第7話 デカいはNG、エロいはOK

 俺は黒森くろもり芽亜莉めありの破壊力に圧倒されていた。

 日本人離れした、スーパーモデルのように輝く金髪と大きな青い瞳。制服を突き破りそうな巨乳と、短めのスカートから伸びるムチムチの長い脚。全てが輝いている。


 驚くことに、先輩は俺より背が高かった。しかも見下ろされるくらいに。

 俺が平均くらいなので、先輩は確実に175センチ以上はある。


 ゾクゾクゾク!


 な、何だ、この感じ!

 黒森先輩に見下ろされるとゾクゾクする。俺はMじゃないのに。

 これが瑛理子先輩が言っていた女王の素質か!?


「キミ、どうしたんだい?」


 俺が黙っていたからなのか、黒森先輩は心配そうな顔になった。


「ここじゃ恥ずかしいよな。人の居ない所に行こうか?」


 そう言って先輩は俺の手を引く。

 教室では先輩女子たちがニヤニヤした顔で俺を見つめていた。良いネタだと噂するように。


「メアリー、後輩君を襲っちゃダメだよ」

「あはっ、メアリーの精力で襲われたら、後輩君の性癖が壊れちゃうって」

「襲わないよ! 食べちゃうかもしれないけど」


 黒森先輩は、冗談っぽく笑うと、俺を連れて廊下に出た。

 きっと俺を気遣ってくれたのだろう。人前で告白するのは恥ずかしいからと。告白しないけど。


「あの、先輩……」

「大丈夫だよ。告白されるのは慣れてるんだ」


 黒森先輩は親指を立てるジェスチャーでニカッと笑う。ボーイッシュな笑顔も素敵だ。

 てか、そうじゃないのに。完全に誤解されてるぞ。


「あの、告白じゃななくて……」

「いいからいいから。話だけ聞いてあげるよ」

「だから違っ……」


 この先輩も、人の話を聞かないタイプに見える。

 それにしても目のやり場に困るのだが。


 ブラウスのボタンは二つ外し、深い胸の谷間とブラがチラチラ見えている。

 それに、裸足で薄汚れた上履きに足を突っ込んでいるのが何と言うか。しかもかかとを踏んでいるし。


 素材は完璧なのに、ズボラな感じが玉にきずみたいな。

 そんな欠点も魅力的に見えてしまうのが不思議だけど。


「ん? どうかしたかい?」


 黒森先輩が俺の視線に気づいた。


「ふっ、キミはあれだな。根が正直というか。さっきから、あたしの胸や太ももをチラ見して」

「ち、違います!」


 違わないけど。


「照れるな照れるな。健全な男子なら当然だぞ」

「そ、それは、そうですけど……」


 しまった! もう俺が先輩の胸をチラ見してるの確定じゃないか!



「ここなら良いだろ。よし、話を聞こう」


 階段の踊り場まで行ったところで黒森先輩は立ち止まった。周囲に人はおらず二人っきりだ。


「今までは運動部の男子からの告白が多かったんだよ。後輩男子は初めてだ。ほら、あたしってデカいし金髪だし、怖がられているのかも」


 そう言って黒森先輩は髪を触る。


「えっと、後輩男子が告白してこないのは、黒森先輩が怖いからじゃないと思いますよ」

「そうなのかい?」

「はい、自分じゃ釣り合わないとか、美少女過ぎて近寄りがたいとかだと思います」

「な、なんだと……」


 頭を抱えて黒森先輩は考え込む。今まで気づいてなかったのか。


「しかしキミは告白してきた。キミならあたしを落とせると思ったのかい?」

「は? 違います」

「またまたぁ」


 何とか誤解を解かねば。俺は瑛理子先輩に頼まれてきただけだと。


「告白じゃありません! 黒森先輩には、女王様になって欲しいです!」


 あっ、間違えた。これじゃ俺がドMみたいじゃないか。


「へぇ……あたしが女王様ねぇ……」


 ゾクゾクゾクゾク!


 黒森先輩から形容し難い女王オーラが溢れ出た。

 腰の奥に震えが走る。まるで高い吊り橋から下を見た時のように。

 俺の体が、圧倒的女王感に反応しているんだ。


 あっ、これダメだ。

 瑛理子先輩、やっぱり先輩の言う通りでした。黒森くろもり芽亜莉めありは天性の女王様です。


 ダンッ!


 黒森先輩の腕が壁を突く。俗に言う壁ドンだ。

 水泳で鍛えているだけあって、しなやかな女性の腕でありながら筋肉もハンパない。しかも突き出た巨乳が近いときたもんだ。


「あ、あの、先輩……これは?」

「キミが言ったんだろ、女王様になって欲しいって」

「あれは間違えでして」

「つまり、あたしを女王様兼彼女にしたいと?」

「全然違います」


 ああ、ダメだ……黒森先輩の破壊力が桁違いだ。こんなの抗えない。

 色々デカくて凄くて。まるで肉の暴力だ。


 って、負けちゃダメだぁああああ!



「――――と、いう訳でして」


 俺は必死に経緯を説明した。

 危うく女王様に屈しそうだったが、ギリギリのところで踏みとどまった形だ。


「何だ、そうだったのかい。てっきり女王様になれると思ったのに」

「誤解です」

「後輩男子を椅子にしたり座布団にしようと思ったのに」

「普通に死ぬんで止めてください」


 水泳で鍛えたデカい尻で踏まれたら窒息間違いなしだ。


「てか黒森先輩って女王感ハンパないですね。さっきのセリフは取り消します。やっぱり怖いです」

「おいおい、さっきは『美少女過ぎて好きぃ♡』って言ってたじゃないか」

「好きなんて言ってません。捏造ねつぞうしないでください」


 この先輩も癖が強いな。

 瑛理子先輩に匹敵するレベルだぞ。


「そう言えば、キミの名前は……エムサキ……」

「Mじゃありません」


 ドンッ!


 黒森先輩は長い脚を伸ばし壁を突く。俺の退路を断つように。

 今度のは足ドンだ。


「あの、自己紹介は構わないのですが、何でさっきから壁を突くんですか?」


 俺は目を逸らした。先輩の下半身から。

 健康的でムチムチの太ももがスカートから伸びていて、エロすぎるのだ。


 黒森先輩は、俺の視線に気づいたようだが。


「キミの反応が面白いからだろ。そんな子犬みたいな目で見つめられると、こう体の奥がムラムラ……じゃなくゾクゾクするんだよ」


 あああぁ! 俺ってそんなだったのか!?

 やはりあの横暴な姉に躾けられ、女子に攻められると体が勝手に……。


「ほらほら、早く名前と住所と電話番号を言うんだ。逃げられないようにね」

「名前しか言いませんよ!」


 くっそ! 何どさくさに紛れて個人情報を聞き出そうとしてるんだよ!

 ガチで調教されそうなんだが!


「一年の大崎おおさきしゅんです」

「俊か、良い名前だね」

「ありがとうございます。ってか、いきなり名前呼びですか?」

「アメリカではファーストネームが基本だぞ」

「黒森先輩って、日本生まれ日本育ちですよね」

「バレたか」


 ペロッと舌を出す先輩が可愛らしい。ボーイッシュで体がデカいけど。


「先輩は一年の間でも有名人ですからね。男女問わずファンが多いですよ」

「そうなのかい? 嬉しいね。俊もファンなのかな?」

「違います」

「隠すな隠すな。そうだ、あたしのこともメアリーって呼んでくれて良いぞ」


 だからいきなり名前呼びはハードルが高いんだって!


「じゃあ黒森先輩で」

「ほう、このあたしに歯向かおうとするのかい?」


 ズズズズズ!


 壁を突いている先輩の足が徐々に上がってゆく。Y字バランスのように。

 当然ながら、短いスカートは捲れ……先輩の太ももの奥が露わに。


「み、みえっ、見える!」

「ほぉら、言わないとアタシの大事なとこが」

「言う! 言います! メアリ―先輩!」


 俺が名前を呼ぶと、メアリー先輩は足を下してくれた。

 ギリギリのところで下着は見えなかったからセーフだ。


「やっぱりキミは面白いな」

「面白くないです。俺はMじゃありませんから」

「ツンデレかな?」

「違います。デレてませんから」


 この先輩と付き合うと、色々なモノを全部抜き取られそうな気がする。全身から精気が漲ってる感じだし。

 サキュバスかな?


「そういえば部活サボってて大丈夫ですか?」

「問題ない!」


 即答したよ、この人……。


「せっかく才能が有るのに勿体ないですよ」

「才能が有るから練習しないんだぞ」

「とんでもない傲慢ごうまんさだよ!」

「ハハハッ、それは冗談だよ。本当はね、これ以上鍛えると肩幅が大きくなるだろ」

「は?」


 肩幅? 何言ってるんだ?


 メアリー先輩は指と指を合わせてモジモジする。


「だってさ、ただでさえデカいのに、これ以上筋肉質になったら可愛い服が着れないだろ」

「そんな理由ですか?」

「そんな理由とは何だぁ! 重要なんだぞ。ただでさえ服のサイズが無いのに」


 ええっ!? この先輩って、意外と乙女チックなのか? ギャップが凄いな。


「ふんだ、どうせあたしには似合わないって言いたいんだろ?」

「そんなことないです。メアリー先輩は美少女ですから」

「ふんす、ふんす! もっと言ってくれたまえ」


 メアリー先輩が嬉しそうに口角を上げる。ちょっと鼻息が荒い。


「メアリー先輩はモテモテです」

「ふんすふんす!」

「デカくてエロいです」

「デカいって言うなぁああ~!」

「ええっ、さっき自分で言ってたのに」

「あたしは良いんだよ!」


 メアリー先輩め、デカいはNGなのにエロいはOKなのかよ。


「それより文芸部ですよ。兼部してもらえますか? 水泳部の練習もあるから、たまに顔出すくらいでかまわないですけど」


 俺が軽く頭を下げると、メアリー先輩はズイッと前に出る。


「じゃあ勝負してキミが勝ったら入部するよ」


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