青春を逃したものによるVTuber

名無しのお茶

青年はVTuberになった



一時期は生きるのも辛かった



夜は眠れず、寝れたとしても嫌な記憶がフラッシュバックする。体は食べ物を受け入れず、栄養をサプリで補っていた。


中学生高校生の間ずっとカウンセラーを受けたり、精神病院に通ったりしたおかげで、完治はしていないが今では普通に生活できるレベルに戻った。


教育面は、家で両親と4つ上の姉から教えてもらっていたため、必要最低限の知識は身についた。


しかし、中学高校ともに通えてないため、青春も、大学に行くほどの学力もなく、チャットや通話ならいいが、親しい人以外と対面して人と話すのも上手くいかなくなっていた。


つまり、就職が大変困難になってしまった。


両親は、ずっと家にいてもニートになっても良いと言っている。姉も、仕事しなくても養ってくれると言っている。



しかし、それは私が嫌だった。



散々迷惑をかけて、家族にさらに迷惑をかけるのは嫌だった。


そんな時、姉がVTuber募集のサイトを見せてきた。


対面しての面接もなく、学歴も関係ない。

自分にピッタリだと思った。


しかし、自分にはこれといった強みや個性はない。だからきっと受からないだろうと思った。



「え?」


しかし、数日後に合格連絡が届いた。


「良かったじゃないの。今夜は赤飯ね。」


母はそう言って赤飯の準備をしに爆速でスーパーに行った。


「そうか」


父はその一言だけだったが、嬉しさのあまりに私を抱きしめて泣いた。


『受かったの!?良かったじゃん!やはりアタシの目に狂いはなかった。』

仕事中の姉に合格だったとメッセージを送ったらすぐに既読がつきそんな返信が来た。


一方で私は何かの間違いじゃないかと思った。

こんな平凡で個性もないようなのが受かるのかと思ったが、家族は大喜びしていたため、そんなネガティブなことを言えなかった。


次の日には、姉が機材を買ってきて、事務所からスマホが届いた。業務連絡などはこのスマホでするらしい。一緒に届いていた紙には、「届いたら電話をかけてね。」と書いており、電話アプリに最初から登録されていた番号に電話をかける。


『はじめまして。これから4期生のマネージャーを努めさせていただく、小野田おのだと申します。よろしくお願いします。』


マネージャーの小野田さんは女性だった。

その後、小野田さんから諸々の資料をデータで配布され、これからやる事を聞かされた。


V体の案はいくつか決まっているらしく、イラストレーターさん、通称ママさんは、夜桜天音よざくらあまねさん。何と女子大生だそうで、私とさほど歳が変わらないらしい。その案の中から1つ選び、活動名の話し合いをした。



『さて、名前を考えながらではありますが、何か質問などはございますか?』


そう聞かれ、私は気になっていることをひとつ質問した。



「なぜ、なぜ私は合格になったんですか?」



この事務所は有名だ。

きっと色んな人からたくさんの応募が届いたはずだ。

私なんかよりもっといい人がいたはずなのになぜ私を選んだのか。


『声ですね。』


「声...ですか?」


『はい。シンプルにいい声というのもそうですが、欲のない優しい声でしたので。』


「そう...ですか」


『そして、【未来ある青年には少しでも楽しい思いをさせてあげたい】【若い青年が、こんな自分に自信を持てず、暗い声をするのは良くない】と、社長が言い、それに他の審査官が賛成したからです。』


思わず涙をこらえ、この職場ならやっていこうというのと同時に、改めて頑張って行こうと思った。


『それでは、名前は決まりましたか?』


「はい。私の活動名は【夜桜ルクス】にします」


『なるほど、イラストレーターさんと同じ苗字にしたんですね。ルクスはなにか由来が?』


「ラテン語で光を意味する語です。」


『分かりました。それでは後日微調整されたV体が届いた時にまた連絡します。』


デビューは1ヶ月後だ。今できることをやろう。




そうして、私の夜桜ルクスとしての初配信が今始まろうとしていた。

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