彼女との出会い

「おい、風太! 待て!」


小林さんの声が背後から刺さる。

でも振り返れない。

胸のざわつきから逃げるみたいに、とにかく前へ――。


前だけを見ていたせいで――


 ガンッ


「いたっ!」


長い脚をすらりと伸ばした 背の高い女の子とぶつかり、彼女がよろめいた。


「す、すみません!」


慌てて彼女の前で跪き、手を差し出す。

まるで王子様のように。


「大丈夫ですか?」


「……はい。ありがとうございます」


彼女は僕の手を取って立ち上がった。

その瞬間――

茶色のロングカールが光を受けて揺れ、バービー人形みたいに整った顔立ちが真正面から僕を見つめた。


大きな瞳。長いまつ毛。

すらりと伸びた手足。

圧倒されるほどの存在感。


なのに、その瞳がほんの一瞬で不安げに揺れた。


僕はまた走り出す。


「すみません!」


振り返る余裕なんてなかった。


彼女との出会いがのちのちあんなことを引き起こしてしまうなんてこの時の僕は、まだ知らない。

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