大な魔力が噴出した。


「あっ、出来ましたわ!これなら削れそうです!!」


 クリスティナは嬉しそうだが、魔力による周囲への圧力が大変なことになっている。自分の体を魔力で防護できる人間なら良いが、この場に平民がいたら恐らく魔力に当てられて昏倒しているだろう。


「クリスは私と同じで魔力量も魔力の放出量も多いのよねぇ」

「コントロールがダメなのも親子ですねぇ」


 のほほんと言っている教師役の二人は、こうなることを予想していたらしい。


「もしかして母上も初めてこれを習った時はこんな感じだったんですか?」

「……まぁ」


 フリージアが目を逸らす。ジェイドがアザレアに視線を向けると、アザレアは肩を竦めた。


「その頃は私はフリージア様と知り合いでもなく、学院のクラスも違ったので直接は見てないですけどぉ。フリージア様と同じクラスの男爵令息が昏倒したって噂は聞いた事がありますよぉ」

「学院に通って一年経つのに、即時身体強化で身を守れない方に問題があると思わない? ジェイドだって今ちゃんと身を守ったわよ?」


 アザレアに失態をばらされたフリージアが言い訳を重ねても、アザレアは返答せずに肩を竦めるだけだ。


「母上、加害者側が言い訳をするのはあまり感心しませんよ?」

「ちゃんと謝ったわよぉ!」


 ジェイドのツッコミにむくれたフリージアを見て、ジェイドは苦笑する。こういう表情をすると、やはりフリージアとクリスティナはそっくりだ。


「まあ、クリス様も多分フリージア様と同じことになるとは思ったのでぇ、学院にいく前にこれは覚えて行ったほうが良いですねぇ」

「ああ、それで今回クリスも一緒に教えるって話になったのか」


 魔法が使える事が嬉しくて、入学前から魔力のコントロールを練習しまくっていたジェイドが防御できた、なんていうのは何の参考にもならない。普通の貴族家の子であればやはり昏倒してもおかしくないのだから、周囲に迷惑をかけないためにも事前に習得しておくべきだろう。


「う……疲れてきましたわ……」


 クリスティナが魔力の放出をやめてパタリと机に倒れ伏す。


「大魔法使えるレベルの魔力放出を倍で続けたら長時間は持ちませんからねぇ」

「だからそのコントロールが出来るように練習が必要なのよ」

「うう〜〜言われていることは分かりますけどやっぱりあまりやっていて楽しくはないですわ!」


 クリスティナの言い分にはジェイドも同意する面はある。


「まあ、地道すぎてというのはあるな。完成するまで達成感が全く得られないのは続きにくい」

「これ以外に方法は無いんですの〜?」

「無いわね。単純にして唯一の方法よ。これを地道に続けて、石を完成させたら技術を習得できたと見做すわ」

「それは、学院でそうだということですの?」

「そうよ。一人一つは作らないと単位が取れないの」


 それだと誰かに作らせた物を自分が作ったと言って誤魔化す奴も出そうだが、なにか見分ける手段でもあるのだろうか。


「ちなみに母上、最初は今のクリスと同じ感じだったみたいですけど、単位が取れる頃には改善されたんですか?」

「したわよ! 今お手本を見せた時だってちゃんとコントロールしたじゃない!」

「ああ、それは確かに」


 ジェイドは小刀に込める魔力量をほんの僅か強くして、先に歪な形を立方体に整えることにした。魔力のコントロールは難しいが、大まかな形だけでも集中して作ってしまえば少しは楽になる。

 しかし、この作業を楽にするには道具の方を改良したほうが良さそうだ。

 立方体を作ったあと、ジェイドがしばし考え込んでいると、フリージアがジェイドの肩を叩いた。


「実は核石の加工については、これ以上教えることはないのよ。石を壊さない程度まで魔力がコントロール出来るようになれば、教師がついている必要はないわ。ジェイドはもう大丈夫そうね」

「そうなんですか」


 割とあっさりと終わってしまった。まあ試してみたいことはいくつか思いついたのでそちらに時間を割いても良いかもしれない。


「なにか他に用があるなら終わりにしてもいいわよ」

 フリージアの言葉に頷いてジェイドが立ち上がると、クリスティナが不満の声を上げた。


「ええ、お兄様終わりなんですの!?」

「クリスはまだよ。魔力の調整が出来ていないでしょう?」

「お兄様だって魔力を増やしたり減らしたりはしていませんわ!」

「してましたよぉ?じゃないとこんな風に大きく切り出して形を整えたり出来ませんからぁ」

「えっ」


 てっきりジェイドも自分と同じく最大量で放出していたと思っていたのだろう。ついでに小刀の方に増やした魔力があまりにも微量過ぎて気づけなかったのもあるだろうか。クリスティナがジェイドに視線を向ける。

「核石を二つ使って両方に魔力を入れるのは、もう習得していたからね。クリスも頑張れ」

「うううっ、そうでしたわ……頑張ります……」

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