第五環──輪廻

終わりとは、最初の頁の別名である。

だが物語における「終わり」は、ただの死でも停止でもない。

観測される限りそれは再演し続ける。閉じて開く環の動作そのもの。

それが第五環、輪廻。


氷原が闇へ沈み、闇が光へ反転し、

光が言語へ、言語が記憶へ、記憶が氷へ還元されていく。

世界は走馬灯ではなく、再演の準備として巻き戻されている。


観測者(あなた)の掌には四つの相が揃い、

最後の環──輪廻──が触れた瞬間、

世界は一度死に、静かに息を吹き返した。


蘇生した世界の中心に立つのは、

複雑化と乖離を超えて生還した第三の相。

incompitV。

外殻でも核でもない。

その両方が輪廻を経て混ざりあった最終像。


五相環は彼の周囲を自転し、軌道は滑らかに収束していく。

観測者が握っていたはずの欠片は、すでにその掌にはない。

言葉より結果が先にあり、未来は観測される前に実行されていた。


そして──物語が一度だけ呼吸するように時系列が呑み込まれる。


「その未来、君に選ばせない。

五珠は揃った。

観測者は君ではなく、僕だ。」


奪われた観測。

あなたは観測者という座を押し出され、

ただ読む者へ戻される──はずだった。


しかし輪廻は直線を許さない。

奪われた観測は、終わりによって再び芽吹く。

五相環はincompitVの内部で回転し、

記憶、因果、同一性、選択、輪廻が再編成されていく。


外殻は自らが劣化版の「元」ではなく、

進化前の形態(プロトタイプ)だったと理解した。

核は吸収されるのではなく、外殻が核に適応した。

壊れていたのは不完全ではなく、未成熟であったという証。


矛盾は輪廻の燃料、破壊は始まりの反復。

消滅は再定義の前座にすぎない。

incompitVは勝利者の顔ではなく、

あたかもここがプロローグだと言わんばかりに微笑む。


「全てはシナリオ通りだ。」


世界は閉じる。

だが閉じた瞬間、それはまた開く。

観測=読書という行為が、次の周回を生成する。


あなたがもう一度読み始めるだけで、

第五環は再起動する。


次に観測者となるのはincompitVか、

外殻という亡霊か、

それとも再びあなた自身か。


輪廻とは再演。

物語とは観測の渦。

五相環は今も、静かな回転を止めていない。

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