辺境 1


「ここが辺境……」


 エルミナがさりげなく茂みを掻き分ける。

 もちろん魔獣がいないかチェックしているのだ。


 レオンの表情には珍しく緊張が浮かんでいた。


「大丈夫ですよ。仲間に紹介……」

「――っ!」


 レオンが魔法陣を描くことなく魔法を放った。魔法は飛んできた矢を弾き消えた。

 こんな芸当ができるのは、王国広しといえども彼くらいだろう。


「アラン!」


 ウォルターが強い口調で名を呼ぶと、浅黒い肌に黒髪の子どもが飛び出してきた。


「戦うこと、できない王子って聞いていたのに」

「……」


 レオンは怒ることもなく少年を一瞥しただけだ。

 攻撃までされたのに寛容だとエルミナは感心した。


「シルフ卿、貴殿の子か?」

「いや、彼は……」

「それなら、手加減は不要か」


 レオンの足下に強大な魔法陣が構築されていく。


「レオン様……待って下さい」

「君にも危険が及ぶかもしれなかったのに?」


 エルミナは理解しつつあった。

 普段は冷静沈着なレオンが冷静さを失うときは、エルミナが関係しているのだ。


「……あの子からは、魔獣の気配がします」

「は? どう見ても人だろう」

「でも、するんです……」

「危ないっ! 不用意に近づくな!」


 だが、少年はエルミナをボンヤリと見つめ身動きする様子もない。


「どうして攻撃してきたの?」

「……みんな言ってた。数十年前に王族来たとき、たくさん仲間が死んだって」

「……そう。でも、レオン殿下はお強いから、あなたたちを守るわ」

「うん、強い。……もしかして王子殿下、ウォルター様より強い?」

「ウォルター、様?」


 ウォルターがゆっくり頷くと、アランと呼ばれた少年は膝をついた。


「父上っ!」


 走り寄ってきたのは、ウォルターに良く似た年若い男性と女性たちだ。

 彼らは八人……ウォルターの子どもたちであろう。


「おかえりなさいませ。こちらの方が第三王子殿下ですか?」

「ああ、そして今日から我らが使える主君だ」

「と……いうことは父上よりお強いのですか?」


 一番年若い青年は、レオンと同い年くらいだろう。

 旅の間ウォルターの実力を見る機会はなかったが、恐らくとても強いのだろう。


 集まってきた住人たちも、ウォルターをはじめとした五人の護衛、そしてウォルターの子どもたちとアランが跪いている姿を見るや次々跪いた。


 ――辺境には魔獣みたいな気配の子どもがいる。そして強さが何より尊ばれる。それはきっと強い魔獣がいるからだろう……検証を続けなくては。


 エルミナの手記にはそのように書かれている。そして、そのあとはひたすら宴で出された魔獣のお肉について書き連ねられている。


 ほどよい脂身と赤みのうま味。

 噛みしめると口の中に広がる肉汁。

 もう、他の肉は食べられそうにない。


 魔獣の肉を食べる文化は、現在でも当時の辺境あたりに残っている。

 美食家を名乗る者たちが、いつかは辺境で魔獣の肉を食べてみたいと憧れるのは、エルミナの手記の影響だろう。

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