第15話 勉強は大事だけれど若いうちには分からない

 色々調べてみて面白かったのが、前世で有毒だとされたもので、こちらの世界でも有毒であるものが、かなりの確率でポーションの原料として使われていることだ。ちなみにこれらはこちらの世界の素材では毒がないというわけではないので、ポーションに加工せずに摂取すると酷いことになる。

「あれ、母上、あそこに生えているのはポーションの材料になるコリアリアの実では?」

「あら、ホントね」

 ジェイドとフリージアの会話にクリスティナが目を輝かせて振り返る。

「あれも食べられますの!?」

「アレは毒だ。何でも食べようとするんじゃない」

「なーんだ……」

 クリスティナがしょぼんと肩を落とす。

 コリアリア、前世日本での名前はドクウツギ。当然有毒である。

 と言っても、この世界において毒はそこまで恐ろしいものでは無かったりする。魔法の薬であるポーションにはランクがあるのだが、植物から取れる毒であれば一番低いランクのポーションでほぼ解毒出来てしまうのだ。ランクの高いポーションは高額だが、最低ランクの「準ポーション」と呼ばれるものは、薬師見習いが練習のためにとんでもない数を作っているらしく、市場にかなり安値で流れている。今日のダンジョン探索にも数本持ってきているくらいだ。

「ジェイド、学院で薬学の授業は受けているの?」

「いえ、薬学は2年次からしか受けられないのでまだ受けていません」

 フリージアの問いにそう答えると、フリージアはにっこりと笑った。

「じゃあ、そこのコリアリアの実を採取して帰って、ポーションの作り方を教えてあげましょう。先に覚えておいて悪いことはないわ」

「あっ、それは嬉しいです」

 皮袋を取り出して、コリアリアの実を採取する。

「お兄様はお勉強が好きですわね……」

 クリスティナは『自分はできればやりたくない』と言いたそうだ。

「新しいことを覚えたり、出来るようになるのは楽しいからね」

「こんなことを覚えても何の役に立つのかと思うことはありませんの?」

 それは、前世でも子ども達が良く口にしていた言葉だ。けれど、大人になればその子どもの頃に覚えさせられたことが重要なことだったと言うのを理解するようになる。そして自分より若いものたちに「勉強はしておけ」と言うのだが、それはやっぱり伝わらないのだ。

 ジェイドは前世でも知識欲が強い方だった。そして現在は勉強が重要なものだと理解している大人の精神を持った子どもである。故に、好んで勉強をするのだ。

「世の中に、全く役に立たない知識なんてないと思うよ。色んなことを知れば知るほど、過去に覚えたものがどこに繋がっていたのかが分かるようになる。役に立つ場所が分からないのは、勉強が足りないからだね」

「むぅぅ……」

 まあ、こんなことを言っても勉強が好きではない子には響かないのだ。やるべきことはお説教ではなく、面白いと感じられる勉強法を探してやることだろう。

「そうだ母上、どうせ教えてもらうならもう一つ、核石の加工も教えて欲しいです」

 ついでに頼めば、フリージアは戸惑う様子を見せる。

「構わないけど、アレは本当に収入になりづらいわよ?」

「承知の上です。売るためというより、魔宝具を買うと高いので自分で用意してしまいたいという話なので」

 自分で作ることでタダで入手できるというならその方がいい。魔宝具は武器などにするならば魔力を通す素材で持ち手と核石を繋がなくてはならないが、核石をそのままアクセサリーとして使って身につけるなら余計な装飾は無くても使える。

「幾つ必要なの?まだ母様の手持ちにも余裕はあるわよ?」

「あ、いえ。俺ではなく。トールに持たせたいんです」

「えっ!?」

 唐突に名前を挙げられたトールが目を丸くしている。

「アレだけ戦闘能力があるなら、身体強化を使えるだけでもダンジョンの浅い所では問題なく動き回れそうなので。他の領民でも、期待できそうな者が居れば魔獣に対応できる人材を増やしたいんです」

 これからダンジョンを活用していくのであれば、領主一家しか中に入れないというのは不都合でしかない。貴族が守って中に入るのではなく、自分でもそれなりに身を守れる状態にした方が絶対的に安全なのもある。

「わかったわ、そういうことならいくつか核石も取って帰りましょう」

「はい」

 マリーが口を尖らせる。

「兄さん、ずるーい。そういうことなら私も木剣持ってくるんだったわ」

「木剣?」

 意味がわからずジェイドがマリーを見ると、アザレアが苦笑した。

「マリーちゃんに頼まれて、細剣術を教えているんですよぉ。結構な腕前になりつつありますよ?」

 細剣術は、女性騎士が習得することが多い剣技だ。男性のように重い剣を振り回さない代わりに、軽さを活かして素早い動きで戦う剣術である。

「そうなのか。魔宝具の剣を持ったら戦えるくらい?」

「イビルラットくらいなら問題なく。数が多い群れだと厳しいかもですけど、全く戦えないよりはいいでしょう」

 学院でしっかり細剣術を身につけてきたアザレアがそう言うのであれば、マリーにも剣を用意してもいいかも知れない。

「そうなのか、頑張ってるんだな。でも細剣だと金属が無いと作れないからどうしても買うしかないな……」

 核石の作り方はフリージア達に教えてもらえても、鍛冶は出来ない。

「そんな!私もジェイド様が作ってくださった物が良いです!!!」

 マリーがジェイドの腕に縋り付く。アザレアがニヤニヤと笑った。

「ジェイド様、愛されてますねぇ」

「あーーー、分かった、何か考えるよ」

「えーーーーっ!」

 すると今度はクリスティナが声を上げた。

「それなら私もお兄様に作って欲しいですわ!」

「クリス、貴女は杖を持っているでしょう」

「お兄様に!作ってもらうのは別です!」

 フリージアに嗜められてもクリスティナがブーブーと不満を述べている。

 だが、しかし。

「トールもマリーも、戦う能力があると認められたから魔宝具を贈ろうと思ったんだが、クリスは戦えるのだったか?」

 途端にクリスティナがショックを受けた。

「ああ、確かにジェイドのいう通りね。クリスは攻撃魔法も使えないのだから、今持っている杖も役に立っていないもの。新しいのは必要無いわよね」

 フリージアが笑いを噛み殺しながらジェイドに乗ってくる。

「そ、そ、そんなあ!」

「まずは攻撃魔法を見せてもらってからだな」

 クリスティナがガックリと項垂れる。

「じゃあ、適当な魔獣を探しましょうかぁ」

「クリス、まずはやってみてからだ。失敗したらフォローするから」

「はぁい……」

 クリスティナが両手でぎゅうと杖を握りしめた。

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