第28話 大崎凛の悶々2

 また会ったわね。私は、私立丸木戸まるきど学園の四大S級女子、気さくなお姉さん系担当、大崎おおさきりんよ。って、これ毎回やらないとダメ?

 そんな悠長なことやってる場合じゃないのよ!


「ねえ、凛ちゃん。凛ちゃんって、いつも俊くんとイチャイチャしてるの? 弟離れできてないの?」


 学校帰りのワック、期間限定バーガーを注文した私は、ヤンデレっぽい表情の真美と向かい合って座っていた。


 やめてぇ、その目で見つめないでぇ。


「ねえねえ、どうなの? もしかして、俊くんと一緒に寝てるとか?」

「ね、寝てるはずないでしょ。もう高校生だよ。甘えん坊だったガキの頃じゃないんだからさ」


 真美の目がガチなので、私は笑顔で受け流した。


「だ、だよね。もう大人だよね。姉弟で一緒にお風呂とか、一緒に添い寝とかないよね」

「ないない。ありえないし」

「そうだよね。姉弟でイチャイチャしないよね」

「当然でしょ。実の姉弟だよ」


 セーフ! 何とか無事やり過ごしたわね!


 真美とは付き合いが長いけど、本当に優しくて良い子なのよ。

 ただ、俊のことになるとガチで危険な女になっちゃうんだけど。それはもう、クレイジーサイコヤンデレヒロインみたいに。


「はぁ♡ 俊くん良いなぁ♡」


 真美はアイスティーを飲みながら夢見心地な顔をしている。


「凛ちゃん、このまえ俊くんが家に来た時ね、私の作った料理を美味しいって食べてくれたの♡」

「へえ、良かったね」


 俊め、真美がこんなに尽くしてるのに、何で分からないかなあ。

 あの鈍感男!


「それでね、わざとキャミ一枚で出迎えたらね、俊くんったら、私の胸や腋をチラチラ見てたんだよ♡ きゃっ♡」


 やめてぇ! 弟のそういう話を私の前でしないでぇ! めっちゃ複雑だから!


「私の作った腋パイも食べてくれたし、もう俊くんは私色に染まっちゃったかな? うふふっ♡」


 へ? 腋? 何それ? キミは何を言っているのだい、マイフレンドよ。


「次は尻おはぎを食べてもらおうかな?」


 んん!? 尻……? おはぎ? 何で尻とおはぎが一緒になるんだい?

 真美って感性が独特だよね。


「えっと、尻おはぎって何?」


 また聞いてしまった。聞いたら後悔するって分かってるはずなのに。


「お尻で作るおはぎだよ」

「ブフォッ! ゲホッ、ゲホッ……」

「凛ちゃん、大丈夫?」


 思わずコーラを吹いてしまった。真美の返答が予想の斜め上を行っていたから。


「えっと、それ、どうやって……いや、何でもない」

「ん? 凛ちゃんも食べる?」

「わ、私は遠慮しとこうかな」


 可愛い仕草で首をかしげる真美に、私は丁重に断っておいた。

 いくら真美と親友だといっても、彼女のお尻で潰したおはぎは食べられないでしょ。


「私のエキス入りお菓子は、全て俊くん専用だよね♡ 俊くんはね、ずっとずっと、一生、私のエキス入り料理を食べて生きてもらうの♡ そうすれば、私が俊くんの中に入って体になるでしょ♡ これで永遠に一緒だよね♡」


 あああぁ! 真美のド変態が加速しているぅ!

 誰か助けてぇええええ!


「真美、ほ、程々にね……」

「うんっ♡ 安心して、凛ちゃん。こんなのまだ手始めだから♡」

「えっ、これで手始めなの?」

「うんっ、俊くんと付き合ったら、ぐちょぐちょの○○○で」

「わー! わー! 声、声抑えてぇ!」


 真美が突然下品な言葉を口にしたので、私は慌てて口を塞いだ。

 むしろ私の声で余計に注目を集めた気もしないでもないけど。


「んっ……ど、どうしたの凛ちゃん?」

「ほ、ほら、周りに人が多いし」

「ふふっ、凛ちゃんって、けっこう純情だよね。昔から下ネタばかり言ってるのに」

「そういう真美は、純情そうな顔してるのに、意外と積極的というか」

「私が積極的になるのは俊くんにだけだよぉ♡」


 でしょうね。真美って、他の男子には見向きもしないし。表面上は男子にも親切だけど、その実、うっすらと男嫌いを感じるというか。

 それに、イケメンから何度も告白されてるのに、尽く振ってるのよね。


「ねえ、真美。あんたが男子苦手になったのって、やっぱり小学校高学年の頃に……」


 私のその言葉で、真美は息を呑んだ。


「うん……あの頃の私、急に胸が大きくなったでしょ。男子から『乳でか女』とか『キモい』とかイジメられて……」

「真美……」

「でも俊くんは違ったの。そんな私を助けてくれた。真美姉ちゃんをイジメるなって。自分より大きな高学年男子にも、必死で向かっていったんだよ」


 真美は遠くを見るような目をする。


「俊くんはね、私の運命の人なの♡ あの時ね、私の心と体が震えて、もう俊くん無しじゃ生きられない体にされちゃったのぉ♡」


 そう言って、真美は下半身を押さえている。色っぽい吐息をしながら。

 いい話なのに何かエッチなんだよ! もうエッチなのを隠せてないでしょ!

 あああぁ、俊、早く付き合ってあげてぇ!


 ただ、俊と真美が付き合う想像をすると、何故かモヤモヤしてしまう。弟は誰にも渡したくないって。

 これが姉心か? ブラコンじゃないからな!

 それに、こんな調子の真美が付き合ったら、すぐに妊娠とか、学生結婚になりそう。

 うわああぁ、新たな問題がぁああ!


 私が頭を抱えていると、いつの間にか真美の目がわっていた。


「でも、計画が狂っちゃったな。あの万里小路さんまで俊くんを好きだったなんて」


 確かに真美の言う通りだ。あの万里小路さんの態度、明らかに怪しい。

 あんなに男嫌いな印象だったのに、俊の話をしている時だけ、まるで恋する乙女みたいな顔をしてるし。


「どうしよう……凛ちゃん。万里小路さんが本気出したら勝てないよ」

「真美……」

「だって万里小路さん、凄く美人だし」


 真美だって可愛いよ――と言いかけて止めた。

 だって、やっぱり小学校の頃の件があって、真美の自己肯定感は低いみたいなのよね。

 しかもあのクソ男子ども、散々真美にイジワルしておきながら、中学になったらしれっと告白してきやがった。

 もう何なのよ!


「真美、大丈夫だよ」


 私はそっと真美の手を握った。


「凛ちゃん……好き」

「私も好きだよ。って、百合的な意味じゃないけど」

「ふふっ、凛ちゃんってば、俊くんの趣味がうつってる」


 まあ、たまに弟の部屋に入って、勝手に漫画を読んでるからな。

 これも姉特権だ。


「よし、凛ちゃんも応援してくれるし、先ずは万里小路さんを倒さないと」

「でも物騒なのはやめてね」

「大丈夫だよぉ。正面から叩き潰すからぁ」


 だから物騒なのは勘弁してぇええええ!


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