第4話 オークが硬すぎる!
「オーク討伐?」
「ええ! 団長殿から任せても問題ないと仰っていただきました!!」
それは髑髏旅団の一斉検挙を終えて間もない頃であった。
タイタニア王国は昨今、世相が乱れている。作物は上手く育たず、動物は数を減らし、モンスターばかりが蔓延っている。
故に狂暴なオークが目撃されることも珍しくはない。
それを加入してから数か月足らずの――幾ら最近武勲を上げているとは言え――新人騎士に任せてしまうことだって。
「ほんとに大丈夫なの?」
テオは言う。
「これまでとは訳が違う。幾ら君に自信があるって言ったって」
「ご心配なく。むしろこういう時の為に、これまで研鑽を積んできたのです。無事に悪しき魔物を打ち取り、その首を持ち帰ることをお約束しましょう!」
だがエレナの答えは変わらずだった。なんとしてでも任務をこなしてみせると、自信たっぷりに言ってみせる。
その仮定で数多もの繰り返し……悲惨な終わり方を重ねているとも知らずに。
「お、オークか」
テオは頭を悩ませる。
ゴブリン、コボルト、スケルトン、リザードマン、盗賊……などなど、これまで危機を乗り越えてきたテオであったが、
何せそもそものサイズが違う。
これまでテオは、相手が気づくよりも先に仕留めるという手段を取っていた。不意を突くことだけに関しては、そこそこの
しかし自分の何倍もあろう巨人を前にすればどうだ? そもそも頭に得物が届かないし、届いたところで深く刺せるような気がしない。
「それにしてもテオ……貴方、何だかちょっと大きくなってません?」
そんなことで悩んでいる最中、エレナは言った。
「それに生傷も増えてるみたいで」
「あ、ああ。最近はちょっと力仕事が多くてね。大したことないから気にしないで」
「でも、それにしては……」
「じゃ、じゃあ! この後も仕事が入ってるから!」
「あ、ちょっとテオ!!」
テオは捲し立てるように言い返しつつ、逃げるようにエレナの下から去った。
こそこそと重ねたトレーニングによる体形変化と、戦闘による負傷に気づかれたくなかったからだ。
そうして自宅(という名の二平米程度しかない物置。家主に金を払って間借りしている)に逃げ帰ると、藁の布団の上に数少ない所持品を集めた。
手製の木の棍棒、先が丸くなったナイフ、農作業用の鋤、墓掘り用のショベル……武器として使えそうなものはそれだけだ。あとは外で拾ってきた手ごろな大きさの石も、鈍器(或いは投擲用)という意味では武器と呼べるかもしれない。
そこに普通の剣や槍がないのは、扱えないとかそういう問題ではなく、単純に金がないからである。
テオは死に戻りを始めて以降、その日暮らしで行っていた仕事の全てをやめた。トレーニングと彼女のサポートに時間を費やしたが為だ。
残っていた僅かな金も家賃を払うだけで尽きてしまい、来月にはホームレスが確定している。食事は動植物を捕まえて何とか凌いでいる。そんな状況の中、どうしてマトモな装備を整えることなど出来ようか?
「まぁ……」
それでもやってみなければ分からない。これまでだってそうして来たのだ。
結局テオは持ち運びやすいナイフと棍棒と石を麻袋にしまうと、明日に備えてごろんと寝転がる。
一先ず、何はともあれ、様子見が必要だと思った。
***
「ああ――」
230度目の終焉は呆気なく訪れた。
ヤクヴァルは山に面した小さな農村である。人口は百名にも満たず、暮らしの大半を自給自足で保っている。大自然が何よりの隣人であるそこは、平時であれば牧歌的な空気が漂っているのだろう。
が、今は緑の巨人――オークが占拠する危険地帯だ。
それを退けて欲しいというのが、紅炎小隊に与えられた任務だった。
「フシュゥゥゥゥゥゥ……」
生まれて初めて見るオークは、想像していたよりもずっと大きい。
テオは正直腰を抜かしそうになった。自分の背丈の二倍、いや三倍ほどはあるかもしれない。まさしく大鬼と呼ばれるに相応しい威圧感は、これまで相手にしてきたモンスターとは一線を画している。
「オーク共めが……覚悟なさい!!」
一方で――コソコソと様子を窺うテオとは違い――エレナは勇敢だった。
まったく怯むことなく剣を抜き、立ち向かい、ものの数分で一匹を仕留めてみせた。
あらためてエレナは凄いとテオは思う。当たれば全身が砕けるであろう巨腕を風のように受け流し、それどころか太刀でカウンターをお見舞いする。
それに相手が怒って大振りになれば、むしろ思うツボである。そうして幾度か繰り返す内に巨体は膝を付き、二度と立ち上がることはなかった。
彼女よりも長く勤めているであろう、他の騎士団員は数人がかりで手こずっていたにも関わらずだ。
自他とも認めるエレナの才能を、テオもまた信じざるを得なかった。
「ふっ、オークと聞きましたが、存外に脆いものですね」
が――それは単純な剣の腕、という面だけを切り取ればだ。
戦闘そのものに関しては若葉マークだというのに、ゴールド免許みたいなドヤ顔を披露し始めた。
するとどうだ?
「これはもう本格的に地上最強なのでは? かつて蛮族の王ハ・ナヤーマが『生まれつき強い我が鍛えるのは卑怯』と仰っていたそうですが、私はそれをやってしまったのかもしれません」
「エレノアラ様! 後ろ!! 後ろ!!」
「ああ、それは大変申し訳ないことをしてしまいました。生まれながらの最強であった私が、こうして真面目に道を究めようとしてしまった結果、誰もが付いていけない高みへと――」
「後ろ向けっつってんだろ馬鹿王女!! あんた戦闘中って分かってんのか!?」
「誰が馬鹿王女ですが誰が!! ぶん殴ってやりますから名乗りを――ぴぎょ!?!?」
「ああああああああああああああああ!!」
エレナはミンチよりも酷い姿となって、しれっと罵倒していた騎士(テオはよくぞ言ってくれたと思ってた)が絶叫をあげる。
オークが厄介なのは、その体躯だけではなく、徒党を組む習性があることだ。
だから不意打ちもお手のもの。その点はゴブリンにも良く似ており、だからこそゴブリンは小鬼で、オークは大鬼と呼ばれているのだ。
「はぁ……やっぱり」
とは言え、テオからすると分かっていた結果だった。
今日も今日とてしっかりフラグを立てて、これまでと違えることなく回収してくれた。
要するに今回も、忍び寄る伏兵はテオがどうにかしなければならない。本格的な解決は次回からだ。
「じゃあまた――」
言って、テオは爆破四散する。
何回やってもキツイ。死ぬほど痛いと思った(実際に死んでるけど)。
「オーク共めが……覚悟なさい!!」
そうして訪れました231度目。
テオは剣を抜くエレナを尻目に、そそくさと行動を開始した。
彼女を背中から襲ったオークは村の西側から来ていた。真っ赤な目をしたオークで、サイズ相応に眼球も大きかったから印象に残っている。あれだけの巨体であるなら、すぐに見つかると踏んでいた。
「いた……!」
事実、それはすぐに分かった。
のしのしとエレナが戦っている方角へと向かっている。
故に彼女の下にたどり着くより前に仕留める必要がある。
「よし……」
テオは近くの民家に入り、その二階へと上がり、窓際で息を殺す。
ちょうど良い高さだった。すれ違う寸前に飛び降りたら、その肩に乗れるくらいだ。
「ア!?」
肩の重みに違和感を抱いたのか、オークが手を伸ばそうとする。
しかし遅い。テオをそれよりも前に握りしめたナイフを、その首に振り下ろして――
「は?」
刺さらなかった。
ポキリと折れたのだ。肉はおろか皮膚すら傷ついていない。
「こ、この!!」
続けざまにテオは棍棒を振り下ろす。
あっけなく根本からポキリと折れた。
「なっ、なっ……!!」
動揺しながらも石を取り出し、後頭部へぶつける。
するとぐしゃりと四散した。ぶつけた石の方がだ。粉々になって、パラパラと破片が落ちていく。
はっはっは。これが本当の石頭ってか――などと笑っている暇はない。
「グルァ!!」
「がっ!?」
テオは巨腕に掴まれ、力任せに地面に叩きつけられた。
息が出来ない。骨が砕けた。死んでしまう……なんてことはどうでもいい。
それよりテオにとって問題なのは、『何をしても武器が通らない』ということだ。皮膚だけでも岩のように硬過ぎる。
それが意味することは何か?
どれだけトレーニングをしたところで、死んだらそれはやり直しで、鍛えられる実力にも限りがある。
だというのに、ここに来て単純な腕力が求められるとくれば――
「ふ、ふざけ――ごふっ!?」
詰みである。
テオはオークに踏みつけられ、231度目の生を終えた。
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