気が付いたら保健室
私が意識を取り戻したのは、あのスライム巨人誕生の翌日の昼過ぎのことでした。
気がついたらそこは保健室だった、ということは今までも何度かあるので慣れてきましたが、あんまり慣れたくないものですね。
私が目を覚ましたその頃には襲撃事件そのものが解決済みで、後は負傷者の治療等を含めた事後処理のみとなっていました。
被害状況に関しては死者はゼロ、私のように魔力切れで寝込んだ生徒が複数人いましたが、私以外は全員回復済みとのこと。
死者が出ず、また魔力切れ以外で意識を失った生徒がいないのは、聖女様のご活躍の賜物であるそうです。
彼女は事件解決後、というか解決前から負傷者の治療にあたり続けてくださっていたようです、本人は前線に出たがっていたそうですが。
とにかく、聖女のすごい治癒魔法のおかげで死者どころか怪我人はゼロ。
スライムの触手に刺された私のお腹も綺麗に治してもらっていました。
「……と、いうような感じで後は面倒な事後処理だけだ。君の学年も君が一番の重体で、君以外は回復してる」
と、忙しいだろうにお見舞いにやってきてくれた寮長は言いました。
筋肉バカは吹っ飛ばされて墜落後、その衝撃でメンタルが回復してその場でワーウルフの群れと戦っていた上級生に加勢。
撤退と応援要請を頼んだ爆破三連娘の真ん中と花吹雪は撤退後寮長と合流、気絶していた二人を仮設避難所 (寮)にぶち込んで、そのあたりで聖女から指示を受けて戻ってきたトープさんに私達の救援を頼んで、そのまま寮長に加勢。
吹っ飛ばされた後庭園の湖に落ちて気絶したドラゴン内臓愛好クラブ長はそのまま湖に浮かび続け、事件解決後に回収。
肉体的にも魔力的にも限界が近かった毒野郎と翅中毒はあの後聖女様の治療を受け回復、避難所に強制的にぶち込まれて、その後一晩休んだら魔力も問題ないレベルに戻ったとのこと。
魔力切れを起こしかけていた一人お化けは気を失った後二人と共に避難所にぶち込まれて、今日の朝に目を覚ましたそうです。
ちなみにあのスライム巨人との戦いに居合わせなかった他のメンツはそれぞれ活躍したりトラブルを起こしたりそもそも学内にいなかったりと、特に何事もなく無事であるそうです。
そして、トープさん。
トープさんは私がスライム巨人を鋼魔法で閉じ込めた後、ブチ切れたそうです。
そして全力の闇魔法で鋼の壁、ついでスライムを消し飛ばした、とのこと。
「そうですか、結局トープさんがあのスライムを倒してくれたんですね……逃げて欲しいって、頼んだつもりなんですけどねえ」
「逃げるよりも全力を出して倒した方がいいと判断したのだろう。その選択のおかげで死者が出ずに済んだ。トープ後輩が君の言った通りに逃げていたら、君は確実に死んでいた。ちゃんとお礼を言うんだよ?」
「……はい」
怒られるかもなあ、と思いました。
けど、あの場面であれ以上のことは私にはできなかったので、あんまり怒らないでほしいものです。
「さて、実は君に一つ話しておかなければならないことがある。本来なら君らの代が卒業するまで、というか卒業した後も秘されるべきだった事項だ」
「はい、なんでしょうか」
「君の命の恩人であるジル・トープ後輩……彼女の名前は偽名でね」
「はあ、そうなんですか」
「というかね、そもそも実は『彼女』ですらないんだ」
「はい?」
多分何を言っているんでしょうかこの人は、という声を出せていたと思います。
そうですか、当たってしまっていましたかあのトンチキな女装説が。
「彼女……いや、彼の本当の名前はアダマス・グラファイト。聖女を守る四騎士のうちの一人だ」
「彼女ではなく彼だったと……男性には見えませんでしたが……」
本当に美少女にしか見えなかったですし、私の記憶が喪失したままだったら男性なのではと私が疑うこともなかったでしょう。
それほどまでに彼女は完璧な美少女でした。
「ああ、そうだね」
「…………エレクトリックフェアリーブチ切れ案件ですか?」
寮長は重々しく頷きました。
つまり、なんらかの魔法を使用して姿を変えていた、と。
一番当たって欲しくない予想が当たってしまいましたか。
「……知りたくなかった、知りたくなかったんですけどそんなこと。というか何故私にそんな話を? 卒業後も秘すべきことだったのなら、本当に一生知りたくなかったんですけど」
「それがだね……スライムを倒すために彼女、ではなく彼が全力を出したと言っただろう? 彼は魔法道具を使って性別を変えていたんだけど、その魔法道具を使った状態だと力がかなり落ちるんだそうだ。体感で二、三割程度落ちると言っていたっけな。……で、あのスライムを倒し切るためには全力を出さざるを得なかった、だから彼はあの場で魔法道具を解除してその変身を解いた。その場に居合わせた一年生達はそれをしっかりと目撃して、愕然とした」
「あー……」
「というか君もその姿を見ているはずなんだけど、覚えはないかい?」
「え」
「スライムを倒した後、君は彼の声に反応して少しだけ意識を取り戻したという話だったけど……」
「……記憶にないですね。誰かの叫び声が聞こえたのはぼんやりと覚えているのですが」
あれ、夢じゃなかったんですね。
余計なこと言わなくてよかったです。
「そうかい。まああんな状態だったんだ、覚えていなくても不思議じゃない。……というわけで、寮生達にも本当の姿を見られたし、何より本人が嫌がっているからトープ後輩はそのうちグラファイト後輩としてこの学園に通う……かもしれない」
「というかそもそも、なんで女性のふりなんてしてたんです、あの人」
「警備的な問題、というか聖女様の冗談をきっかけにしたお国のお偉いさんの無茶振りだったらしい。うちの学園って寮が同じでも男子寮と女子寮は棟が違うだろう? それで聖女様と同じ寮になった四騎士は全員、女生徒として入学し聖女のそばでその身を守れ、って」
「あー……」
そして見事アダマス様だけが犠牲になったと。
お可哀想に。
「けど今回の件で何人かの寮生にバレたし本人も嫌がってるし、倫理的な問題とかもあるから女生徒として学園に通うのは流石にやめた方がいいのでは、って話になっているらしい」
「……なるほど、話は理解しました。……エレクトリックフェアリーには、どう説明するんです?」
「仕事だったから、で納得してもらえると思う?」
「無理でしょうね……どう説明しようとキレ散らかしますよ」
「だよねえ……どうしよう。だから嫌だったんだ……」
寮長は心底困り果てた悲痛な顔をしていました。
私も多分似たような顔をしています。
悲痛な顔の寮長はその場でしばらくうんうん唸り続けた後、暗い顔色で保健室を去っていきました。
恩人の役に立てずに申し訳なさでいっぱいですが、私にもあのエレクトリックフェアリーをどうにかする術は思いつきません。
私が目覚めた後、それから寮長が去った後も保険医は不在でした。
なんでも学園長から一般生徒には伝えられないお仕事とやらを頼まれたらしく、しばらく戻ってこないようです。
おそらくもう大丈夫だろうけど保険医が戻ってくるまで一旦待機を命じられた私は、そのままおとなしく保健室に残っていました。
他に利用者はいませんでした、私以外は遅くとも今日の朝に問題なしということで寮に戻されたようです。
やることもなかったので制服のポケットに入れっぱなしになっていたスマホを取り出して、友人達とニグルム寮内部生一年のグループチャットに『目が覚めました』と報告を送りました。
友人達からは『もう大丈夫なのか』と一斉に聞かれたので大丈夫だと答えつつ、友人達の状況を確認します。
ニグルム以外の寮生達は基本的に寮長や教員の指示のもと避難したため、全員特に怪我なく無事だったそうです。
ニグルム寮生以外で魔物の撃退に参加したのは寮長クラスの強者と一部の血の気の多いルブルム寮生だけだったようです。
ちなみに一番多く魔物が召喚されたのは我がニグルム寮、今更ですが今回の事件の下手人達の狙いは聖女様だったそうです。
だから、聖女様が所属するニグルム寮を中心に大量の魔物が召喚されていたそうです、魔物の対応で学園内が混乱している最中に聖女様を誘拐しようとしていたらしい、とのこと。
そんなふうに色々と教えてもらいつつ、あんまり無茶するなとお叱りを受けていた途中でドアをノックする音が聞こえてきました。
友人達に誰か来たからお話はまた後で、とチャットを送った後に「どうぞ」と声をかけます。
「はちのす、めえさました!」
「よー、蜂の巣。起きたって聞いて見舞いに来てやったぜー、ゾロゾロ来ても仕方ねーし邪魔だから、とりあえず内部生一年の代表でうちらだけ来た」
一人お化け屋敷と翅中毒でした。
その後の話を聞くと寮長から聞いていた通り、ニグルム寮の内部生一年の全員が命に別状なく無事でした。
「とはいえ、今回の件はしっかりトラウマになっちまったけどな。毒野郎が珍しく心の底から反省してるし、部長は自慢の人形が消えて呆然としてる。うちらもしばらくスライムは見たくない」
「すらいむやだ、こわい……」
一人お化けがプルプルと震えていました、かわいそうに。
まあ、私もしばらくスライムは見たくないです。
「筋肉バカだけが『なんたる不覚!!』って一人で逆に燃えて鍛え直してるけど、あのスライム巨人と戦って心も元気なのはあのバカだけ。うちも大事なコレクションをなくして、かなしい」
翅中毒は本当に悲しそうな顔でそう言いました、彼女がそんな顔をするのは珍しいので、結構こたえているのかもしれません。
「あとさー、話変わるけど……もう寮長から聞いたか?」
翅中毒がそんなふうに神妙な顔つきでそう問いかけてきました。
その隣で一人お化けが悲痛な顔で頭を抱えます。
「…………エレクトリックフェアリーブチキレ案件のことでしたら、さっき聞きました」
「……どうすればいいと思う?」
「どうしようもなさそうな気がしますね、せいぜい遠く離れた場所でカミングアウトしてもらうくらいしか」
「だよなあ……その前に寮内とかでバレないよう心の底から祈るくらいのことしか、うちらにはできないか」
「もうやだ……すまほ、ぶっこわるの、やだ……」
「うちのコレクションデータファイル……」
前回のフェアリーショックでやっと使えるようになってきていたスマホがぶっ壊れた一人お化けと、これまで集めた翅の記録入りのパソコンをぶっ壊された翅中毒の雰囲気はまるでお通夜のよう。
かくいう私も買いたてのスマホとドライヤーをやられたので、はたから見れば似たような雰囲気になっているのでしょう。
「なんっで、うちの寮に……よりもよってうちの寮に、あんなのが」
「りょーちょー、さいしょからしってた……しっててひっしにとめたけど……だめだったんだって……」
「……祈りましょう、私達が、私達の電化製品が巻き込まれぬよう、祈るしかないのです」
最悪寮内というか学内でなければいいのです、できれば人里離れた山奥とかならいいのです。
あんな大惨事に巻き込まれるのはもうごめんです。
「……というかそんな無茶振りした国の連中が巻き込まれればいいんだあの雷地獄に……全員黒焦げになって大事なデータ全部吹っ飛ばされればいい」
「このうらみ、はらさでおくべきか……」
絶望と怒りが混じった声色でした、私も翅中毒がいう通りになればいいなと思いました。
「……見てなかったから知らないだろうけど……蜂の巣があのスライム巨人を自分ごと壁の中に封じた時、あいつすごいブチ切れて……それで魔法道具解除して男になって……二重の意味で恐ろしくて、言葉が出てこなかった」
「ことしいちばんこわかった……けはいだけできぜつしそうだったし、えれのかみなりじごくがあたまいっぱいにひろがって……」
内部生一年のニグルム寮生二人が顔を青くさせてガタガタと震えていました、一体どれだけ恐ろしかったんですかあの人。
「そういえばはちのす、あのときなんていったの……?」
「あの時……?」
心当たりがなかったので首を傾げると、翅中毒が補足を入れてきました。
「あいつが壁とスライムを消し飛ばした後、ブチギレてるあいつの怒鳴り声に反応して少しだけ目ぇ覚ましただろ? そん時お前がなんか言って……それ聞いたあいつがさらにブチギレて、みたいな感じだったんだけど……うちらにはお前がなんて言ったか聞こえなかったんだよ」
「なにいったの、すごくすごくこわかったんだよ……」
青い顔の二人にそう問われますが、覚えていません。
何かを言った記憶なんてありません、私は一体あの時どんな譫言を言ってしまったのでしょうか。
「えぇ……? 全く記憶にないのですが……誰かが怒鳴ってたのと、トープさん似の男の人を見たような。それを見て、ああ夢かって思った覚えがある程度で……」
「覚えてねぇのか……なに言ったのか知らんけど、それ聞いたあいつ、ただ近くにいるだけで殺されるのかってくらいやばい気配になってたんだが」
「私は、いったいなにを……」
怖すぎません? なに言ったんですか私。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます