第19話 安芸白兎の〝れでぃお体操〟は特典も素晴らしいんだぴょん🐰

『今日の体操はこれでお終い。安芸市の美味しいものを食べて、この夏を乗り切りましょう! 皆さん、お元気でぴょん』

「「「「「「「「「「ぴょん!」」」」」」」」」


 会場より見事なご唱和、そこでコール&レスッポンス。みなさん、ありがとうございます。僕はめちゃくちゃ恥ずかしい。


 ――兎。安芸白兎だから、兎をイメージした語尾があっても良いのでは? だったら、やっぱり「ぴょん」じゃない?


 唐突な提案をしてくれたのは理彩さん。そんな提案を受けたら我らが豪腕プロデューサー(敏腕プロデューサーの誤字にあらず)の新汰さんですよ。理彩さんが、そんあことを言い出したら、力尽くで企画を通すに決まってる。安芸白兎誕生時を思い出す、誠に心が暖まるエピソードである。


 かくしてラジオ体操会場が盛大な「ぴょん」が谺。これを新汰は許可済みで撮影するのだから恐れいる。君、昨日まで熱を出していた人だよね?


「折角だし、ラジオ体操のスタンプ押してもらおうぜ」

「えぇ、僕らも?」


 運営側が押してもらうのは、どうなんだろう?

 安芸白兎の〝れでぃお体操〟


 こちら行政とのタイアップで、高齢者の皆さん向けには〝高齢者はつらつポイント〟対象事業。こういう地域での活動、健康教室、ボランティア活動に参加すると、ポイントを付与。奨励金や交通費に換金できるという仕組みなのだ。つまり、安芸白兎の〝れでぃお体操〟に参加したらポイントが貯まる。


 さらに、小学生までを対象にフードバンク・パクパクモグモグがお菓子を寄付。これはパッケージが変ったりと言った理由で店頭に出せなくなった商品を、無償で受け取り、福祉施設へ寄付するフードバンク事業とのタイアップで実現。こちらには母さんの会社「white Pic」の協力により実現。


 そして安芸白兎が取材した安芸市内の飲食点で使える、割引クーポン。安芸白兎クーポン。略してハクポンをラジオ体操に参加した頻度に応じて、配布するのだ。


 ……誰だよ、こんなバカなこと考えたの。はい、僕と安芸市商工会青年部の皆さんですね。サンキュー。

 そんなこんなで、何故か各町内会で大盛り上がりを見せていたのだった。


「一応、市長のオッサンからも言質を取ってるぜ」


 新汰、言い方が酷いよ。


「まぁ、でも、そうだよね。高天原君も折角来たし、スタンプ欲しかったよね」


 幸い、僕は運営側。スタンプカードの予備は持ち合わせているのだ。


「……なに、言ってるの?」


 何故か、呆れた顔をされる。運営側でスタンプを押しに来た新汰には言われたくない。


「そういうとこだぞ、白都」

「なにが?」


 僕がそう聞くと、新汰は盛大にため息をつく。なおさら、ワケが分からない。


「どうして、人の悪意にここまで鈍感なんだかねぇ」


 自分の金髪を掻き上げて言う。あれ、僕ってば呆れられてる? 呆れたいのは雨で熱を出した君の方ですけど!


「お前、忙しいだろ。台紙は俺もあるから、渡しておくって」

「……へ?」


 僕は目をパチクリさせる。忙しいのは、これからバイトをする君の方なんじゃ――。


「落とし前もつけないとだしな」

「なんか不穏な言い方に聞こえるんだけど――」

「不穏なのは、あっちの姫さんじゃなくて?」

「へ?」


 視線を向ければ、何故か不満そうに頬を膨らませる舞夏。そして全力疾走でアタックしようとする鳴ちゃん。あのオデコには要注意。天使の鐘を慣らすデコなのだ。(前話参照)

 そして、明比ちゃんが、僕のシャツの裾を――。


「「え?」」

「お姉ちゃん、はやく早くっ」


 ぶんぶん、明比ちゃんが手を振る。さも、僕の隣は舞夏だと指名するかのように。


「白都お兄ちゃんは、すぐフラフラ迷子になっちゃうから。だから、お姉ちゃんが気にかけてあげないと、なんだよね?」

「それはだから、ナイショだって――」


 ん? 幼い頃は確かに迷子になることがあったけど。チビちゃんに誘導されたこともあったけれど。それも今は昔。白豚の翁というものありけり――じゃなかった。えっと? 舞夏がどうして僕の手を握っているんでしょうか?


「だって、ハク。すぐに迷子になるでしょ?」


 開き直ったかのように、舞夏がワルい笑顔を浮かべる。

 あれ?

 舞夏、僕が方向音痴なの、承知済み?  もしかして新汰からの密告?!


「俺は何も言ってねぇからな」

「……ぼ、僕も何も言ってないじゃん」


 見透かしたように言葉でピッチャー返しをするの止めて?


「後で、たくさん遊んでもらうから大丈夫。だって、明比は良い子だもん」


 にっこり笑う。その笑顔に僕は弱い。


「うん、明比ちゃんは良い子。というか、それよりって言葉の方が合っているかな」


 僕の一言に、明比ちゃんが目を丸くする。


「そういうとこだよ。おめぇは本当に昔から――」

 新汰と一緒に、舞夏までため息をつくのどうして?


 と――。

 明比ちゃんが、目を潤ませたように見えた。

 その双眸から、雫がこぼれ落ちそうになって。慌てて、ゴシゴシと拭う。それから、僕に抱きついてくる。


「お兄ちゃん、大好き」


 ぎゅっとしがみつかれて――。






「スタンプ押すから、さくっと前に進んでね」

 子ども会のお母さんに注意を受けた僕らだった。





■■■






 すとん。

 シュッ。

 パン。


 リズミカルに音が続く。


 音哉君が、ボールを投げる。僕が受け止める。ただ、その繰り返しのキャッチボール。昨日の約束だ。いつか、キャッチボールしようね、って。いつかなんて言われたら、イツやるの。今でしょ! それがスタンスの僕だ。即実行と、相成った。


 うん。僕が小学校時代に使っていたグローブ。よく似合っています。


 見れば、舞夏と明比ちゃん、そして鳴ちゃんはゴムボールでキャッチボール――できずに、転がしゲームと相成った。取れなくてキャッキャ笑う。投げてキャッキャ笑う、そんなお年頃。こちらもボールを持ってきて良かった。僕のリュックは、某お手伝いロボットの四次元ポケットではとよく言われる。本当に四次元だったら、お菓子詰め放題。それはそれで、夢がある。


「……みんな帰っても良かったんだよ? お腹空いたんじゃない?」


 音哉君が申し訳なさそうに言う。ありゃ、そうだったのか。ラジオ体操に出るために、前倒しで動いてくれたんだね。でも、今あるのはスナック菓子の【うめぇ棒】ぐらいなんだけど――。


「「「「「砕けたお菓子はいらないからね(な)」」」」」


 安西姉妹兄弟ブラザースと新汰から、集中砲火。あら、みんな息ぴったりじゃない?


「ごめん、みんな。あとちょっとだけ――」

「良いけど。俺もやりたいな」


 そう言ったのは孔君だった。


「孔って、インドア派のイメージだったけど?」

「白兎たそとのキャッチボールだよ? やるに決まってるじゃん。こんなのプレミアムだよ」

「モロ、バレバレじゃんか」


 新汰が頭を抱えているが、はて? 新汰、やっぱり病み上がりでキツいんだろうか。


「……まぁ、良いや。白都だし。それより、お前ら。俺ともキャッチボールするか?」


 新汰が目配せする。確か二って思う。新汰は中学まで野球経験者。正直、僕よりも新汰が適役だ。


「ばーか。ローテーションだよ。でないと、姫さんが拗ねるじゃんか」


 ニッと笑って新汰が向けた視線の先は――。

 舞夏が少し不満そうに。でも、僕と目が合った瞬間、弾けるような笑顔を見せる。







 すとん。

 シュッ。

 パン。

 リズミカルな音が響く。

 汗が頬を伝う。

 もう、すでにジリジリと太陽が僕らを灼きつけて。


 でも、あと少しだけ。

 やけに、なんだか懐かしくて。


 僕と舞夏のキャッチボール。あと、もう少しだけ――。








■■■






「そりゃ、妬くよな。堕典司だてんし君もさ」

 新汰の苦笑。そして美味く聞き取れなかった、その呟きは、明比ちゃんと鳴ちゃんの笑い声にかき消されたのだった。

 

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